vs王子(2)
ただの木の棒から、模造刀にランクアップしたが、どちらにせよ相手をぶっ叩く戦い方しかないのはインパクトにかけるな。
相手王子だし、切れたらことだからこれぐらいでいいのかもしれん。
向こうも武器は俺と同じようだし、いきなり切れて血がドバドバ出てくるとかはないはず。……ないよな?
問題は足場だ。天井のステンドグラスを割ったせいで、ガラスの破片が床一面に散らばっている。
下手に動くと、足に刺さるよな……。どうしたもんか。
それは向こうに取っても同じなのか、動く様子を見せない。
代わりに、ギャラリーの唾を飲み込む音が無音の空間に際立って聞こえる。
「ソード。これじゃ、こっちから攻撃できないよ?」
「ひとつ方法はある」
「どうするの?」
「ガラスの破片が散らばってるのは、あいつの周囲だけだ。一メートルぐらいは隙間がある」
「ふむふむ」
「そこにロロちゃんを投げ込む」
「待った」
「ダメか?」
「仮にうまくいったとして、そのあとソードは何するの?」
「無論、俺は近接攻撃しかできないので、見守るだけです」
「己が行かんかー‼︎」
「ギャーッス!痛い痛い‼︎」
ロロちゃんが押し出したせいで、前によろけ、前方に散らばっていたガラスの破片を踏みつけてしまった。
幸い画鋲が刺さった程度の痛みですんだが。
「何すんねん!」
「こっちのセリフ!幼気な女の子を敵陣のど真ん中に突っ込ませようとするな!」
かと言って、俺の跳躍力も今は対したことないので、マモンのところでたどり着けるかと聞かれると、着地点などミスりまくって、大損害だ。
「こらこら、何の騒ぎだ。はよ、業務に戻らんか」
「来やがったな」
院長の声にみんなが、一斉にそっちを向く。それを見て、マモンが動き出した。一直線に院長のところへ向かって行く。もちろん、走ってなどではない。
浮いてる。
「あれって、あり?」
「悪魔だし飛ぶのはデフォルト……ってマズくない?」
剣を振り下ろして、院長への攻撃を図ったみたいだが、院長からは死角だったはずなのにその攻撃は弾かれた。
「かぁ〜。結界とは、さすがに長老はやることが狡いね〜」
「誰じゃ貴様は?」
どうやら、院長も見た瞬間にこいつが王子ではないことに気づいたようだ。いきなり院長を攻撃し始めるような奴が王子のわけないしな。
「あんたの首を頂くぜ」
「こんな老いぼれの首を狙ったところで、何になるでもあるまいて……ふむ」
院長はざっと、周囲を見渡して、手を振りかざすと、床一面を凍らせた。ガラスの破片が刺さらないようにという配慮だろう。それもちょうど、散らばってたあたりにのみだ。
院長はもう一度修道士たちに一喝して、戻ろうした。
「俺様を無視してんじゃねえ!」
またも不意打ちのように攻撃をしかけるマモンだが、その攻撃は院長には届かない。
「無駄じゃよ。貴様のような、相手を傷つけることしか考えてない刃では儂には届かん。精々、そこのへっぽこ勇者の刀の錆となっておれ」
院長は背を向けたまま、そう告げ歩き去った。修道士たちも各自バラバラとなり、マモンと俺とロロちゃんだけが、ステンドグラスの割れたエントランスに静かに立っている。
マモンの方は何となく呆気に取られているようにも見えたが。
「何やってるの、ソード。チャンスだよ」
「お、おう」
ロロちゃんに耳打ちされ、呆然としているマモンにできる限り足音を消して、おそろくの死角に入り込む。
今は空中にいないし、飛び立つにも多少の時間がいるだろう。
俺は剣を振りかぶった。
だが、振り下ろした剣は空を切る。
「危ねえ危ねえ。不意打ちたあ、汚ねえな」
「そのセリフはお前にこそお似合いだぞ」
「照れるぜ」
褒めてねえから。
何なんだ?この勘違いナルシスト悪魔は。
「あと、お前、勇者って言われてたか?そうか。だから、俺の前に立ってるのか」
「ついでに言うと、隣の女の子は魔王の娘だぞ」
「ひ、人の娘を人質に取るとは、悪魔より悪魔的。人間の風上にも置けねえようなやつだな」
だから、悪魔にいわれたくない。しかも、まだこいつ含めて二人だが、一番馬鹿そうなやつに言われたくない。
なんか驚いてるマモンを尻目にロロちゃんが裾を引っ張る。
「どうやら、これ目の前の敵の情報も見れるみたい。基本ステータスみたいなのだけだけど」
「へえ?どれどれ?」
マモン/悪魔族
パワー☆2
スピード☆7
ディフェンス☆1
かしこさ☆2
特殊効果:勇者の欠片によるスピードUP
随分と具体的に出されていた。
だがこれを見る限りだと、マモン単体って、素早さばっかり早くて、他がしょぼさの塊って言ってるようなものなのだが、王子の体に移って、その分が上乗せされるのかもしれない。元がショボいから、上乗せされるのは実質スピードだけだ。ただ、見えないレベルの速さだと面倒だな。
総合してまとめると、一撃で仕留めるタイプではなく、手数の多さで戦っていくタイプなんだろう。
「これって体力出ない?」
「あっ、一番上にあった」
少しスクロールして、画面表示をする。なんか知らんが具体的にここだけ数値化されてるのはなぜだろう。一応ゼロになったら戦闘不能とかになるんだろうか。
マモン/悪魔族
HP480/480
悪魔って、多分ボス的な扱いでかなり強いはずなのに、体力が500を越えてないとか、かなりのかませ臭を感じざるを得ない。よほど、攻撃が当たらないか、防御力が異常なほど高いか。
これもいったい誰を基準として設定してるものなんだろうか。あと、ディフェンス☆1とか謳っておきながら、ダメージがほとんど入らないとか言ったらキレるぞ。
ある種そっちのほうが強い気がする。
「どしたの?ソード」
「ああ、いっそのことロロちゃんを盾にして戦ったらこれから先のボス戦も楽に勝てんじゃないかって思ってきてさ。だって、魔王の娘だし、向こうも無闇に手を出せんだろ」
「やっても、ソードはすぐに倒されて私だけ回収される未来しか見えないよ」
「俺はそんなに弱いのか、向こうがそれほどの手練れなのか、どっちだ?」
「前者」
俺はそんなに弱いですか。かなりのかませ臭を醸し出してる向こうよりもか……。
まあ、弱さは露呈しているので、取り繕う必要がないのはありがたいのか、悲しいのか。
「でも、私は悪魔たちの実力のほどは知らないよ。あと、弱点は氷属性の攻撃みたい」
またスクロールして、確認をしている。これを弄ってられるのも、向こうは遠距離攻撃は出来ないことがある。精々できて、剣を投げつけるぐらいだろう。それではすぐに武器を放棄することになるので、あくまでも最終手段だ。魔法が使えるようではないので、俺はマモンの動きだけをみている。
「そーいや、悪魔って名前に意味があったよな?よし、俺は知らないから答えられたらロロちゃんの勝ちだ」
「なんで意味があることを知ってるのに、その肝心の部分を知らないのか……まあいいよ。悪魔は7体いるって言ってたよね?」
「ああ」
「今は悠長に喋ってる場合じゃないから、マモンだけ教えるよ。まあ、悪魔は一体一体に罪を背負ってて、マモンが背負ってる罪は」
「おうおう、魔王の娘さんにまで知ってもらってるとは光栄だねぇ」
「まだ言ってないんだけど」
「あり?」
「もう言う気がなくなったから自分で言ってください」
ロロちゃんが投げやりになってしまった。なんてことをしてくれる。こうやって、まずは相手のやる気を削いでいく作戦か。狡いぜ。
「魔王の娘の頼みとあれば、答えてやるぜ。俺は貪欲の罪を背負わせれている」
「具体的に何をやらかしたんだ?」
「魔王様のおやつを強奪したら不届きもの扱いされてあれよあれよと背負わされていたぜ」
決定権は神とかじゃなくて、魔王の裁量次第なのかよ。こんなんだったら、いくらでも散らばってそうだぞ、悪魔。よほど、大切なおやつだったのか。てか、意外に小さいな魔王。
「お父さんは大きいよ?」
「身体のサイズの話じゃなくてですね」
「ああ、やつは小せえ。奴の目を盗んで、3日に一度奪ってただけなのにな」
それはそれで問題があるだろう。人のもんを勝手に盗ってくなよ。バレなかったらいいとでも思ってたのか。
でも、結局バレたからこうしてマモンの名前を与えられたんだろう。
実力のほどは知らんけど。
「ああ、なるほど。あいつは素早さはそこで培わられたのか」
「無駄な才能だね」
「なんだと⁉︎貴様の相手なんかせずに魔王の娘だけ掻っ攫って行ってもいいんだぞ!」
やったらやったらで、魔王に娘の意思を無視するなって言われて結局制裁されんじゃないの?それ以前に帰る手立てがあるの?
「ともかく、本末転倒だな。こいつ何しにここにいたんだ?」
「あれ?俺様は何しに来たんだ?それ以前にどのくらいの長さここにいたんだ?」
もう、俺帰っていいですかね?こいつに何ができとるとも思えん。だけど、こいつを倒さないことには俺の力も戻らんしな。どういう原理で俺に力が戻るかもわからんから、一番手っ取り早く倒せるこいつからやってくのが、楽な方法なのか。
「よし、ロロちゃん。魔法で剣をコーディングしてくれ」
「そんな技量は私にはないよ」
「なんと。俺はどうすりゃいいんだ」
「一応、私は氷の魔法使えるから、それで何とかしてみる。効いてたら特攻よろ」
「特攻って……」
意見を述べるまでもなく、ロロちゃんは詠唱を始めてしまった。なんだっけ?エターナルなんちゃら。魔法の知識はないから、段階ごとで魔法名は変わってくるのか、それともレベル1みたいな括りなのか。
多分独学であろう、ロロちゃんにもそういうわけ方があるのかもしらないが。
そして、悠長に待っているマモンは何がしたいんだ?ぼさっと突っ立っていても、攻撃されるだけだろ。
なんか、よく見ると震えている。
「さ、ささささみぃ〜。おい、そこの勇者。なんか一枚羽織るものくれ」
「お前に貸すようなのは持ち合わせてねえよ」
氷が弱点とか言ってたけど、氷より寒さに弱いだけじゃないのか?
先ほど院長が張っていった氷の冷気により、徐々にこの空間の温度が下がっていたようだ。
だが、まだ耐えられない温度ではない。
「エクストラ・ブリザード!」
さらに追い打ちをかけるように、エントランス全体に冷気が舞い込む。
「……………」
マモンは完全に閉口してしまっていた。寒さに弱すぎるだろ。
ロロちゃんは自分の魔法だからなのか、それとも防具が耐性を持っているのか分からないが、特に寒さを気にする様子はない。
「ほら、ソード。向こう、完全に足が止まってるから今だよ」
「お、おう」
両腕で身体を抱え込むような形でマモンは震えている。
なんだか、不憫に思えてきたな。
少しだけ、同情するような、哀れむような視線を向ける。
向こうはその視線を見てか、自分はまだ助かるものだと、顔を緩ませた。
「甘えわ‼︎俺がそんなんで同情すると思ったか‼︎」
「ぐおおおわ!」
剣で一太刀入れ、連撃で体に打ち込んでいく。
大丈夫、大丈夫。憑依できるほどの体力さえなくなれば、マモンも出てくさ。
だが、仮にも悪魔というだけあり(?)タフなもので、倒れる様子は見せない……が、寒さですでに息絶え絶えになっている。
俺が手を加えなくても、勝手に出るんじゃないの?
「ソード!何してるの!」
「え?」
気が緩んだ隙を突かれ、打撃をモロに食らってしまった。
だが、王子の力を借りてしても、大したことないし、おそらく剣も使ったことないのか、攻撃が軽かったので、ダメージはさほどなかった。
「けほっ。動けんのかよ」
「う、ううううるせぇ!ままままだやってやんよ!」
寒さのせいなのか、うまくロレツが回っていない。
一度、ロロちゃんの元へと戻る。
「どうして戻ってきたの?」
「いや、せっかく数値化されてんだから、どれくらいダメージ与えられたのか気になって」
「しょうがないな〜」
マモン 250/480
何だか、思ったよりダメージが効いてなかった。俺の攻撃も大概だな。
「このままでも倒せそうだけど、どう入る?」
「いや、あれほど隙だらけの相手にダメージを与えきれなかったソードじゃ、どうしょうもない気がする」
「じゃあ、どうにかして時間稼いどくから、ウィナたち呼んで来てくれ」
「地雷臭しかしないよ……まあ、分かったよ。とりあえず、負けないようにね」
「ロロちゃん、魔法の効果はどれくらいだ?」
「あと10分ぐらいは。弱い魔法ほど、持続時間が長いのは常識だよ」
ロロちゃんは、俺の質問に答え、マモンの脇を抜けていった。もっとも、動くのもいっぱいいっぱいで、手が回らないっていうほうが正しそうにも見える。
「さあ、1対1だ」
「何の真似だ?」
「せめてお前だけでも一人で倒せなくちゃな。条件は俺のほうが有利だが……俺の力を奪って使ってる奴がグダグダ言わねえよな」
「いや、環境は俺のほうが不利だアンフェアだ」
常にアンフェアで戦ってるような奴がよー言うな。まあ、いいや。
見てるのはこいつだけだが、少しでも力を戻した証明となるように、剣を振るおう。




