兄妹仲
俺には兄弟がいないのは前述の通りだ。
一人っ子でも別に他に兄弟が欲しいとは思わなかったけど、兄弟を見ていると、少し自分をそこの立場に置いて考えたりはしたことはある。
もっとも、兄妹みたいに育った幼馴染のおかげで、そんなことを考えるのは、ほんの一時であったが。
あちらこちらへ、親に連れてかれて、ほとんど構ってあげてないお兄ちゃんだったけどな。
会うたびに、いつ帰ってくるのというのは定番になりつつあった。
俺だって、出来ることなら一緒に学校に通って、普通の青春を過ごしたかったさ。
ただ、勇者として宿命づけられていたらしい俺は、来る日も来る日も修行の日々だった。
幼い頭では、勇者=かっこいいというものだから、自分が勇者となれるものなら努力するだろう。
後に、平凡な日々を過ごしたかったと少し後悔するのだが。
非凡な日々と言うなら、我が国の王子と姫もそれに当たるだろう。
日がな英才教育を受け、王族にあった習い事を修練する。
さらに言うなら、立ち居振る舞い、所謂マナーの類も一般人が嫌になるほどやらされているのだろう。
なぜ、普通の人が嫌になるようなことを、やってる人は我慢が出来るのか。
その答えは簡単だ。
普段から常にやっているから。
それが当たり前だと、認識しているから、常人にとって嫌なことも平然とこなしてしまうのだ。
幼少の頃から積み上げたものだが、そうなれば、同年代の子供達より当然能力は秀でてくる。
そして、周りの人たちは持て囃すのだ。『天才』だと。
むしろ、出来る側としては、なぜ出来ないのか理解に苦しむことだろう。なぜなら、出来ることが『当然』なのだから。自分としてはマジックや手品を使ってるわけでもない。
ゆえに、同年代と歯車は噛み合わない。
自分が一番優れているのだから。しかも、それが突出し過ぎてしまっている。
尊敬され、頼られることはあっても、内輪に入っていくことは出来ない。いつも、外で来てくれるのを待つのみだ。
ウィナはコミュニケーション能力が高かったみたく、俺がいなくとも、自分が秀で過ぎていても、友達はそれなりにいたようだけど。
ウィナに関しては、親はまあ、勇者と一緒に旅してたという箔はついてるけど、立場的にはそこまで変わらないのがまだ功を奏したのかもしれない。
あいつらは、王族というのがさらに大前提にあったからな。
釣り合いの取れる奴がいなかったんだろう。
友達のいない学校生活というのはどんなものなのだろうか。
そもそも初等部ですらほとんど行ってなかった俺がとやかく言えた義理ではないのだが。
王子は、だから、同年代の俺との剣の修行が一番楽しそうだったらしいし、姫はそれを見ていたから、俺に間違った恋心を抱いているのかもしれない。そもそも、自分に構ってくれる同年代の子供が俺か、ウィナしかいなかったのが問題なのかもしれない。
なら、釣り合いの取れるようにそういう子供がいるところに行けばよかったじゃないかと言われそうだが、うちの国は学校は一つしかないのだ。そもそも、国と謳っているが、小国もいいところで、人口は千人もいればいいところなんじゃないだろうか。
だから、学校は一つで事足りるし、釣り合いの取れるような立場は他にはないと言っても過言ではない。
さて、俺が何を言いたいかと言うと、あの兄妹は本来は互いに手を取り合うべきなのに、取り合う気がさらさらないことが問題だということだ。
もっとも、人口がもっと増えて、王族に近い立場のやつが増えれば問題はないのだが、そう簡単にうまくいく問題でもあるまい。
なぜ、この国が国として成立してるのかが謎なところだ。
逆に小国すぎて対立国がないか、俺のような勇者の存在が抑止力になっているか。
今現在、あの兄妹が何をしてるかと言えば、アリスはウィナと、スターはロロちゃんと一緒にいる。
何をしてるかって、アリスは魔法の強化練習。スターは武器の扱い方をロロちゃんに教えてるようだ。
俺は何をしてるかというと、ウィナに頼まれてどうにかして、あの兄妹の仲、仲良くとまではいかなくても、信頼するぐらいの関係にはしないといけない。
ただ、積み上げられた隙間はとても深いようだ。
二人でいれば喧嘩するし、他の時間は顔を合わせようとしない。
まあ、アリスの方が一方的に壁を作ってるという言い方もある。
アリスは、王子の何が気に入らないのだろうか。
直接問い質しても、きっと言葉を濁すだろう。
ただ、会う前には少し心配してる様子もあったのに、いざ会ったらこれだしな。どうしようもない。
ただ単に2人を付き合わせても、どちらかが小言を言い始めて、結局招集がつかなくなるだろう。
何かイベントがあればいいんだが……。
「ソード」
ウィナが休憩をとったのか、俺のところへ近寄って来た。
アリスのは疲弊し切ってるのか、木陰で木にもたれかかっている。
「なんか思いついた?」
「まあ、なんかイベントがあればいいんだけどな。うまいこと分断出来るような感じの」
「どんな感じに?」
「理想としては、あそこの兄妹にロロちゃんを加えて、俺とウィナで別れるのが理想かな」
「2人だけじゃダメなの?」
「2人だけじゃ喧嘩するだけが関の山だ。なら、お互いによく知らない第三者のロロちゃんを入れればうまく中和が取れる……と思う」
「せめて、確証を持って言おうよ」
「あとは野となれ山となれだからな。どう転ぶかは結局あいつら次第なんだし」
俺たちは手を貸すことはできるが、その先の解決は本人の問題だ。
お膳立てしても、失敗する可能性はないとは言えない。
「ウィナはあいつらどう思う?」
「別に嫌ってるってわけじゃなさそうだけど……お互いがお互いを気にしすぎなんだと思うよ」
「だよなあ。俺もそう思う。もっとも原因は俺だと思うんだけどさ」
「何で?」
「アリスは俺のことが好きだから、少しでも一緒にいられるように旅してると思うんだ。王子は、俺は仮にもあいつの師匠だったから、実質一番頼ろうとすると思う。そうすりゃ、アリスより王子の方が連携取ると思うし、かといって王子はこのままアリスが旅してるのをあまりよしとしてないし」
「ていっ」
「いてっ」
後ろからチョップされた。地味に痛い。俺の頭の装備はないのだ。何なの?農家ですらないやん。
「自惚れ過ぎ……と言いたいけど、事実も混じってるから一から十まで否定はしないけど……やっぱり、嫌でもなるべく長い時間2人を一緒にいさせなきゃ」
「じゃあ、どうする?俺とウィナが交代であいつらの監視でもするか?」
「私が言っても、あまり聞かなさそうだし、ソードだともっと聞かなさそうだし、ロロちゃんは論外だし」
ロロちゃんは、アリスのことは多少知っていても、王子のことは知らないに等しいだろう。ただ、あの子には天性の人に懐く能力を持っているので、剣を教えてもらってるようだが。
カインとアベルの世話をしていたところを見ると、王子は子供が好きなのかもしれない。ロロちゃんの実態は120才らしいけど。誰も証明出来ない。誰か12才ってことにしてくれない?無理?
多分、王子のあれも、アリスに構ってやれなかった分の反動なのかもしれない。
今、こうしているのだから、構ってやればいいというのに、それはなかなか出来ないことなんだろうか。
「構ってほしい、構ってあげたいより、恥ずかしいんだろうね。兄妹だと」
「そんなもんなのか?」
「じゃあ、ソードは例えば私と兄妹だったら、結婚しようと思う?」
「全然問題ないな」
「己のサジ加減で言ってんじゃない。一般的な倫理観で言って」
「と言われても、俺もお前も兄弟なんていたことないから、あいつらの気持ちなんて分かんねえだろ」
「それはそうだけどさ……」
少し落ち着いたのか、今度はアリスがこっちに寄って来た。
いつまでも戻ってこないウィナの様子を見に来たのだろう。
「何の話してるんです?」
「まあ、せっかくこうしてパーティ組んでるんだ。お前たち兄妹が仲良くしてほしいと思ってな」
アリスは、見てわかるように、顔を曇らせる。
「別に今すぐってわけじゃない。でも、これから先、関わりたくないって拒むわけにもいかんだろ。まあ、2年ぶりだし、距離の取り方がわからんかもしれんけどさ」
「仲良くしなくても、やってくと言うなら、どちらかがパーティを抜ければいい話なんですけど、台所事情を考えればどちらも抜けれないし、お兄ちゃんも元々兄様をパーティに引き入れる気で修道院に向かったんでしょう?」
「そうだな。手っ取り早く、近接攻撃ができて、有る程度力が望める奴って言ったら、すぐに頼れる奴があいつぐらいだったからな。まあ、まさかアリスがついてくるのは予定外だったけどな」
「私だけ置いてけぼりなんて嫌だもん……」
「……そうだな。アリスも仲間だ。今更外そうなんて無理だし、だからこそお前ら兄妹は仲良くやってほしい。お前らが顔合わせるたびに喧嘩してちゃ、こっちも疲れる」
「でも、お兄ちゃんの言うとおり、距離の取り方が分からないんです。元々があまり仲良くなかったっていうのもありますし、お互いに非干渉だったし……そもそも、男と女の兄妹で同じように仲良くできると思いますか?」
「創作物では、妹が兄に恋心を抱いてるのは定番なんだがな」
「いや、ありえませんから。血が繋がってたら、自分と同じ血が流れてる相手に恋心を抱くことは少ないとちゃんとデータも出てます。一部例外もいるようですけど、私たちはその例外に漏れません」
「なら、なんでお前は俺のことを『お兄ちゃん』なんて呼ぶんだ」
「私はお兄ちゃんに『兄』としての偶像を描いてるんだと思います。でも、やっぱりそれは偶像でしかなくて、兄ではないんです。かといって、兄様がお兄ちゃんみたいになってても気持ち悪いですから、やっぱりあのままでいいんですけど」
今のアリスの言い分では、王子が俺のようになったら気持ち悪いということは、裏を返せば、今の俺が気持ち悪いという評価に繋がらないか?深読みしすぎ?
まあ、そんなことはないと信じて、アリスに問うことにする。いや、俺の評価ではなく。
「アリス、どうしたら王子と喧嘩なく接することが出来るんだ?」
「くっつけなければ喧嘩することもありません」
「よし、今日は兄妹水入らずで寝かせるとするか~」
「やめてください!それにウィナちゃんとロロちゃんはどうするんですか⁉︎」
「ロロちゃん間に挟んで川の字のでいいんじゃね?」
「別に構わないけど……」
なんか意外にあっさり、OKしてくれた。多分、ロロちゃんも拒むことはないだろうし、ウィナも多少は犠牲になろうと思ったんだろう。
……俺と寝ることは罰ゲームですかね?
「というわけで、アリス続きやるよー。ソード、あとよろしくね」
ウィナはアリスの首根っこを捕まえて、王子&ロロ組の反対側へと向かって行った。
さて、次は王子の説得と行きましょうかね。
アリスは半ば強引に……どころか、強制的だな。
細かいことは気にするな。瑣末な問題だ。
少なくとも俺にとっては……。
とりあえず、うまくいくことを祈るとしますか。




