vs王子(3)
「てめぇ。なんのつもりだ?」
王子の身体を乗っ取ったままのマモンは悪態つくように吐き捨てる。
そりゃ、一対一にもされれば、舐められてるとしか思えないだろう。
だが、俺にも意地と言うものがある。俺が先導するべきなのだ。旅の先人でもある俺は、皆を導きながら戦う方法をその身体で示していかなくちゃいけない。
そのためにも、一度は誰にも頼らずに戦えることを証明するべきなのだ。
「別に、あんたを舐めてるつもりじゃない。だけど、女の子に頼りっぱなしで自分より強いってんじゃ男の名が廃るってもんだ」
「せめて、俺様ぐらいは自分の力でなんとかしようって腹か。そんなにうまく行くといいけどな!」
「ああ……だから、うまくやる」
俺は、知識だけの剣術を頼りに構え直す。
向こうは俺の構えを見て判断したのか、それとも見ずに一人ならやれると判断したのか、力任せに突っ込んでくる。
だが、カインの時のように、全く目に見えないスピードというわけではない。寒さで、スピードが落ちているのだろう。それでも、十二分に速いのだが。
そのままのスピードで繰り出されようとする剣を見切って、剣でガードする。
いくら、王子の身体能力が上乗せされてると言っても、王子の思考回路ではない。何年も積み上げたやつの剣技ではない。
俺は、王子に……スターに、そんなやつに負ける姿を見せたくない。
「そこにいるんだろ。王子。ちゃんと、見ててくれよな」
「ほざけ!力を失ってるお前に何ができる⁈」
「出来るさ。少なくとも、ここまで不用意に近づいて来てくれてるならな」
力で押し切ろうとしていたマモンと、剣を交錯させていたが、力をズラし、俺は剣を方手持ちにする。
空いた手と、脚を使い動けないように羽交い締めにする。
「どうだ?動けなきゃ、その自慢のスピードも使えんわな。剣を交わして分かったが、お前は俺より力が弱い。その上、今こうして馬乗りにされてちゃ、うまく力を発揮出来ないだろ?」
「…………どうかな?」
「なに?」
抵抗していたと思われた力が急になくなる。どうなってる?王子の身体は精気がなくなったかのようだ。
それと同時に、後ろ側からさっきまでとは異なる気配を感じた。
俺は、振り返るのを躊躇う。
振り返れば、どうなる?
だが、振り返って、姿を確認しなければ、俺は戦えない。目の前の相手の姿を確認せずに相手取れるほど、強くはない。
「やらかしたな……。そういう戦い方も出来るのか」
「武器を失くしちまったのはおしかったな。だが、武器なんざいらねえな。それに、久しぶりにこの姿になったんだ。少しばかり昔話でもしてやるよ」
「昔話?お前の過去話は聞いたぞ」
「そんな間抜けな理由で罪なんか背負わされねえよ。俺様はな、元々は天使と呼ばれる存在だった」
「天使?神の使いとか敬称される、汚れのない存在だったか?」
「そうだ。もっとも、その頃から神なんて俺様は崇めなかった。金銀財宝を崇拝してたな。今こそそこまでじゃないが、ある一時期はトチ狂っててな。そのせいで堕天させられて、7つの大罪入りだ」
「7つの大罪……」
確か、高慢、貪欲、嫉妬、憤怒、貪食、色欲、怠惰からなる大罪だったか。ロロちゃんが言わんとしていたことはこのことだろう。そのうちの貪欲の罪を背負うのが、マモンということだ。
「これがまたモチーフとされる動物がいてな。俺様は、狐か針鼠なんだと。可愛らしいよなあ」
それ、確かモチーフじゃなくて比肩する動物だったと思う。何となく、あの能力の微妙さが分かった気がしてきた。
針鼠なら、防御力はかなり強いと思うが……多分あれは武器で攻撃することを想定したデータなんだろう。そういうことにしておこう。
マモンの本来の姿を今この目で捉えているが、その背中に針が生えてるようにも見えないし、生えるようにも見えない。
狐だとしたら……やはり化かし合いなんだろうか。うん、あまり強いイメージが持てない。
「てめぇ。結局弱いって思ってんじゃねえだろ「うん」うな!って、途中で入れてくんな!」
セリフは読めたし、実際にそう感じてしまったので、そう言わざるを得ない。
しかも、昔話も途中で頓挫してるし。
「で、堕天したあとはどうしたんだ?別にいつの間にか魔王の手先になってたわけじゃあるまいし」
「まあ、森羅万象、全てのものには寿命がある。ついでに言えば、俺様ももう何代目か……この世界は何度でも作り直されてんだ」
「は?今、なんて」
「無駄話が長くなったな。てめぇの仲間とやらが来るまでに、そこの倒れてるやつもろとも消し去ってやるよ!」
「いや、よく考えれば今の姿のほうが都合はかなりいいな」
マモンは久々に自分の身体に戻ってご機嫌なのか、何事にも躊躇することなく突っ込んでくる。本当に考えなしなのか?
だが、こっちもカウンターの構えで待ち構えてるばかりじゃ、性分に合わない。
俺から攻撃をしかけなければ……。
さっきはある一点から、直線上にしか移動していなかった。あるいは、あのスピードを出すためには直線にしか動けないのか。もし、そうであれば、最初の移動方向さえ見えてればいいんだが……。
「うら!脚が止まってるぜ!」
マモンは鋭く尖った手の爪を武器にこちらを切りつけてくる。
剣で防いだが、どう考えても剣で受け止めれば、爪は簡単に割れるような気がする。
だが、現実はそううまくいくはずもなく、存外硬い爪のようだ。これなら、武器はいらないと言っていたのも頷ける。
マモンは今度は空中へ飛び上がった。王子の時はどうやって浮かび上がっていたのか、謎だったが、こうして悪魔としての姿なら羽が生えているし、納得は出来る。だが、どうして羽の付いてない王子で飛べたのだろうか。
考えてる暇もなく、マモンは空中降下をし、その勢いで攻撃を加えてくる。確かにこれなら、重力がプラスされる分、力不足を補える。
仕方ない。多少戦いにくいが、あれで行くか。
「王子、少し借りるぜ」
王子が握っていた剣を抜き取り、両手で二刀流の構えを見せる。ただ、今回は両方同じ長さなので若干扱いにくいが、瑣末なことだろう。戦いというのは少しぐらい狂ってる奴のほうが強いってもんだ。正攻法で勝てる勝負なんて、きちんとルールが定められるものでしか存在しない。
だからと言って、二刀流になったからと言って、攻撃力が2倍になるわけでもないが……。
「はん。今更二つ持ったところでどうするんだ?今まで一本で戦ってたところ見ると慣れてねえんだろ?」
「これでも、旅の終盤では時々使ってたりしてたんだぜ?まあ、今となっちゃ過去にすがってるだけか……別に誰も両方で攻撃するなんて言ってないしな」
「訳分からねえことごちゃごちゃ抜かしてんじゃねえ!」
マモンは疾風のごとく、即座にスピードに乗り、俺の元へ迫ってくる。
まだ、寒さは続いているのか、目に見える範囲だ。
あと何分ぐらいだ?
考える前に、それが切れるまでに倒さなければ。
「ひゃははははは‼︎遅えな!勇者様よぉー!」
俺は向こうにダメージを与えられず、徐々に被弾している。いくらか防御してるとはいえ、全てを受け切ることは出来ない。このままじゃジリ貧だな……。
痛みを感じ、血が流れてることを認識した。
それと同時に寒さが和らいできた。
「時間稼ぎも終わりだな。勇者。お前は氷属性の攻撃も魔法も持ってないようだしなぁ」
自分の弱点は晒されているが、向こうもこっちに有効打がないことを知られている。挑発まがいのことは平然と言ってくる。
俺に対抗策があるわけでもない。
それでも、剣を床に刺して痛みを堪えながら立ち続ける。
「悪あがきだなぁ。まずはお前より先にそこの寝てるやつをやっとくか。人は脆いんだぜ」
「やめろ!」
身体を動かそうとするが、手負いの上、どう考えても向こうのほうがスピードは上だ。
俺じゃ……追いつけない……。
俺は目を逸らした。最悪の事態を目にしないために。
再び、目を開けた時は、逆にマモンの腕が凍らされていた。
「もう……私がいないとダメなんだからソードは」
「ウィ……ウィナ」
ロロちゃんと入れ替わるように、ウィナが王子の前に立って、マモンの攻撃を防いでいた。
「ぐ……アアアアァァァ‼︎」
「立てる?」
膝をついていた、俺に近寄ってウィナは手を指しのばす。俺をそれを取って、立ち上がった。
「あーもう。怪我してる。ほら、治してあげるから」
ウィナは基本魔法に加えて治癒魔法も使える。学校では本当に擦り傷を治す程度の魔法しか教えないらしい。そこからは適性によるものらしいので、全員が使えるはそこまでだということだ。
どこまで万能なんですかね、俺の幼馴染。
俺の血が流れていたところをせき止め、その傷も目立たなくなる。
「はぁ…はぁ……」
「で、あれが相手で大丈夫?」
「ああ。ロロちゃんは?」
「『私じゃどうしようもないので、ウィナが手助けしてあげて〜』って、カインとアベルの看病を代わったよ」
ロロちゃん、君は一緒に来るという選択肢はなかったんだね。全員集合とかの構図は無しですね。
にしても、一人でやると言った手前、若干情けないが、現状俺だけでは太刀打ちが出来ないのも事実だ。
「よし、ラストスパートいくよ!」
「おう!」
俺と、ウィナは互いに背を預け、戦闘大勢に入った。王子?マモン以外の誰かが、すごい勢いで回収して行きましたよ。




