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魔王拾いました  作者: otsk
修道院編
33/145

姫の決意と王子の思惑

 結局、夜通し起きることはなく、また朝を迎えた。

 カインとアベルは、目覚めたが、王子は起きる気配を見せない。

 一応、事情聴取のためカインに話を聞いてみることにする。


「おはよう、カイン」


「…………おはようございます」


「俺が誰だか解るか?」


「ソードさんですよね?大丈夫です。解ります」


「お前はここ半年間の記憶があるか?」


「ええ。なければ、あなたの名前も知らないと思いますし。ご迷惑をかけたといえば、そうなっちゃうんですかね?」


「いや、別にお前は自意識を保ってたし、所謂深層意識って奴かな。お前の心に悪魔の片割れがいたんだ」


「悪魔……。いったい、どこで……」


「覚えてないのか?」


「分からないです。でも、ここへは誰かに言われてここへ来たんです。それが誰かも覚えてないですけど」


「……ま、お前が無事ならそれでいい。これから、他の子供達と遊んで、勉強していくんだ。出来るか?」


「今まで、自分から拒絶してきたのに、受け入れてくれるんでしょうか?」


「徐々にやっていけばいいさ。お前は1人じゃない。アベルと一緒にやって行け。困ったことがあったら、院長に相談するんだ」


 俺はまだ少し寝ぼけ眼の、アベルを引き寄せる。

 頭がうつらうつらしているので、少し抱きかかえて、カインの隣に座らせる。

 ちなみに女子三人は客室に戻って睡眠をしています。徹夜で俺が看病してました。

 カインとアベルにあまり影響が見られないのは、力をそこまで使ってなかったからだろう。それこそ、身体だけを借りていた状態だ。

 だが、王子は意識まで完全に乗っ取られていた。

 その時間は短かったとはいえ、やはり何かしら影響を受けているのかもしれない。


「スターさんは起きないんでしょうか?」


「まあ、起きるまで待ってるさ。そろそろあいつらも来るだろうし」


 言い終えると同時に外からノックの音が聞こえた。


「噂をすれば影ってな」


 俺は扉を開く。

 ただ、確認できた姿は一人足りない。


「また、ロロちゃんは一緒に来てないのか」


「昨日遅かったし、あの子朝弱いし、寝かせてあげようよ」


「朝はおろか、昼も弱いんですがそれは?」


「そ、ソードよりマシってことで」


 俺を比較対象に出すんじゃない。目の前に本人がいるのに、それはあんまりではないでしょうか?

 その後ろでは、まだ眠たいのか、アリスが欠伸をしていた。


「アリス、眠いならまだ寝てていいんだぞ?別に今すぐ出発するわけじゃないし、ロロちゃんも寝てるし」


「いえ、一応、あれでも兄ですので様子ぐらいは親族の私が見ておかないと」


 イマイチここの兄妹はあまり仲がよろしくないようで、あくまでアリスが見に来たのは、一応自分の体裁もあってのことだろう。

 逆に、アリスは王子が自分のことをどう考えてるのかを知りたいのかもしれない。

 しかし、その肝心の王子は今も眠りに着いたままだ。


「無様なものですね。自分を偽りながら生活して、少し心が乱れたぐらいで悪魔に取り入られるなんて。まあ、兄様らしいといえば、兄様らしいと言いますか。昔っから……」


 なんか、寝ているやつ相手に説教を始めたぞ。今までの鬱憤でも晴らす気か?

 王子、夢の中でうなされるんじゃねえのか?別の意味で。


「アリス、それ長くなりそう?」


「ウィナちゃんは黙っててください」


 ウィナに対してまでこの高慢な態度とは。随分熱が入っているようだ。ここまでくると逆に王子のこと大好きだろ、アリス。

 アベルに至ってはなんか飽きてまた寝ちゃったし。


「お前らがいるならいいか。俺も一度寝てくる」


「うん、分かった。お疲れ様」


 疲れもピークだったのか、ベッドにたどり着いたら、泥のように眠りに吸い込まれた。


 ーーーーーーーーーーーーー


 ……さん


 また、夢か?


 ……ドさん


 俺を呼んでるのか?誰だ?そもそも俺を呼んでいるのか?


 ダメですね。一度息の根を止めた方がいいでしょうか?


「殺す気か⁉︎」


 物騒なセリフが聞こえて来て、俺は目を覚ました。

 少し開けられたカーテンの隙間から、夏の陽射しがジリジリと入り込む。

 少し汗ばんでいた。


「おはようございます。嫌な夢でも見たんですか?汗がすごいですよ」


「いや、どちらかといえば現実だったような……」


 夢オチなのか?俺の目の前にいるのは王子そのものの姿をした人だ。

 というか、本人だな。別に夢オチでも、幻覚を見てるわけでもないようだ。


「起きたのか?」


「狸寝入りしていたかったですが、アリスにばれましてね」


 ということは説教中に起きたか、もしくは、終わってからバレたか。

 それだと、説教どんだけ長いんだよという話にもなってくるが、やはり俺には直接関係しないので話をそらすことにする。


「身体の方は何ともないか?」


「若干ダルいですけどね。とりあえず、報告はいかないといけないので、ついて来てもらえますか?」


「んなもん、ウィナにやらせとけよ」


「終始、事の顛末を見ていたのはあなただけなので、何があったかを報告できるのはあなただけです」


「そうかよ。じゃあ、とっとと行くぞ。面倒なことは早めに終わらせるに限るぜ」


 心なしか、雰囲気が変わった王子は呆れたようにため息をつく。


「なんだよ?不満か?」


「ぼくもできれば、ウィナさんとの方が良かったですよ」


「悪かったな。可愛い女の子じゃなくて、むさい男で」


「自分を卑下するものでもありませんよ。仮にもあなたはぼくの師匠でもあったわけですし」


「仮にもって言い方が気にかかる……たぶん、今もお前の方が一対一なら強いだろうしな」


「今、どうこう言っても変わりませんよ。とにかく行きましょう」


 王子は、俺に断るでもなく、先に出て行った。

 先に来るように言われてるのか、もしくは俺と一緒に行きたくないのか。

 さらに言えば、聞かれたら困ることでもある心当たりがあるのか。

 でも、なら俺を呼びに来たりせずに先に自分だけで行けばいいよな。

 やっぱり俺と一緒に行きたくないんですね。別に構わないですよ。師匠はそんなことで泣きません。慣れました。

 それでも、少し寂しかったというのは内緒です。


 ーーーーーーーーーーーーー


 案の定、王子は先に院長室についていて、院長と何か話しているようだ。

 俺は、なるべく音を立てないように静かに入る。


「ふむ。来たかの」


「ご要望どおり。で、何が聞きたいんだ?」


「悪魔の正体と、特徴および弱点、目的などもあったのなら教えてもらえるかの?」


 口で全部言うのは面倒だったので、紙とペンを借りて箇条書きにしてあの悪魔、マモンのことを書き記していく。

 容姿については絵がかければいいのだが、お察しのレベルなので身体的特徴だけあげておく。

 ある程度書き終えて、院長へと渡す。


「目的は分からんのか?」


「そいつ自身忘れてたようでしてね。とりあえず、院長の首を狙ってたということでいいんじゃないんですか?」


「儂を狙ってもどうにもならんというのにな……」


 それにしても、マモンは特に目的があったように見えないのだが、他の悪魔も同じようなものだろうか。

 悪魔全体での目的と言うものは存在するのか。

 ただ、魔王の命だけで動いているようには思えない。

 仮にも7大悪魔と呼ばれるほどだ。一個体だけでも、かなりの力を有してるはずなのだから、おいそれと魔王の命に従順に従うことはないだろう。

 それ以前に魔王の目的すらも分かってないしな。

 人間界を征服したところで、征服しましたって、それで何か変わるわけでもあるまい。その先を考えているのだろうか。


「何か言いたいことがあるのか?」


「いえ、こいつ以外にもあと六体悪魔がいるとの話なんです。こいつは簡単に姿を現しましたけど、他がそうとは限らない」


「それが、なにか変わったことがあったかと最初に聞いた理由か」


 まあ、あの時は王子の様子が変だったから聞いただけだけど、そういうことにしておいて頷く。これで情報が増えるのなら儲け物だ。


「お主たちがここにいる間、儂も少し調べてみた。これを見い」


 資料を取り出して、俺と王子の前に置く。どうやら、最近のクエストランキングの情報みたいだ。


「これがどうしたんすか?いつも出てるでしょ。月一ぐらいで」


「トップを見てみい」


 トップはクエストクリア数15。

 はっきり言うと異常だ。だが、クエストが簡単ならまだ分からない数字ではない。

 だが、こいつがクリアしているのは、難易度は最高難易度に近いレベルのものばかりだ。しかも、さらにソロでそれをクリアしている。

 怪しい匂いで満載だな。


「拠点はここから近い。一度行ってみてはどうじゃ?」


「返り討ちにされるか、無視される未来しか見えないんですけども」


「なら、こやつも連れてけ」


「な、なぜです⁉︎私はまだ……」


「理由をつけんとあかんかの。それなら、儂の首を狙って来たこと。以上じゃ。そんなやつを修道院に置けん」


「私の意思ではないのですが……」


 かなり横暴な院長の判断だった。


「とりあえず……いいか?」


「院長の命令なら背くわけにもいかないですし……たぶん、結果的にこうなりましたが、あなたが来た時点で結局追い出されていたでしょう」


「だろうな」


「院長、この資料もらっていいですか?」


「構わんよ。どうせコピーだしな。有効に使ってくれ」


「ありがとさん。もう行っていいか?」


「お主は構わん。だが、スターはまだ残っておれ」


「じゃ、先に戻ってるぜ」


 王子に背中を向けて、院長室を俺は去った。

 そういえば、アリスは一体どうするんだろうか。

 まあ、でも俺が言ったところで戻らないだろう。ここから、戻る手段があるわけでもないし。

 王子がどう言うかだな。

 喧嘩しそうな気がするけど、ウィナとうまく仲裁してやろう。


 ーーーーーーーーーーーーー


「というわけで、我がパーティに王子ことスターが加わります」


 当然のことなのかどうか微妙なところだが、アリスは頬を膨らませて抗議の姿勢をとっている。


「アリス、実の兄貴なんだからって、そんな露骨に嫌そうな顔すんな」


「どうせ五月蝿く言われるのが目に見えてるのにどうやっていい顔するんですか」


 アリスの言い分も最もだが、王子はかなりの戦力となるだろう。王子だけ、うちのパーティに入れれないから、他を当たってくれと言うわけにもいかない。


「アリス。お前は、一応はここまでってことにしてるんだぞ。まあ、きっと戻るなら、王子も一緒だが……」


「なら戻らないです」


 即答された。


「だいたい、学校に行っても学ぶことなんてないです。だから、こうしてお兄ちゃんたちと旅に出ることにしたんです。兄様になんて言われようが、私は旅を続けます」


 別に俺は断る理由はない。アリスが旅をしたいなら続ければいい。

 だが、俺がここにあくまでも設定したのはまだ歩いて街に戻れる範囲だからだ。でも、さすがにアリス一人で帰らすわけにも行かない。道中で何があるかも分かったものではない。モンスターがいないからといって、外が危険であることに変わりはないのだ。

 アリスは俺たちと一緒なら安全だという、こちらへの信頼の元に旅をしている。

 なら、アリスを守ってやるのも俺たちの役目だ。

 話をしていると、ノックの音が響き扉が開いた。


「失礼します」


「失礼するなら出てって」


「こらこらアリス。あくまで社交辞令だから邪険にすんな」


 入って来たのは王子である。院長との話し合いが済んだのだろう。


「院長の命により、旅のパーティに加えていただきたいんですが、よろしいでしょうか?」


「俺たちは構わないんだけどよ……」


 アリスの方を見やる。

 何を思ったか、立ち上がって、王子の方へ歩き出した。


「兄様に言われようが私も旅を続けます!そもそも先に旅をしていたのは私なので、私が嫌なら国へ帰ってください!」


「い、いや、別にぼくはそんなこと……」


  いきなり言われるとは思ってなかったのか、王子は困惑している。王子も何か言ったわけでもないので、牽制されるとは選択の外だったんだろう。


「なら、ぼくからも言っておく。何が一番心配かと言うと、お前が取り返しのつかない怪我をすることなんだ。だから、城へ父上は閉じ込めようとしていた。旅に出ているということは、そのリスクは高まる。だから、ぼくもアリスを守るために一緒に旅をする。それでいいか?」


「せいぜい足手まといにならないようにしてください」


 うーん。やはり、兄妹手を取り合って仲良くとは、いきなりは無理か。

 どちらかといえば、アリスの方がつっけんどんにしてるから、変に壁があるようにも感じられるんだよな。

 現に王子の方は少し歩み寄ろうとしているようにも見える。

 旅で苦楽を共にすれば、多少なりは改善していくか。


「はい、二人ともそこまで。今日いきなり出発ってわけにもいかないから、明日出発だ。王子はもういいか?」


「カインとアベルにはちゃんと言っておきますよ。心配しないでください」


「そうか。じゃ、後は各々好きに過ごしてくれ。俺は寝る」


「あっ……って、もう寝てるし」


  俺が止まってる部屋に集まっていたので、ベッドに横たわって惰眠を貪ることにした。

 なんか多少、体に重みが感じられたが、気にしないことにしよう。




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