二人の悪魔(4)
(師匠はすごいです)
(師匠には敵いません)
(いつか師匠を越えてみせますから)
(その時はちゃんとぼくを認めてください)
懐かしい夢を見た。
あれはいつ頃の夢だろう。
二年以上は前だったか。まだ、旅へ出る前だ。親父の修行の一環として、王子に俺は剣を教えていた。
手加減はしなくていいという教えのため、俺は毎度容赦なく王子を叩きのめしていた。最初の頃はそれこそ、泣き喚いていたが、学校では得られない経験のため、そのうち嬉々としてやるようになっていた。王様からの話だと、どんな習い事よりも楽しみにしていたらしい。
その成果もあってか、王子はすぐに成長をした。さすがに体格の差があって、先に成長する俺は旅の日の直前まで倒せなかったが。
今の夢はその時のだ。
俺は力を失ったとあいつに言ったが、実際には剣を交わしてはいない。俺の言うことを受け止めて、あいつは修道院へと旅立った。
今のあいつに、俺はどのように見えてるんだろう。
ベッドの上で上体だけを起こした。
妙に眠い。夢をみていたせいで眠りが浅かったのだろうか。
外から、ドアを叩く音が聞こえている。
女子だったら、向こう側から目張りをしているのでそれを外せばいいだけだと思うのだが、誰だろうか。
俺は扉に手をかけた。
「おはようございます」
「王子か。なんだ?朝早くから」
「何言ってるんです?もう昼近いですよ」
王子は近くにあった時計を指差す。確かに11時を回っていた。日も完全に昇りきっている。
「寝てても構いませんが、やることはあるでしょうから、一応起こしに来ました」
「あいつらに起こさせればよかったのに」
「あの人たちはあの人たちで動いてますからね」
「カインとアベルのところか?」
「ええ。私の部屋にいると思いますので、行ってあげてください。私は仕事に戻るので」
王子はそう言い残して、己の業務へと戻って行った。
俺も軽く身支度を整えて、部屋の外へと出た。
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子供と言うのは元気なもので、あれだけ疲れていたように見えても、日が変われば体力は元に戻るらしく、普通に目覚めて、普通に活動していた。
「おはよう。カイン、アベル」
「あ、おはようございます」
「おはよー」
昨日、少し関わったためか、初対面ほどの遠慮はなくなった。俺たちもあまり、長居はしていられないので、頼まれたことはなるべく早く終わらせなければならない。
かと言って、この子達が悪魔である証拠もないし、直接問い詰めるわけにもいかない。
「ロロちゃん、ちょっといいか?」
「告白ならお断りー」
「いや、違うから。ちょっと来なさい」
「やー!」
一応、抵抗するような素振りは見せたけど、おとなしく連れて来れた。なんか、言い方おかしいような気もするけど、事の解決が先だ。
「で、どうしたの?」
「どうしたの?じゃない。結局、昨日も聞いてないからこうして連れ出したんだろうが」
「うーん。近くだとあれだし、昨日の中庭に行こうか」
ロロちゃんは、そのまま駆けていく。俺もその後を追うように駆け出した。
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中央に座する存在感のある木を背にロロちゃんは立った。
「えっと、カインとアベルと何を話したかだったっけ?」
「不自然にロロちゃんだけ残ったしな。いくら、王子を知らないとはいえ、俺たちから離れてもどうしようもないだろうし」
「勘ぐることはないよ。あのおじいちゃんが言ってたんだっけ?あの子たちは悪魔だよ」
「断定してんのな」
「昨日はまだ、半信半疑だったけど、二人は日に弱いって言ってたでしょ?あと、最初に会った悪魔、サタンがどうしてあんな重装備してたか分かる?」
なるほど。どうやって入手してたかは分からないが、あれは日の光から身を守るためか。流石に当たってすぐにダメージに繋がることはないだろうけど、用心に越したことはない。子供の姿であるから、それに関しても過敏なのかもしれない。
「分かってんならどうすんだよ。俺たちだっていつまでもここにいられないし、早いところ話はつけなくちゃいけない」
「ソードとしてはどうしたいの?」
「別に俺はあんな幼気な子供をいたぶってまで力を取り戻そうなんざ考えちゃいねえよ。力だけ返してくれるってんならそれが一番いいことなんだけど」
「向こう側にも事情があるだろうし、はい返しますってうまくいくものでもないでしょ」
「やっぱ、言うしかないのか?」
「だろうね。ま、サタンほどではないし、協力すれば大丈夫だよ」
頭上では、太陽が照りつけている。ロロちゃんも太陽には強くないので、木の木陰に入ってずっと話している。
「やることも決まったし戻ろっか。いつまでも離れてると二人もうるさいだろうし」
「なあ、ロロちゃん」
「ん?」
「太陽の下で遊べないのか?」
「他の魔族よりはマシ……日中活動してるモンスターは置いといて、上級魔族ね。大体、戦って来た相手って、洞窟の中とか、ダンジョンの奥深くだったでしょ?あれも、すぐに逃げさせないようにするためもあるけど、陽の光を避けてるからなんだ。確かに私は四分の一は人間だけど、魔王の血族であることには変わりないから長いこと陽の光には当たれないよ。長くてもニ、三十分が限界」
「そっか。日が当たらなければ大丈夫なのか?」
「直接ね。二人も極力肌を出すような格好はしてなかったでしょ?」
確かに二人の格好は、長袖、長ズボンだったな。顔だけは室内であったからだろうが出ていたが、だからこそ外に出ることを拒んでいたんだろう。
「あいつらを傷つけずに力を戻せないか?」
「無理だよ。……ソード、ちょっと耳貸して」
「何だよ。誰もいないんだし別に……」
ロロちゃんに耳を引っ張られて、耳元で囁くように話した。
「そうなのか?」
「そういうものだよ。この世界における悪魔って。お父さんから聞いただけだし、イマイチ確証はないけど」
「それが分かったところで俺はどうすんだよ」
「あとは気力、体力、ガッツだよ」
「ロロちゃんからそんな根性論を聞くとは思わなかったよ」
誰かに毒されたか?うちのパーティにそんな根性論を唱える奴はいなかったと思われるが……。意外にロロちゃんはそういう子なのかもしれない。俺たちに会うまでは、猫の姿で各地を転々としていたらしいし。
俺は、仕方なくロロちゃんに言われたとおり、気力と体力とガッツを引っさげて、王子の部屋へと戻ることにした。




