リセット
「で、また魔王倒しに行くの?行く手段も無いのに」
とりあえず王様から聞いた話をかいつまんでウィナに説明する。よく考えればその通りだ。モンスターが出てるのが、魔王のせいだとして、その魔王のところへたどり着く手段がない。
目先の報酬に眩んで、肝心なところ聞くの忘れてたな。
「そこは明日また聞くよ。ウィナ。俺が旅で使ってた装備ってどうしたっけ?」
「なんでまた?」
「王様が俺の旅の装備を用意するって言ってたんだ。そうすると、あれ?俺の装備どこやった?って話だろ?ウィナ、行方知らないか?」
「あ~確か、セドさんがソードとの決闘に勝ったから、次まで預かっておくとか言ってなかった?」
「あのオッさんかよ……」
セド。本名、セド・ギルフォード。オッさんと言ったが年は24、5。職業はコックらしい。コックが戦闘とかしてんじゃねえよという感じだが、どこで鍛え上げたのか、身体はやたらゴツい。そのせいで、年より老けて見える。旅の後は、山籠りするとか言ってたな。これはあいつがいなくなった後聞いた話だが。
「そういや、俺の装備、あの時いつの間にかなくなってた……」
「気絶してたからね。記憶が吹っ飛んでたか」
「負けたことだけは覚えてる」
「まあ、何にせよ用意してもらえるならもらっておきなよ。文無しでしょ?」
「日雇い金すら出さないバイトのせいでな」
「幼馴染なんだし、ご飯出してあげてるだけでも感謝しなさい」
「へいへい」
報酬でいくらかの貯蓄はあるが、二年もそれだけで暮らせるわけもなく、そろそろ貯蓄が尽きかけている。元々、それもほとんどを両親にあげてしまって、俺の元へ残っていたのはあまりないのだ。
俺は旅から戻ってから、一人暮らしで、両親から離れてたせいで散財しまくり、見かねたウィナにバイトする代わりに飯を恵んでもらっている。
前述したが、ウィナの家は道具屋を営んでいる。
こんなご時世なので、護身用アイテムぐらいしか売れないけどな。
「ソードがちゃんと宣伝してくれればいいんだよ」
「需要がないもんが売れるかよ」
「『あの伝説の勇者も使っていた!』とか煽り文句入れておけば。本人いるんだし」
「自分で自分のことを伝説の勇者なんて言いたかねえよ。大体、あんなもん一時の持ち上げだろ。二年も経った今じゃなんの効力もねえよ」
「まあ、実際のところ魔王まだこの世界にいるし」
「それなんだよなぁ」
天空に浮かぶ城。いつからかその城は『スカイラビリンス』と呼ばれるようになった。すでに行く手段が見つけられていないということから迷宮扱いだ。
中は言うほど迷路になってるわけでもないけどな。
「あの時、俺たちどうやって出てきたっけ?」
「なんかいつの間にか外に出てたような……?」
城が崩れるような音がしたから、危機を感じて出てきたような気もするし、ウィナの言う通り、いつの間にか外に出ていたような気もする。
「お前がテレポートでも使ったんじゃね?」
「テレポートは室内じゃできないんだけど」
「何?その制約。ドラクエ?」
「ああ、あの最初以外はイマイチドラゴンを倒してないような気がする、大人気シリーズ」
いることにはいるんだけどな。最初のラスボスが竜王だったせいで、ドラゴンクエストになったんだろう。別のモンスターがラスボスなら、きっと名前も変わっていたはずだ。その場合は人気シリーズにならなかっただろうけど。
「ゲームでなくても、この世界にドラゴンは普通にいたけどね」
「魔王も何回か変身してきやがるしな。その中にもドラゴンが入ってたな」
魔王は最初は人の姿だった。ゲームよろしく、変身は三回。最後の変身でドラゴンに変身して、城ごと空へ行きました。あれ?やっぱ、浮いてんじゃん。まあ、元に戻ってんだろうけど。
「ご飯どうする?」
「もうそんな時間か」
こんな会話してるとまるで夫婦のようだ。
「結婚でもすっか?」
「なに寝ぼけたこと言ってんの。食材切れてるから、買い出し行った」
「別に寝ぼけてないけどな…」
割りかし、本気で考えてたりもする。勇者だからと言って、稼ぎがあるわけでもないし、本当に貰い手がなさそうだし。だが、こうもあしらわれては、取りつく島がない。
メモを手渡され、食材を買いに出る。勇者ということもあって、王様から割引の権利を頂戴している。だから、こうやって買い出しに出されたりするわけだが。
なんだか、店の人に申し訳ない。だけど、利用できるものはなんでも利用しておかないと、俺の生活はギリギリなのだ。
その生活も今日でまたおさらばだ。
そうだと信じたい。
「毎度あり。ソード君もいつもご苦労ね」
「こっちこそ、勇者なんて今やってないのに割引してもらちゃって」
「いいのよ。ウィナちゃんと仲良くね」
「はは。まあ、よろしくです」
公認の仲のようだが、向こうにその気がなさそうですしね。
愛想笑いをしておき、ため息を交えて、その相手が待つ家に戻る。
戻るとすでに店じまいをしていた。日がくれる頃になると、閉店時間だ。わざわざ夜の時間帯に買いに来る客もいないからな。
店側からは入れないので裏口に回って、ウィルザート家にお邪魔する。言っていなかったが、ウィナの本名はウィナ・ウィルザート。代々魔法使いで、店は元々は魔法で調合した薬品とか売ってたけど、それだけじゃ効率が悪いとかで、普通の道具も売るようになったとかなんとか。幼馴染あれど、人の家の事情までは知らない。深く追求するものでもない。聞かなくても俺に支障があるわけでもないしな。
「おかえり。ちゃんと買ってきた?」
「そこまでガキじゃねえよ。そもそも俺はお前より一個上だ」
「そりゃ失礼。18だったっけ?」
「そうだ。だから、結婚も可能だ」
「さっきから妙に押してくるけど、何かに危機感でも覚えてるの?それに明日出発って言ったじゃん」
「相手探し」
「勇者なんだからよりどりみどりでしょ。幼なじみでちょっと一緒に旅しただけの魔法使いに欲情しなくても」
「言い方ってもんがないか?」
「お姫ちゃんとか」
「狙ったら王様に刺される」
「狙う気だったのかロリコンめ」
否定はしない。
だって可愛いんだもの。可愛いは正義。可愛いは絶対。王様が過保護になるのも分かる。まあ、当の王様は嫌われている模様。これも俺の知ったこっちゃない。
でも姫も15なので、法律的には問題はない。だれが決めた法律とかは知らない。世の中知らないことだらけだ。でも、きっと知らない方が幸せなこともある。
例えば、俺が本来の力を失っていることとか。
モンスターがいなかったし、大事も起きなかったし、ウィナが近くにいたから何とかなったものの。誤魔化しきれるとも思えない。
力はリセットされてしまったのだ。もう一度、鍛え直すしかない。リセットされたものが戻るとは思えないしな。
ただ、一つだけ文句を言うのなら、
「オッさん、俺の装備返しやがれ‼︎」
「ご飯ぐらい静かに食べろ!」
「ぐほぉ!目があ!」
箸が飛んできて、目に刺さった。
今日の出来事。今日は何かと投げつけられて、攻撃されることが多い一日でしたまる。
涙を流しながら、晩飯にありつくことになった。