1000年前の世界
王子に院長へしばらく修道院に泊まることを伝えてもらい、俺たちは客室へと案内された。
俺だけ隔離されて。
「だから、何度も言うがこれは差別だと思う」
「差別じゃなくて区別。男女一緒じゃダメなんだって」
「じゃあせめてロロちゃんだけでもこっちください」
「行っていい?」
「甘やかしちゃダメ」
何か目に見えない結界が張られてる様子。丁度部屋の中央で仕切りになっているようだ。しかも、わざわざ扉を二つ用意してるし、なんだこの用意周到ぶりは。俺が何かやらかすことを前提してやってるのか?
「少なくともいきなり信用しろって言われても信用には足らないね」
「お前らが説明してくれりゃいいじゃねえか。俺は地面でも構わないからさ」
「それはそれでこっちが気が引けるというか……」
どうにかして、向こう側へ行こうとしてもそれははばかられるものらしい。でも、これでは手出しが出来ないというだけであって、あまり意味がなくないか?
「その点は大丈夫。目張りももらってるから」
「まだ寝ないのにやめて!それは寂しいだろ!」
「一番年上なのにそれはそれでどうなの?」
きっとハムスターみたいな感じだと思われる。
よく寂しくて死ぬと言われてるウサギはあいつ性欲の溜まりすぎで死ぬらしいから。だから、目もいつも充血してるように赤いんだぞ(適当)。
結界を破ろうにも俺の力では到底無理だし、やろうにも何かしらのセンサーが作動するだろう。だから、俺が合法的に一緒に寝るためには向こうから来てもらうしかないのだ。1人、夜中に実行しそうなのはいるけど。まあ、誰とは言わない。
「それじゃあさ、さっきアリスが言ってた1000年前の国の話をしてくれよ」
「必死だね」
「うっさい」
「お兄ちゃんの頼みなら夜が明けるまで話してあげる。そっち行っていい?」
「だから行くなゆーとろうに」
「もうウィナちゃんけちんぼ。お兄ちゃんがこっちに来ることは禁じられてるけど、こっちが向こうにいくことはなんら規制されてないんだから」
「ソードにも我慢というものを覚えてもらわないと」
「お兄ちゃん結構我慢してると思うよ?」
「何を」
「な、何をだなんて。恥ずかしくて私の口からは言えないです///」
なぜ照れる必要がある。照れられると俺が性欲の塊みたいに思われるだろうが。ウサギとは違うんだよ。ちゃんと自制できんてんだよ。
「ちょっとお兄ちゃんが何の反応もしてくれないと、私がえっちな子になっちゃうじゃん」
「お兄ちゃんにはお前のキャラがつかめないから、どう反応していけばいいのか対処に困ってるのだよ」
「まあ、知識だけつけすぎたませてる女の子ってポジションで」
「それはアリス的にありなポジションなのか?」
「お兄ちゃんが構ってくれないから、私なりにアプローチをかけてるんだよ。察しが悪いよ。そんなんじゃ、いつか周りに誰もいなくなっちゃうよ?」
「妙に生々しい金言をありがとう。ついでに言うと俺の周りってお前らしかいないのだが」
「そ、それは……」
「ご愁傷様……」
二人して手を合わせないでくれ。しかも、いつか離れること前提だぞそれ。
「ソード。そんなに友達いないの?」
「いないんじゃないぞ。作れなかったんだ」
「素直に認められないのはなんなの?見栄っ張り?」
多分、プライドだと思います。勇者のくせにコミュニケーション能力がないとか、主人公ポジションなのに、人と関わることがあまりないとか、そんなの悔しいので。いや、多分コミュ能力はある。初対面の女の子に話しかけれるぐらいだし。でも、基本的には受け身です。誰か話しかけてくれるか、どうしようもなく用がある時ぐらいにしか、話そうとは思いません(パーティメンバー除く)。
友達が少ない以前に友達を作ると人間強度が下がるとか言った人も過去にはいるらしいです。じゃあ、友達の少ない俺は人間強度が高いんですね。分かります。
でも、正直俺自身もそんなに友達って必要なのかな、とか思い始めてもいます。18歳で悟りを開き始めてるぜ。友達100人できるかな〜、とか辞めとけ。その友達100人、絶対お前より仲のいい友達がいるぞ。
「誰に語ってるの?」
「初等部一年生の頃のウィナ」
「あれは無理やり言わされてた感も否めないから、当時の私を責めないであげて。証拠に100人も友達いないし。顔見知りなら100人を軽く超えてるけど」
多分、俺も顔見知りなら100人いるんじゃない?知らんけど。こういうのって、こちら側が知らなくても、向こう側が一方的に知ってる可能性もあり、急に話しかけられて「お、おう」と返事しつつも(こいつ誰だ……)的な現象も起こる。俺は「国王現象」と呼ぶ。だいたい国王も同じようなことじゃん。きっと、うちの王様もさすがに一人一人覚えてないよ。
「俺の友人関係は後々どうにかするとして」
「後々どうにかなるものなんだ……」
ウィナがなんか言ってるけど、聞こえなかったことにして話を進める。俺は1日何度いじめられればいいんだ。
「1000年前のこの世界だ。何がどうなったんだ?俺は知っての通り教養がすこぶるない」
「胸張っていうことじゃないでしょ」
「文句ならオヤジにまで。ウチへの連絡先はこれだ」
「必要ないし」
「あっそ」
出した連絡先の書いた紙を再びポケットの中に突っ込む。何かあった時のために母さんが持たしたものだが、肝心の連絡を取る方法がないのはどんな愛情なんでしょうか。
「話が進まないから私から話していいですか?」
「ワクワク」
意外にもロロちゃんも興味があるらしい。やはり、こちらの世界について知らないことも多いだろう。俺の知ってるだけの知識ならば、少なくとも魔界は突如繋がったものだ。それまで繋がってなかったのだから、存在してなかったことになる。いや、元々別の次元に存在していたものが何らかの要因で繋がってしまったと考えるべきなのか。
「どこから話したら分かり易いかな……」
そして、年下の女の子に説明してもらうために、分かり易さまで配慮してもらうアリスの出来の良さ。ロロちゃんのためだよね?俺に的を絞ってるわけじゃないよね?
「じゃあ、まずは地殻変動のところですかね」
「ちかくへんどう……ってとアレだ。アレだな」
「う、うん。アレだね」
言葉の意味がイマイチ分からないから、適当にアレで済ます、俺とロロちゃん。こそあど言葉って誰が考えたか知らないけど素晴らしい文化だと私は絶賛させていただきます。
「分からないならちゃんと説明してあげますから……知ったかぶりのような相槌を打たないように」
「「申し訳ございません」」
先生と生徒だな。一人は呆れを隠すことなくため息をついていた。だったら、お前が俺に教えてくれればよかったじゃねえかと、目で訴えたけど、どうせ聞かなかったでしょ、と目で返された。
「地殻変動はね、大陸移動って言うと分かり易いかな。昔の文献によるとね、今は一つになってるけど、前は大きく六個の大陸に分かれてたらしいの。何らかの影響で大陸移動が起きて、今の大陸の形になったって言われてるよ」
さらに前、それこそこの地球が生まれた際には今のような一つの大陸のようだったらしい。それが分裂して、またその大陸は一つになった。そのおかげで、陸続きになって、極端に暑いところと寒いところが出来てるとのことだ。
「でも、そんなデカイ大陸移動が起きたんなら、地球規模で何か衝撃があったんじゃないのか?」
「それこそ、隕石が衝突しただとか、地震が何度も起きただとか、火山噴火で地面が隆起しただとか、いろんな理由が考えられるけど……理由は明確にはなってないみたいです」
「そっか。なら、モンスターについては?」
「次はその辺りですね」
先ほどから使ったりモンスターの名前の由来にもなってるとおり、かつての動物は数こそ少なくなったものの現存しており、姿も確認されている。
では、モンスターはいかにしてこの世界に順応し、繁殖していったのか。
何らかの作用で地殻変動が起きた時に、同時に時空の歪みみたいなものも生じたらしい。これが、人間の住む世界と、魔族の住む世界が繋がった瞬間らしい。当時は魔族側の勢力も戦闘力も高く、打つ手がなかったようだが、如何せん知能が足りなかったそうなので、数年経つうちに対抗できるだけの力をつけた人間たちがモンスターを討伐できるほどまでになったという。
だが、その数年の間に、生態系が変わってしまい、モンスターが一般の生物のような世界となってしまったのだ。
ゆえに、それを討伐するためのハンターが必要となってきた。さらにそのモンスターには操ってる者がいると特定し、その親玉を叩く計画もなされた。それが、後の勇者ということだ。
「魔王の一族はどうやって、この世界の存在を知ったんだ?存在を知らなきゃ侵略のしようもないだろ」
「時空の裂け目が一つじゃなかったか、もしくはどこから見ても分かるような大きなものだったか、そうすれば説明はつくと思うけど、これならロロちゃんのほうが詳しいんじゃ……」
「え?私?知らないよ?」
「期待した私がバカでした。すいません。じゃあ続けます」
俺も大概だと思っていたが、ロロちゃんも同じぐらい教養がないようだ。そもそも魔界とじゃ、システムも違うし、その場その場で済むものだったのかもしれない。
「そもそも、この地殻変動自体が、この世界で起きたものなのか、もしくは、魔界側が起こしたものかでまた見解が変わってきますけど……私は後者じゃないかと」
「根拠は?」
一応ウィナも参加しているので、質問が入ってきた。
「ほっといとても、地球っていつか滅びるものらしいんですね。大体の年数も分かってるんですが、普通地殻変動なんて起きれば、一種のこの世界の終わりみたいな出来事だと思うんです。でも、普通に人も他の生物も生き残って、地殻変動以外の自然災害は起きなかった。その代わり本来ではありえなかったモンスターたちがこの世界に現れ始めたことから、多分向こう側が何らかの意図があったか、もしくは偶発的なものかは分かりませんが、魔界側が何かをしたってところですね」
「確か1000年前は魔法なんてなかったんだよね?」
「ええ。人間の魔法の第一歩は魔界への接触が最初ですからね」
「じゃあ元々魔法は魔界の生物しか使えなかったってこと?」
「そういうことです。今は人間も普通に使えるように改良されたから、本当に使えなかったかどうかは実証できないですけどね」
「でも、人間側が魔族側に歩み寄ったなら、何で今は人間対モンスターみたいな構図が出来てんだ?魔法は一種の自衛術であって、互いに傷つけるものじゃないだろ?」
「あんまりこういう言い方はしたくないんだけど、1番最初に教わった人はそのつもりだったと思います。でも、人間とモンスターでは姿が違いすぎますからね。毛嫌いする人もいると思います。今じゃ、モンスターは人類の敵と教育されますからね。いつ頃からかは分からないですけど、モンスターに対抗できる手段を手に入れた人間側がモンスターたちを攻撃していくようになったんでしょう」
「なんか悲しいな……ロロちゃんみたいな可愛い子もいるのに」
いつの間にかこちら側に来ていたロロちゃんの頭を撫でる。う〜ん、やっぱり嫁には難しいな。よくて妹か……。
「いつか共存ができるといいんですけど……極論を言えば棲み分ければ、1番問題がないですけど。1000年前はそうしていたわけですし。……今日のところはこの辺にしておきましょう。いつの間にやらそっちの方に行ってる不届きものがいるようですし」
「い、今から戻るから!」
急いで俺の腕の中から飛び出し、扉を勢いよく開け……その勢いのまま壁に突っ込んだ。
なお、返事がない。屍のようだ。
トゥルトゥルトゥルトゥトルットゥルル〜
ゲームの効果音って文字で表記がしにくいな。
試しにほっぺたをひとつまみ。
柔らか!
だが、起きる気配を見せない。これはあれですか?やりたい放題ですか?
と思ったが、いかんせん、俺の命があっという間に危機に瀕するので、とりあえず持ち上げることにする。
「お届けもので〜す。ロロ・アークハルト嬢をお持ちしました」
「ありがとうごさいます〜。あっ、領収書はいいので〜」
アリスがロロちゃんを引き取って中へと戻って行った。
そして、俺が再度部屋に戻ったときにはすでに目張りがされていた。
俺、悲しいよ。
独り、孤独な夜を過ごすことになりましたとさ。別に独りが怖いわけじゃないもん!
などと、俺が言ったところで可愛げがあるわけでもあるまい。
備え付けのベッドへ体を潜り込ませたら、意外に疲れていたのかすぐに眠りにつくことが出来た。




