心に仮面を
王子の部屋と案内された場所の扉をノックする。
「王子。いるか?」
返事は返ってこない。
「いないのかな?」
「また受付に戻ってるかもしれんな。どうしたものか……」
「何が?」
「いや、俺が1人で戻ってもいいんだが、お前たちだけここに残しておくのも気が引けるというか」
俺が1人で苦悩していると、扉が開いた。
出て来たのは二人の小さい子供だった。ロロちゃんより小さいな。年の瀬で言えば7,8歳ぐらい。男の子と女の子が1人ずつだ。
「あ、あの〜スター兄ちゃんに何か用ですか?」
女の子を庇うようにして男の子が俺たちに喋りかける。その一生懸命な姿が可愛らしい。
俺も笑顔で対応してやろう。
「悪いな驚かせちゃったか?その通りスター兄ちゃんに用なんだが、いつ戻ってくるとか聞いてるか?」
「スター兄ちゃんに、院長様以外の男の人は信用ならないから言うこと聞いちゃダメって言われてるのでお断りします」
あっちゃ〜、こんな小さな子供にまで嫌われちまったい。
って、なんでだよ。なんでこんな丁寧に入室を断れなきゃならないのだ。思わず、ああ、そうですかって頷いちゃいそうだったよ。
だが、子供は言いつけを守るからな。俺が言っても逆効果だな。
「ウィナよろしく」
「意外に簡単に折れるのね。仕方ないけどさ。ねえ、ぼくたち。私たちね、スターお兄ちゃんの友達なの。戻ってくるまでここで待ってちゃダメかな?」
子供は顔を見合わせている。信用に足る人物かを推し量っているようだ。数秒の間を置き、手招きでウィナたちを部屋に入れた。
さて、俺も入るか……。
「あ、あなたは外で待っていてください。見張りです」
やんわりと役割を与えられて入室を断られた。俺、毎度のごとく何かしたかしら?今回に至ってはノックして、王子の戻ってくる時間を子供たちに聞いただけだぜ?
てか、見張りって、何を見張る必要があるんだよ。まさか、本当に中二病ノート作ってんじゃないだろうな?ありもしない空想世界を描いてんじゃないだろうな?
とりあえず、することもないので、仁王立ちで待つことにした。
道ゆく修道士に時折敬礼してたら、変な目で見られたけど、気にしない。こうして、メンタルというものは鍛えられていくのだ。
ーーーーーーーーーーーーー
「いてっ」
どこかに頭をぶつけたような痛みを感じて目覚める。どうやら、扉の前で眠りこけていたようだ。
頭をかきながら、辺りを見渡す。だが、目に見えるのは殺風景な石造りの回廊だけだ。
もう一度、振り返ると奥から人影が見えてきた。
規則正しい靴音がこちらへ向かってくる。
「あなたは一体何をしてるんです?」
「いや、1人で居るところを見られるのは悪いことをしてる気分でなんとなくだ」
靴音が近づくと共に俺は壁と一体化しようとしていた。我ながらにアホである。小学生か。
「お前に用があったんだが、中にいる子供達に俺だけ追い出されてな。中に入れてもらえない?」
「別に構いませんが……中には誰がいるんです?」
「さっき言った7,8歳ぐらいの子供二人と俺と一緒にいた女の子三人。うち1人はお前の妹だけどな」
王子は顔を手で覆うようにして、ため息をつく。
「また、なんであいつは来たんだ……。そもそも、よく父上が許可を出しましたね」
「まあ、学校に行かなくなっちまってな。行かなければ、勘当するって話になっちまって、城でぐうたらしてるぐらいなら、俺たちと一緒に旅するかってことになったんだ。一応目的地はここまでだけどな。後どうするかは、アリス次第だ」
「アリス……ですか……」
「別に深い意味はないぞ。そう呼んでくれってせがまれてな。城の外だから誰も咎めないだろってことだ」
「別に構いませんよ。あいつは昔から無駄に頭が良いし、要領がいいから学校では物足りないんでしょう。旅に出ていてほうが、いい経験になると思います」
「怒らないんだな」
「私が横槍を刺すようなことをしてもあいつは聞かないでしょうしね。ここで立ち話してるのもなんですから、入ってください。ただ……」
そう歯切れ悪く言って、扉を開ける。
元々、一人部屋だったようで、そこまでのスペースがなかったようだ。五人もいて、かなりいっぱいいっぱいになっている。
「スター兄ちゃんおかえり〜」
「おかえり〜」
先ほどの子供たちが王子に抱きついてくる。
王子はそれを優しく受け止めて、頭を撫でてやっている。
「あっ、さっきの人」
俺を見て、指を差す。こら、人を指差すんじゃない。
「大丈夫。あまり信用ならないかもしれないけど、この人は私がここに来る前の師匠なんだ。ちなみに私自身もあまり信用してない」
実の元師匠に向かってなんて暴言を吐きやがる。この元弟子は。そんな子に育てた覚えはありません。まあ、育ててないから当然だけど。
「紹介します。この二人はカインとアベル。男の子のほうがカイン、女の子がアベルです」
二人が自己紹介をされると頭を下げた。それでも、俺を警戒してか、王子の袖に隠れている。
「お前が余計な紹介するから怖がってんじゃねえか」
「デカイからでしょう。背を縮めればいいです」
「無茶言うな。にしても、一人部屋なのに、なんで子供が二人もいるんだ?」
「あんまり、人に懐かない子でしてね。私と院長様だけにはなんとかというところです。だから、他の子供達とは別に私のところで生活しています」
「の、割には俺以外の女子3人は普通に受け入れたぞ」
「あなたと違って邪な気持ちが感じられなかったんでしょう」
「ドンマイ、ソード」
「慰めないで。悲しくなる」
ロロちゃんに肩に手を置かれて、励まされてんだけど、なんだか屈辱的です。どこに来ても一度は俺は貶されるんだな。嫁候補に最年少(見た目)のロロちゃんを選ぶくらいだし致し方ないのかもしれない。
俺、そんな危ない人に見えますかね?
「怖がらなくていいよ。ほら、よく見てみて。アホづらでしょ?何か企むことのできる頭を持ちそうにもないでしょ?」
幼馴染よ。それは、俺に対してなんの擁護にもなっていない。子供達に安心を与えるためだろうが、ウィナの中で俺は一体どんな評価なんだ。
それでも、女子の中では一番年上ではあるので、ちゃんとお姉ちゃんをやっているようではある。元々が世話焼き気質だから、子供とかの相手をするのも好きなんだろう。将来性を考えるならば、ウィナはいいお嫁さんになりそうだけどな。
「そういえば、私に用があるんでしたね。この部屋にいるのもなんですし、少し外に行きましょうか。カイン、アベル。また少しお留守番をよろしく」
「また行っちゃうの?」
「すぐに戻ってきますよ」
「どれくらい?」
「30分……長くても1時間後には戻ってきます」
「ねえねえソード」
「あん?どした?」
「私、ここに残ってていい?」
「別に構わないけど……王子に了承取らねえと。いいか?」
「……いいですよ。この子達も暇でしょうし、相手をしてやってください」
ロロちゃんだけを王子の部屋に残し、俺たちは修道院の中庭へと赴くことにした。
二人には聞かれたら困る話なのだろうか。
それと、ロロちゃんがあの部屋に残ったのは何故だろうか。あの二人の子供。カインとアベルになにか感じるものがあったのだろうか。
様々な疑問を頭の中に呈しながら、俺は王子の後ろを歩いた。
ーーーーーーーーーーーーー
中庭には一本のデカイ木が立っている。以前聞いた話によると、すでに樹齢千年を超えるらしい。クロイツ修道院の象徴としても、残しているとのことだ。昔から、木やら自然のものは信仰の対象にされがちだしな。これもその一つなのだろう。
「さて、一体何の用ですか?」
近くにあったベンチに腰を下ろし、王子は俺に問いかけた。
地面は芝が綺麗に整えられている。サクサクといった音が踏みごこちも耳にもよい。
外は黄昏時で、もうすぐ夜になりそうだ。
「単刀直入に聞くか。お前、修道院に来てから何があった?」
「何が……と言いますと?」
「まずは、それだな。お前は城の外ではその鼻につくような敬語だったけど、俺の前でそんな風に喋ってなかったろうが。一人称だって『私』なんかじゃなくて、『僕』だっただろ」
「一応、こうしてるにも理由があるんですよ」
「理由?」
「誰に見られてるとも分かりませんからね。常にこういう喋り方なんです。鼻につくようなら謝りますが、勘弁してほしいです」
「誰かに……見られてる?」
「口が滑りましたね。知っての通り私は結構多弁なので、人と関わるとついポロリと重要なことを言ってしまいかねない。嘘と真実を分けて話せないです」
「そうだな。お前はなにかある度に俺に逐一報告して来るようなやつだったからな。それで、誰かに見られてるってのは?」
「外ではないんです。それは……内側からです」
見られてると言われれば、普通は外……というか、誰かが自分を対象として見ている……なんか上手く説明出来ん。それが、内側から見られているというのはどういうことなのだろうか。
「イマイチピンとこないと思いますが、心を見られてるということですかね」
「心?が、見られるとどうにかなるのか?」
「まあ、自分の考えてること、感じてることを読み取るとはまた違うんですが、心の持ちようと言うんですかね。自分では思ってないと考えてることを見られてるというか」
王子の説明も抽象的でなかなか要領を得ない。結局のところどういうことなんだろうか。
「スター君が言いたいのは、深層心理ってやつかな?」
「深層心理?」
「例えば私がソードのことを好きだと感じてるけど、さらに奥では殺したいほど憎んでるって感じかな」
「ウィナ……そんなに恨んでるならいっそやってくれ」
「だから例えばだってば。そんなに鬱にならないでよ」
「ウィナちゃん、そんな例えじゃダメだよ。こうしないと。私はお兄ちゃんが好きだけど、お兄ちゃんはロロちゃんが好きです。でも、私もロロちゃんは好きで、向こうも私のことを好いてます。でも、このままだとお兄ちゃんは私のものにならないので、上手い手を使って、ロロナちゃんを排除したいです」
それ、深層心理でもなんでもなく、ただ単なるアリスの欲望だろうが。しかも、今の現状を表してんじゃないのか?ロロちゃんが危ない。
「お願いだから、争いは起こさないでね」
「恋は争いだよお兄ちゃん!」
誰がうまいこと言えと言った?
「アリス……まだ、その癖は直ってないのか?」
「兄様に言われたくないです。私は名目上兄様と呼んでるだけなので、お兄ちゃんと呼んで欲しければ、私にお兄ちゃんらしいところを見せてください」
「今更言われてもな……」
「ということで、旅をしてる間もこれからもソード兄ちゃんが、私のお兄ちゃんです」
「妹がすいません」
「もう慣れた。気にすんな」
「それはそれで複雑なんですけど……。今日のところはこれでいいですか?もう時間なんで戻らないと」
「そうか。最大でも一時間で戻るって言ってたな」
「ええ。客室はあるので泊まって言ってください。話は通しておきます」
「サンキューな」
王子は一礼して、俺たちの元から走り去った。あんなに急いで何かやることがあるのかね?
「どうだった?感触は」
「まあ、嘘をついてるようには見えんかったな。ただ、その内側を見られてるというのが悪魔の可能性がある。しばらくは修道院で世話になるか」
「男だらけのところで寝るんですか?」
「いや、シスターもいるし。男ばかりじゃないだろ。確かに男の比率のほうが高いだろうけど、仮にも聖職者だ。間違いはないだろ」
「一番間違いを犯しそうなのがここにいるし、これさえ押さえておけば安泰だよ」
「だから、少しでもいいから俺を信用してくれませんかね?手出ししたことありました?」
「ロロちゃんに手出ししてるじゃん」
「…………」
二の口が告げなかった。
またも負けて、俺は肩を落として修道院の中へと戻ることとなった。
相変わらず信用がないっていうのは悲しいことです。日頃の行い?最近はかなり善処してます。
少し、修道院で俺も鍛えようかな……。
そう感じさせる今日一日でした。




