vs王子
「ちょっ、ソード!こっちであってるの⁉︎」
「大丈夫だ!さすがに一日そこらで忘れるほどじゃねえよ!」
「意外に記憶力いいんだ……バカだとばかり」
「あのな?ロロちゃん。この際言っておくが、俺はあくまでも教養がないだけだ。記憶力がないわけじゃない。したがって、教養がない=バカの方程式は俺には当てはまらないのだ」
「教養がない時点でバカだと思う」
こうもきっぱり言われてしまっては返す言葉もない。
それよりも、魔王の娘に教養がないことをバカにされたくない。
「じゃあ、ロロちゃんに問題を出してやる」
「問題を出せるほどの頭を持ち合わせているんだか……」
「ちくしょう。答えられなかったら、俺のことをバカにするのは辞めるんだぞ」
「答えられたら?」
「ゴミでもクズでも、呼称は何でも受け入れよう」
「たかだか教養に人としての尊厳を賭ける?」
バカにされたままでは引き下がれないので、大きく出てしまったが答えられたらどうしよう。しかも、教養というからにはちゃんとした問題を出さなければならない。
トンチがきいたのとか、なぞなぞじゃダメだよな。
「ついでに聞くが、ロロちゃんは人間界のことについてどれぐらい知ってる?」
「人間界のことはほとんど知らない。だから、フェアになるように問題出して」
「そもそもロロちゃんが何を知って、何を知らないかが分からないんだが……」
人間界の常識と魔界の常識では大きく異なることだろう。そもそも、ロロちゃんがこっちで何年生きてて、向こうに何年いたかもよく分かってない。
分かってないことだらけだな。どから、ツッコミを入れて問題を出していけばいいんだ。
「というか、こんなことしてる場合じゃないでしょ。この勝負はお預け。院長のところ行くんでしょ」
ロロちゃんに正論を言われた。
なんかすげえ悔しい。
もうこの時点で俺の負けだな。
「この際俺をゴミクズとでも呼んでくれ……」
「いったい何があったらそんなことになったのか……つくづくソードはよく分からないや」
呆れ半分のロロちゃんと微妙に気分が沈んだ俺は院長の元へと急ぐ。
だが、そもそも院長も部屋にいるのだろうか?
今はいることを信じよう。とりあえず無駄足にならないことを祈るだけだ。
もっとも、何も起こらなければ一番いいのだが……。
ーーーーーーーーーーーーー
「院長!」
「なんだ騒がしい。ノックぐらいせんか」
ひとまずは何もなかったようで、安堵をつく。
「何があった?」
「スターのやつ、ここに来てないか?」
「今日はまだ来とらんが、何かあったのか?」
「いえ……来てないならいいんです。行こう、ロロちゃん」
「ここまで来てその言い分はなかろう。仮にも儂は院長だ。ことの把握ぐらいしとかんといかん」
ロロちゃんを見ると、俺に向かって頷く。あまり、散らしてもいい情報ではないが、院長には知ってもらっていても問題はないだろう。
「カインとアベル……2人は悪魔に取り憑かれてた……と思われる。それが王子に乗り移った。王子は今、修道院内に姿を眩ましてる。どこにいるか、分からないが、おそらく標的は院長だと思ったんだけど……」
「……危惧していたことが起きたか」
「……分かってたような言い分だな」
「だから、お主たちに依頼したのであろう。あの子たちの正体を暴くのと同時にその処理を頼んだのだ」
「処理……って、あの子たちはものじゃねえんだぞ」
「儂の手に負えんのもまた事実だ。今はどうなってる」
「気絶して、俺の仲間が介抱してる」
「願わくは、ことが収束したら引き取ってはくれないか?」
「お断りだ。もうあの子たちは悪魔に取り憑かれてた子供じゃない。きっと、徐々に慣れてくだろう。一人前になるまで面倒見てやれよ」
「そうだな……。儂もボケててるのかもしれん。今の戯言は忘れてくれ」
「笑えねえ冗談だ」
きっと、あの子たちも日の当たる元で動き回れる時が来る。
それすらも叶わないで、大人の事情に振り回されて、あの子たちにも選ぶ権利はあるはずだ。
目が覚めた時には新しく始められるように、俺たちが解決しなければならない。
元は俺が蒔いた種だ。俺が回収しなければ。
「とりあえず、俺たちは王子を探しに行く。院長は王子を見つけ次第報告してくれるようにしてくれ」
半ば吐き捨てるようにして、院長室の扉を閉めた。
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俺たちはまた走っていた。
だが、まだ気にかかることはある。
「ソード。何を頭抱えてるの?」
「ロロちゃん。もし、自分が悪魔だったらどういうやつに取り付きたい?」
「なんか、悪魔が実態がないから、人の身体を借りてるみたいな言い方だけど……とりあえず、ソードにはつきたくない」
「一応理由を聞いておこうか」
「将来性が感じられないのと、邪念しかなさそうだし、なんせ人脈がほぼ皆無というところだね。私が取り付いて、人格を奪ったとしても利益がなさすぎるよ」
「俺、仮にも勇者なんだけど……今のロロちゃんの俺に対する評価は分かった。ということは、悪魔にとっても利益がなければどうしようもないのか」
「あとはある程度取り入る隙がなければ難しいかな」
カインとアベルがここに来たのは半年前。多分、当時から悪魔が取り付いていたとしたら、院長目当てでここにたどり着いたんだろう。
あとは隙か……。クロイツ教の現代表でもある院長や、その他の修道士、シスターでは信仰が厚いためそういった隙がなかったんだろう。ましてや、子供では力不足が否めない。
そこでたまたま目に入ったのが王子だったんだろう。入って、日が浅い王子は信仰もそこまで厚くなく、かつ力が有り余ってる歳だ。悪魔が取り入るには格好の的だった。
だが、いち早く違和感を察した王子はすぐに対処してしまい、なかなかその時を見出すことが出来なかった。
そこで、俺たちが現れたというところだろう。
「王子に悪いことしちまったな」
「自分で蒔いた種は自分で摘み取る……でしょ?」
「そうだな」
エントランスに近づくと喧騒が大きくなって来た。
何が起きてる?
理由は聞くまでもなさそうだった。
ステンドグラスの天井が割られ、破片が辺り一面に散らばっていた。
その中央には一人の少年。
王子が立っていた。
他の修道士は何か起こったのか分からないのか、遠巻きにその中央の人物を見ている。
そりゃそうだ。高さだけで言えば軽く10数メートルもある。どうやって割ったのか。
それでも臆することなく俺は話しかける。見た目は王子そのものなのだから。
「随分派手にやってんじゃねえか」
「………」
冷ややかな目でこちらを見る。まるで温度を感じない。
とにかく王子ではないことだけは肌で感じ取れる。
「なあ、王子。いったいなんのためにこんなことをしてる?」
「……王子?ああ、こいつの名か。ククク。残念だったな。こいつの体はこの俺様が有効に活用してやる」
見事に悪役っぷりを演習してくださってるわけですが、カインとアベルは徹底して子供だったのにこの豹変ぶりは一体なんでしょうね?
なんとなく、そこはかとなく下っ端臭が半端ない。
「……一応名前聞かせてもらおうか?」
「俺様か?俺様の名前はマモンだ。ガキの身体は見える世界が狭くてしょうがねえ。力もよええしな。仕方なく、力を分散して期が来るのを待っていたってわけだ」
なんか聞いてないところまでスラスラ答えてくれるんですけど、悪魔っていうのはなんですかね、一つ先の質問まで先読みして答える機能が搭載されてるんですかね?
質問する手間が省けたのはいいんだけどさ。
なんか、剣を持ってブンブン振り回している。メチャクチャな太刀筋だが、強い風切り音がこっちまで聞こえてくる。カインよりよっぽど子供に見えるのは俺の目の錯覚なんだろうか。
「で、そこのなんか、人間にしてはデカイ部類に入りそうなやつ」
普通にデカイでいいだろ。なんで、そんなに遠回しなんだよ。
指名されたので前に出る。
「院長って奴はどいつだ?」
「出してどうなる?」
「そりゃ、俺の力の証明をするのさ。こいつは、日夜トレーニングに明け暮れ、来る日も来る日も剣を振り、かつ淡々と業務をこなす。こいつが弱いわけがねえ。そして、俺の力、そして魔王様から頂いた勇者の力とやらも上乗せして、俺様が最強だってことを証明して……ぐぼぁ」
なんか奇怪な声が聞こえたと思ったら、ロロちゃんがマモンとかいう悪魔に取り憑かれた王子の顔面に蹴りを入れていた。
「ククク。綺麗な顔に蹴りを入れるとはなかなか不届きものもいるようだな……」
「だって、私はそいつに思い入れないし、あとなんかイラっときたから蹴った」
「嬢ちゃん……逃げるなら今のうちだぜ」
「じゃあ、後はソードよろしくね」
「一緒に戦ってくれないのかよ⁉︎」
「しょうがないな……。あんまり威力には期待しないでよ」
「とりあえずやってやろうぜロロちゃん!」
王子の顔に傷かつかないように、目立たないところを重点的に攻撃しようか。
取り憑いているなら、王子はどうか知らんが、感覚はそのままあいつに伝わるはずだ。すなわち、痛覚だってそのままだろう。
あと、自分のことを俺様とかいう奴は大概かませ系。これ、俺の定説。
「へっ。2人来ようがなんでもいいぜ。全員倒してやるぜ!」
「ぬかしてろ!」
俺は、預かったままの模造刀とロロちゃんは魔法を唱える構えに入った。
あ、俺の武器微妙にランクアップした。




