王様の息子と魔王の娘と
今度は王子の説得だ。
元々、王子はアリスのことは気にかけていたので、アリスほど強情に突っ張ったりしないだろう。
そもそも、男いうものは、妹であれど女の子には甘いものだ。
ソースは俺。俺は極端かもしれないけど。
王子はというと、ロロちゃんが剣をやたらめったら振り回してるのを黙って見ていた。
やたらめったらと言っても、ロロちゃんは致命的なほどに体力がない上、力も弱いので、フラフラして剣に振らされてる感じだ。
危なっかしいな。
多分、王子も近くにいると危険だとわかってるために、少し離れた位置から見てるんだろう。
「口出ししないのか?」
「初めてって言ってましたし、とりあえず好きなように振らせてます。でも、あれは……」
「振らされてる、だな」
その通りです、と王子は頷く。
ウィナの講座を受けてから、いきなり武器の練習してると怒られそうだが、別に武器を使うことを咎めるわけではないので、こうしてロロちゃんにも経験を積ましてあげてるということだ。
俺と、王子は剣を主に使用しているが、別に剣しか武器がないというわけではない。
女の子が使うには剣は重たいしな。
それでなくても、武器というのは全般的に重い。
だから、女の子の場合は魔法に特化するとか、なるべく軽い武器で手数を増やして戦うかというのが主流となる。
「王子のやつだから重いんだろ。俺の剣だったらどうだ?」
「構わないですが……それ、剣と言うより木の棒でしょう。木刀と言うにも程遠いですよ」
「だからお前の親父のせいだって。もっとも、最初は鍬だったんだけどな……」
「父上はいったい何を考えてるんでしょう……」
「こっちが聞きたい」
その鍬も分解されて、今は木の棒だ。そういや、あれどうしたっけ?まあ、その辺に転がってても問題はないだろう。誰かが鉄を再利用してくれるさ。
「おーい。ロロちゃーん」
「うーん。あ、ソード」
俺の声に気づいてこちらへ寄ってくる。剣を持ち上げるのにも、重たいのか引きずってる形だけど。人からの借りもんをそんなぞんざいに扱うなよ。
「どったの?」
「いや、まあ色々言いたいことはあるが……。それだと重いだろ。俺のやつ……いや」
一つ心当たりを思いつく。あれなら、ロロちゃんでも使えるんじゃないだろうか。
俺は、王子の肩に手をおく。近づく第一歩だ。
「なんです?この手は?」
「アリスがな。様々な形態に変化できる武器持ってんだ。ちょっと借りて来てくれ」
「なんで僕なんです?ソードさんが借りてこればいい話でしょう?」
「いや、お前のところに来たのは別にロロちゃんの様子を見に来たわけじゃない。アリスのことを話に来たんだ。これも一つだって思えばいい」
「しょうがないですね……。向こうが拒まなければいいんですけど」
「ま、借りるぐらいいいだろ?どうせ、アリスが持ってるのも城から持って来たもんだろ。ロロちゃんが使うって言えば貸してくれるさ」
「まるで、僕が使うと言うと貸してくれないみたいな言い草ですけど……。あなたもとんだ水差し名人ですね。途端に行く気なくなりましたよ」
「まーそー言わずに」
俺は王子の背中を押してやることにする。
妹相手に怖じ気つくもんじゃない。
王子も足取りはゆっくりだったが、向かって行った。
「で、私はどうすればいいんですかね?ソード」
「ちょっと休憩だな。重かっただろ」
「うん。ソードやスターはよくあんなの振り回せるね」
「そりゃ、ずっと使ってきたからな。剣はある程度は形状は似通ってるし、ああいう大量生産品ぐらいは使いこなせるさ」
「大量生産品?ということは、一つしかないものとかもあるの?」
「そりゃあるわな。俺だって、唯一と言われた剣を昔は使ってたし」
「なるほど、それを取られたと」
「うん……旅の目的にそれも加えていいかな?」
「先に世界が侵略されないといいけどね」
むしろ、魔王よりセドのほうが、魔王のようにも思えてきた。しかも、何処かに雲隠れしてるし。
王子は説得に手間取ってるのか中々戻ってこない。
俺は、地面に大の字で寝転がることにした。
空は快晴だ。雲も穏やかに流れている。
ただ、そこに異物があるとすれば、浮遊城の存在だ。あそこに魔王がおり、俺たちの旅の目的となっている。
その目的の娘もここにいるけど。
その娘であるロロちゃんは突っ立ってるのに飽きたのか横で寝転がり始めた。
「暑くないか?」
「まあ、フード被ってるし、蒸されてるという意味では暑いけど、日光に当たってないからだいじょー……」
「ロロちゃん?」
「…………」
返事がない。
横になったのも、ただ寝転がりたかったんじゃなくて日に当たりすぎで日射病の類だとしたら……。
「ロロちゃん。聞こえるか?魔法出せるか?」
「あ……う……無理っぽ……」
途切れ途切れの言葉ですでに力が入らないことが証明されている。
「分かった。ウィナのところまで連れてってやるからちょっと我慢してろ」
「…………」
すでに意識を失っていたが、背中に背負って、走り出す。
体がだいぶ熱い。
何かで冷やさなければ。
自然に体温が下がるのを待っていては遅い。
ウィナたちは約50mほど離れた位置にいた。
「あれ?ソード、どうしたの?」
「ロロちゃんが大変だ」
「ロロちゃんが……?うわ、顔すごく赤いよ!」
「多分日に当たりすぎだ。木陰まで行って、氷魔法で冷やしてやってくれ」
「それと、王子。ちょっと来い」
「は、はい……」
「お、お兄ちゃん。私は……」
「アリスは……ウィナと一緒にロロちゃんのところにいてやってくれ。俺たちが看病するよかマシだろ」
「う、うん」
アリスは先にロロちゃんを連れて行ったウィナを追いかけて行った。
その場で王子は立ち尽くしている。
「す、すいません。僕がずっと見ていたのに全然気づかなくて……」
「いや、別に責めるわけじゃねえよ。どうせ知らなかったろうし」
「知らなかった……?何をですか?」
「ロロちゃんな。あの子、魔王の娘なんだ」
「は……?はは、また面白い冗談を」
「別に伊達や酔狂でこんなこと言ってねえよ。日に当たって頭が狂ってるわけでもない。自己申告だけどな。魔王の娘。本名ロロ・アークハルト」
「な、なぜ。魔王の娘と一緒に旅なんてしてるんですか」
「もっともだな。実は最初に俺はあの子に襲われている。力が弱いからどうしようもなかったんだけどな。どうせ、何も出来ないだろうし、行き先は一緒だから旅してんだ」
「なんかイマイチ腑に落ちませんが……」
「ま、別にいいさ。だから、というわけでもないかと思うが、日の光に弱いんだ。だから、基本的に頭にフード被って、頭全体を覆うようにしてんだ」
「で、でも今日だって別にフードをとってはないですよね?」
「……多分、元々そこまで体が丈夫じゃないか、出来上がってないんだろ。俺たちみたいに動いて、同じように攻撃ができるわけはなかったんだな」
「……これからは気をつけます」
「辞めるって言わないんだな」
「折角、教えてあげると言った手前ですから。今度は彼女のこと考えた上でやることにします」
「そっか。なら、今度からは夜にしとけ。せめて、日が沈んでからだな。俺もここまで弱いとも思ってなかった」
「ソードさんは教えなかったんですか?」
「今の俺じゃ教えられないからな。知識だけじゃ剣技はどうにもならん。ちゃんと動かせないとな」
俺は、木の棒を一振りして、王子の顔面で寸止めする。
「何の真似ですか?」
「向こうがどう思ってるか分からんけど、俺はあの子のことが好きなんだわ。ちゃんと、見てやれよ」
「……任せられた以上はやってやりますよ」
「ああ、あと」
「どうしたんです?アリスのことですか?」
「今日からしばらく、お前ら2人で寝ろ」
あからさまに怪訝な顔をして、そこから驚愕したような顔になる。面白いなこいつ。表情筋が発達している。そんなとこ発達してようが俺には関係ないが。
「ちょ、待ってください!ソードさんはどうするんですか⁉︎」
「俺?ウィナとロロちゃんと川の字で寝る。ちゃんと許可はもらった」
「あなたの根性には頭が上がりませんよ」
「はは、そう褒めんなよ」
「ぶっちゃけ皮肉です」
「あら、そうなの」
「……多分、見に行ってもやることはないでしょう。少し、話をしませんか?」
「なんか話すようなことがあったか?」
「王族とは何か。ってことです」
「……それ聞けば俺も王族になれる?」
「いや、なれませんが、多分聞いたら嫌になりますよ?」
「ならいいや」
「引き下がるのも早いですね。まあ、いいんですけど」
王子はアリスたちとさらに距離を取るように離れる。
適当な木陰に腰を下ろすと、語り始めた。




