修道院の異変
今日も今日とて、モンスターを倒しつつ着実に力をつけていた。主に、アリスとロロちゃんが。
俺のほうはどこかに戦闘の感覚が残ってるのか、力は戻らずとも動きだけは様になってきていた。本当に動きだけは。
武器は未だに木の棒のままだし、服装もTHE農民だからな。親が農家だし、問題はないが、勇者としては大問題である。これで頭にタオルでも巻いておけば立派な農家だぜ。
「ソード〜。その締まらない格好は何とかならないの?」
「アリスの親父に言ってくれ。しかもなぜか知らんが、うちの街には武具屋が存在しない」
道具屋はあるけどな。だから、大概ショボいのか、王様が集めたやたら高性能な武具と言う2択なのだ。俺は前者。王様から貰ったにも関わらず。
「もー、だから意地張らずに、おじさんに相談すればよかったのに」
「あんな親父に相談するぐらいなら、闇討ちにしてから装備をふんだくったほうがマシだ」
「出来ないくせにね」
「君は一体誰の味方なんだい?」
「もちろん、ソードの味方だよ?でも、客観的に見てそう言わざるをえないというか。ソード弱いし」
「なんだと⁉︎お前よりは……」
「お前よりは?」
「……」
勢い込んで言ってみたが、なんかウィナに勝った記憶がない。そもそも、戦法的に圧倒的不利なんですが、それについては言わない約束なんでしょうか?
ウィナは言葉を返せない俺を見て勝ち誇った顔をしている。
いやいや、待て待て。俺だってウィナが女の子だから遠慮してただけであって、全盛期は強かったはずだ。あくまで全盛期は。
「今、旅してた頃は自分のほうが強かったとか思ってるでしょ?」
「うっ。なぜ分かる」
「分かり易すぎるの。いつまでも過去の栄光に縋ってないで、現場を見据えなさい」
「へーい」
「ねえねえソード」
ロロちゃんが俺の服の裾を引っ張る。
動作がとても可愛らしいので、このまま誘拐しちゃいたい(犯罪)。
そんな欲望は飲み干して、またも努めて平静を取り繕う。
「どうした?」
「弱い弱い言われてるのもかわいそうだし、まだ戦う?」
「ああ……今はいいや」
「どうして?」
「もうすぐだからな」
俺は目線を少し先に見据える。
西洋風のレンガ造りの立派な建物が、道ゆく途中に建っている。
あれこそ、旅の途中目的地の、修道院だ。正式名はクロイツ修道院。名の通り、クロイツ院長が修道院を治めており、クロイツの名は、後継に襲名されていく仕組みらしい。
俺は修道院の人じゃないからどうでもいいが。
あそこに我が町の王子殿がいるはずだ。
アリスを連れての旅は一旦ここで区切りだ。
「せっかくだし、王子に会っていくか」
「元々その予定でしょ」
「…………」
「どうした?アリス、黙っちゃって。トイレか?」
「なんかツッコミを入れるのも疲れるから流すことにする……」
ボケって、ツッコミがいないと成立しないから、流されると痛いものがある。主に俺の存在が痛くなる。流した側には基本的にダメージは喰らわないから、ボケって諸刃の剣だよね。諸刃の剣ってなんかカッコいいけど、そんなにいい意味じゃないから自分自身が諸刃の剣にはなりたくない。
「兄様……迷惑じゃないかな……」
「妹が遥々来てくれてるのに嬉しくないわけないだろ。怒ってるように見えたら照れ隠しだ。ソースは俺。妹はいないけど」
基本的に友人関係が希薄なので、名前を読んでくれるだけで嬉しいです。なんと省エネかつ、エコロジーな人間なんでしょうね。悪く言えば安上がり。
ついでにさっきのは、ボケじゃなくて、ただのセクハラだけど。軽く流せる技術っていうのも大事だね。
「ここで、立ち止まって話してるのもなんだし、会いに行かなきゃここで来た意味もないだろ?」
「そうですね。久しぶりに兄様の顔でも拝みに行きましょう。あまり変わってないといいんですが……」
「さあ、そればっかりはな……。男子3日会わざるば刮目して見よっていうぐらいだ」
「どういう意味?」
「男の子は3日もほっとくと心も身体も成長してるってやつだ」
「ソードは旅を始めてかれこれ一週間以上経ってるのに成長の気配が見られないよ?」
「いや、俺もどこかしら成長してるはずだから……」
こう、面と言われると自信がなくなる。俺だって何かが成長してると思うよ?目に見えないってことは心の面だと思うよ。
誰か俺を擁護してくれる人はいないの?
俺が1人で苦悩を抱えていると、女子三人は俺をほっぽって修道院の方向へ向かって行ってしまった。
だから、誰か俺を慰めて。
修道院はいわゆる、神父さんやらシスターがいる。女子禁制だとか、男子禁制ということもないし、礼拝堂なんかもあるおかげで、一般の旅人も来る。そのため、礼拝堂までの出入りは特に規制はない。
それより、奥に行こうとすると理由と持ち物検査を受けるけど。
「俺は無神論者なんだが、その場合でも祈っていいのか?」
「なんか前回訪れた時も同じようなこと聞いてなかった?」
「そうだったか?まあ、2年も前だし忘れた」
「別に祈るべき神がいなくてもいいでしょ。違う宗教なら、違う神に祈らなきゃいけないわけだし」
「この辺にここの修道院以外になんか宗教あったか?」
「いや、私も宗教に詳しくないから知らないけど」
「あっ、それなら私知ってますよ」
「さすがアリス。博識だな。じゃあ、まずいくつあるか教えてくれ」
「ここのクロイツ宗教を含めて大きなのは三つですね。細々したのを集めれば数はもっといきますけど、それだとキリがないので、小さいのは省略します。もうあと二つは、ブリジット教とフロート教です。本拠地はクロイツのように修道院だったり、街の教会だったりします。宗教の入脱退自体は自由だったと思いますけど、神父やシスターのように仕えてるものは終身的にその宗教に所属するとされてます。修道士などはそこまでのしがらみはないようですね。兄様がどういう扱いになってるかは不明ですけど、いきなり神父なんてことはないでしょうからたぶん普通の修道士と扱いは変わらないと思います」
急につらつらと語り出した。まさかここに来てお勉強せなあかんのか俺は。
「兄様の話はいいとして、あとは……」
「待てアリス。ロロちゃんが飽きて寝てる」
「えへへ〜。神様こんなにいっぱい〜」
寝てると言うか、半分うなされてるようにも見えないこともない。あんまり神様がたくさんいても願い事の一つすら叶えてくれそうにないけど。この世には神も仏もねぇ!というのが俺の持論なので、無神論者なのである。
「とりあえず、三つ大きい宗教があるんだな?王子はおおよそ修道士だろうが、扱いは定かではないと」
「要約ありがとうごさいます。そんなわけなんで、兄様に会いに行きましょう」
礼拝堂で適当にお祈りを済ませて、ついでに眠りこけていたロロちゃんを抱えて、奥へと進むことにした。
果たして、本当に会えるのだろうか。
俺はそんな疑念を抱いていた。




