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魔王拾いました  作者: otsk
プロローグ
19/145

ある夜の出来事

 みんながすっかり寝静まった頃、俺は1人、テントを抜け出していた。

 別に1人で特別な修行をしようと思ったわけでもない。何と無く寝付けなかっただけだ。

 空には無数の星が輝いている。

 そう言えば、星が神聖なものだったり、綺麗なものだったりして、時には願い事をするための流れ星が空を駆ける。

 夢のない話をすれば、あれは宇宙で出たゴミだそうだ。だから、本来名前すら持たない星のほうが多いとも聞く。あの星のいくつに意味があって、存在をなしているのだろうか。

 人も同じようなものなのかもしれはい。大多数の人がこの生まれ落ちた世界に名を残すことなく消え去っていくのだ。

 だけど、俺は、少なくとも勇者として、英雄として名が残る。

 ニート勇者として名が残るのなら願い下げだけどな。

 でも、俺自身は語り継がれる名前より、誰か一人に俺のことを覚えててもらうほうがいいんだけどな。

 空にはまん丸の円を描いた月が浮かんでいる。今日は十五夜だったか。

 あの月も、本当は綺麗な円などではなく、表面上はボコボコとクレーターが空いてんだけど……まあ、行ったことないし、見たことないから、俺が断定できるものではない。

 こうして、1人でいてもやることがないな。

 俺は、寝付けなくても無理やり寝ようと思い、テントに戻ろうとした。

 だが、少し離れた位置に人影を見つける。

 俺はその人影に吸い込まれるように近づいた。

「ウィナ。何やってんだ?こんな夜中に」

「それはこっちのセリフ。夜中にコソコソ起き出して何やってるの?」

「寝れなかっただけだ」

「ふーん」

「お前はどうなんだよ」

「テントの外に出る気配があったから、様子を見に来ただけ。もう戻るなら、私も戻るよ」

 踵を返して、ウィナはテントに戻ろうとする。

「ま、せっかくだし話していこうぜ。2人きりなんて久しぶりだろ」

「……いいよ。どうせ、私も今から寝ようとしても寝付けないだろうし」

 俺はウィナを引き止め、話すことにした。

 こうして2人だけでいるなんていつ以来だろうか。

「何を話すの?」

「別に決めちゃいない。そっちが話したいことがあれば聞くし、特にないなら、俺が話題探しでもするよ」

「特に決めてないのに、引き止めたのね……」

「別に変な気を起こしたとかじゃないぞ」

「はいはい。今はロロちゃんにお熱だもんね」

 なんか妙に言い方に引っかかりと言うか、トゲを感じざるを得ないのだが、気のせいだろうか。

「もしかして最近構ってあげなかったのを怒ってんのか?」

「別に、私だってそんな子供じゃないし、ソードが誰に興味持ったって、私には関係ないし、でもでも、私だって女の子だってことを忘れてないかなって……」

 気にしてないと言う割には、饒舌に語る。しっかりしてるように見えても意外にさびしんぼなのだ。よく考えれば、前組んでたパーティーでは最年少だったし、どちらかといえば甘えさせてもらえるほうだったのだ。2年経った今は、自分より年下の子がパーティーにいて、自分より年上の俺は、頼りないと言う現実で、自分が気張って、まとめなきゃいけないのだ。精神的に疲れてるのだろう。

 少しふくれっ面で、俯くウィナの頭を撫でてやる。

「なに?」

「いや、悪いなって思ってさ。いつもお前ばっかり頼りにして。俺が一番年上なのにさ。俺が一番しっかりしなきゃいけないのに」

「でも、私もなんだかんだで世話焼き気質なのかも。頼りにされるのが嬉しいもん」

「なるべく、お前にばかり負担がかけないように早く俺も強くなるよ」

「ソードの場合は戦闘云々より日常生活のほうをどうにかしてほしいんだけど」

「善処する」

「心当たりはあるのは判ってるのか」

「散々言われてることだしな。……なあ、ウィナ」

「どうしたの?」

「例えばさ、俺は何代目か知らないけど魔王を討伐すれば名前が残って語り継がれるわけじゃん。討伐しなかった場合はどうなるんだろうな」

「んー。ソードは前代の勇者を覚えてる?」

「いや、特にこれと言った話は聞かねえから、いたってことぐらいだな」

「きっと、勇者であれどそんなものなんだよ。きっと、世界を救っても、世界を救ったって事実だけが残っていて、誰が救ったかなんて年が経てば、誰も気にしなくなるものだよ」

「そんなものか……。なんか寂しいな。せっかく、全世界のために体張ってモンスターを倒してるって言うのに」

「勇者であるソードはましだよ。勇者が何かをやったって残るんだから。パーティーメンバーなだけの私は特にそんな記述なんてされないよ?」

「でも、ウィナの親の名前は結構聴くぞ?」

「うちの親は勇者のパーティーメンバーとしてではなくて、魔法学、薬学のほうで名前を馳せてるの」

「そうなのか……。なんで、ウィナは名前がロクに残らないことも判ってるのに、俺について来てくれんだ?」

「王様に指名された……って言えばそこまでだけど、私自身、ソードの役に立ちたいからだよ。史実に残るかどうかなんてどうでもいいの。ソードと私が一緒に旅をしたって記憶が残ってればそれで」

「ああ。覚えてるよ。死ぬまでな。ウィナも俺と旅したこと忘れないでくれよ」

「どっちにしろ忘れられないと思うけどね」

「だな」

 2人で、静かに笑い合う。その笑い声さえ、夜の闇に吸い込まれる。

 やがて、その笑い声も止む。

 その静寂に俺とウィナは身を任せる。

 でも、距離は縮まることはない。微妙な距離を保ちながら、ウィナは立ち上がった。

「じゃ、私は寝るね。楽しかったよ」

「そっか。おやすみ」

「おやすみ。そっちもそこで寝るようなことはしないでよ」

「ああ」

 ウィナが去りまた1人になる。

 俺は、誰かの記憶に残れるのだろうか。勇者といえど、勇者たり得る働きはできているのだろうか。

 ウィナは俺と旅したことを忘れないと言ってくれた。

 もっと、力をつけなきゃな。

 俺の勇者としての力は七匹?の悪魔に分散して渡されているとサタンは言っていた。

 修道院の次の目的は悪魔探しだな。

 目的も定め、重くなってきた瞼がつぶれるようにして、覆いかぶさった。

 また、ウィナとの約束破っちゃったな。

 申し訳ないと思いつつも、近くにあった気にもたれかかって、眠りについた。


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