初めてのダンジョン(2)
「さてと、ここの突き当たりが最奥だ」
アリスが意外にバテることなく、歩を進め、俺たちはダンジョンの最奥付近へとたどり着いていた。
ちなみにここの最奥は地下二階ぐらい。
「意外に早いんですね」
「ここはそこまで入り組んだとこじゃないしな」
「そして、これよみがしにある地図は……」
「気にすんな」
前回の旅で使った地図は一通り持ってきた。さすがにフィールド上のマップまでは持ってないが、それはロロちゃんのアプリで事足りるだろう。俺が持っているのは、各ダンジョンのマップだ。大体行く前に誰が調べたのか知らんが、依頼を受けることができる場所でもらうことができる。コピーだから、何枚も出回ってるものだけどな。
「さて、引き返すか」
「ええ?最後まで見てかないんですか?」
「アリス……なんか喋り方がよそよそしくなってないか?」
「やっぱり区別がつきにくいと思って」
「いや、声でわかんだろ」
誰に向けての配慮なんだ?
「とりあえずこれいくとして、なんで最後まで見てかないんですか?」
「ダンジョンにはな、ボスがつきものだ」
「ボス?前回の旅で倒したんじゃないんですか?」
前回の旅。確かに一度戦って、完膚なきまでに倒している。主にセドとエド……さんが。
とは言うものの、俺とウィナは初めてのボスだったのであまり勝手が分からずに結局サポートに回るぐらいしか出来なかったのだ。
「倒したなら奥行っても問題ないじゃないじゃないですか。行きましょ」
「あっ、おい!」
俺の制止も聞かずにアリスはロロちゃんを抱えたまま奥へ行ってしまう。
「まずいね」
「ああ」
またも、アリスの背中を追う羽目になってしまった。
「何にもないですねー」
「アリス!勝手に行くんじゃ……」
「何もないからいいじゃないですかー」
確かに今のところは何もない。今のところは。
「いいかアリス。そこ動くなよ」
「や、そんな。まだ心の準備が……」
「何を期待しとるか知らんが、いいから動くんじゃねえぞ」
つい、声に力がこもってしまう。俺はあの時制止を聞かずに過ちを犯した。依頼されてたものだから、自己責任だったのだが、力不足は否めなく、セドとエドに尻拭いをしてもらったのだ。
まったく、今度は俺が止める立場になろうとは。
さっき、ボスは倒したと言っただろうって?
確かに倒した。一時的にな。俺とウィナの力が弱かったのを受けて、気絶させる程度で退散したのだ。
だから、ここのダンジョンモンスターは完全に消滅などしていない。
「よし、そのまま前に来い……」
ここのダンジョンのボスはある特定の位置で物音を立てるとどこからともなく現れるとかそんなやつだった気がする。
今、アリスはその境界線上に立っている。俺の記憶が正しければ。
俺とアリスの手が繋がる。
その瞬間、後ろから謎の空間が出現した。
「やべ」
「え?なになに?」
アリスを後ろに下げて、後退する。
「つつ……クソッ!あの連中……次会った時には絶対返り討ちしてやる……」
あーあー。なんか物騒なこと言ってますよ。封印されてたみたいだから、それが解けちゃったんだな、うん。
結局、何が原因でこいつ出てきたんだろう。
「あー、なんだ?また来た奴がいるのか?さて、あれからどれぐらい時が経ったのか……そこのやつ教えてくれないか?」
アリスを見てそう告げるが、アリスは無論そのことは知らない。あれから、どれだけの日時が経ったのかすら。
目の前に出現したのは、旅で最初に戦ったモンスター。喋ることができるのだから、上級魔族と言ったところか。魔王の血族しか喋れないとか言った割には結構喋れる魔族多いですね。
アリスが急に現れたモンスターに怖気ついてるいるのを見て、俺が前に出る。
「あれから、約3年ぐらいだ。久しぶりだな」
「眩しいな。ここは光なぞ差さないはずだが」
「こっちはそちらさんと違って光がないと視界を確保出来ない種族でな。それと、俺の顔に見覚えはないか?」
モンスターは元々悪い目つきが、眩しいためにさらに細くなって、余計に鋭い印象を与える。
「んん?ああ思い出したぞ。あの時、我輩を散々痛めつけたやつの金魚の糞だな」
「俺がメインだっつーの!」
確かに対して活躍しなかったけどさ!
「金魚の糞が今更なんのようだ?」
「いや、こっちとしては用はないんだが」
「ああん?勝手に起こしておいて用はありませんだ?そんなんで帰れると思ってんのか⁉︎」
もうこれあれだよね。チンピラだよね。用がなかったら来ちゃダメなのかよ。別にお前のテリトリーではなかったはずだぞ。
向こうは起こされて不機嫌なのかすでに臨戦状態である。こっちなんて今の状態素人レベル2人に猫一匹を抱えてるショボイパーティーなんですけど?どうしろと?
「ウィナよろしく」
「こら待てや」
「俺の武器を見ろ。木の棒で何をしろと言うんだ」
「せめて時間稼ぎとか囮ぐらいはやってこい!」
乱暴な幼なじみを持つと苦労するぜ。
背中を足蹴にされて、前にツンのめる。モンスターとは目と鼻の先だ。
「…………」
「…………」
特にどちらとも喋らないので、妙な沈黙が流れる。何?どうして欲しいの?俺が喋ればいいの?
よろしい。ならば、2年間かけて店番で鍛えた井戸端トーク能力を発揮してやろうじゃないの。相手は主にウィナです。だって、店に人が来ないんだから仕方ないだろ。週に2人来たら大盛況って言うぐらいの店だぜ(俺調べ)。
「えっと……まず、お名前でも伺いましょうか」
「我輩か?見ての通りのドラゴンだ。ドラゴンは高等な種族でな。だが、各々プライドが高く群れて行動をしようとはしない。最近は勇者なるものが増えて数も激減してるようだがな」
「ぼくがその勇者なんですが、あなたはぼくをどうするのでしょうか。それと名前は?」
「我輩の目下の目的は貴様などではなく、我輩を痛ぶってくれたあの男女2人だが……貴様も我輩に立ち向かおうものなら、焼き殺すことも遺憾ではない」
「滅相もない。こちとらあなたに立ち向かうほどの戦力は持ち合わせていないので」
「ふむ。だが、ここで見逃すのもつまらん。一つ条件を出そう。何、せっかく封印から解いてくれたお礼と言うものだ。貴様の仲間なのだな?私を痛ぶって封印したのは」
「確かに痛ぶりはしたけど、封印はしてないような……」
「ん?まあいい。その2人を連れてまたここへ来い。待っているぞ」
「へへー」
ドラゴンとの対話を終え、意気揚々とみんなの元へと帰還する。
「なんだったの?」
「セドとエド……さんを連れて来いだと。とりあえずした手に出てたら、会話が成立した」
「なんて情けない勇者なの……」
「せめて俺も力を取り戻して装備も整えなきゃ、囮以前の問題だぜ。いきなり戦闘にならないようにだけはしないとな。ボスモンスターなんて以ての外だ。だから、アリス」
俺はアリスの方を向いて、アリスに注意を促すことにする。
「言ったろ。俺はアリスを守りながら、庇いながら戦うことは無理だって。幸い、ボスモンスターについての情報はあるから、無闇な行動は取らずに俺の指示に従うこと」
「ごめんなさい」
「よしよし。でも、今回はたまたま話が通じたからよかったものの、こう何度も上手くいくとは限らないからな。手遅れになっちゃダメなんだからな。これからはそうだな……縦隊で俺と、ウィナの間に入ること」
「渋滞?どこにも混む要素はないよ?」
「混む方の渋滞じゃなくて、縦列の意味の縦隊。アリス、無駄にボケるな。キャラじゃないだろ。むしろ知識持っててひけらかすほうだろ」
「ええ〜私、そんな性悪な子じゃないもん」
「いや、ものの例えで別にアリスが性格悪いとか言ってないからな」
せっかく、ドラゴンとの戦闘を回避できたのに、なんでこっちとの会話で疲れてんだ?それより、結局ドラゴンの名前を聞けずじまいだった。前の旅では聞かずに戦闘だったし、後に分かったのは、あのドラゴンの種類ぐらいだし。
ついでにあれはフレイムドラゴンという種類のドラゴン。あれが言ってたとおり元々ドラゴンは個体数が少ない。ゆえにだいたい一つの種類に一体程度らしい。ドラゴンは全部で何種類いたかな……5種類ぐらいだったか。なぜか、魔法の系統に沿っていたと思う。魔法の系統についてはまた今度で。
「そういえばなんであんな近くの洞窟に強そうなモンスターがいるんですか?」
「強いことには強いんだろうけど、多分ドラゴンの中では弱いほうだったはず。意図的なのか、俺たちが行ったダンジョンはドラゴンがボスモンスターだったんだけどな。あいつ以外喋ってた記憶はないけど」
「にゃー」
猫の鳴き声がする。よく考えたら、ロロちゃんを変身させたままだった。そろそろ戻りたいんだろう。
「アリス、ダンジョンももうすぐ出口だしロロちゃん戻りたいって」
「そっか……ちょっと残念。また抱かせてね」
聞き分け良く、アリスはロロちゃんを抱いていた胸から降ろしてあげた。
いや、意外にアリスの胸は大きいからロロちゃんは苦しかったのかもしれない。
息苦しいのと、劣等感という二重苦で。
降ろしたそばから、煙を上げて元に戻る。
なんだか、戻ったはいいがポーッとしている。
「ロロちゃん?どうした?」
「うーん。なんか戻ったのがもったいなかったな……いや、いいや」
なんだろう。気になるが、追求はするのは地雷な気もする。女の子の悩みは聞くべき時と聞かざるべき時があるからその時を見極めないとね。
そんなようなことをウィナから教わりました。
いや、だがロロちゃんは今現在俺の嫁候補。推定年齢十二歳。うん。立派な犯罪だね。だからあくまでも候補だよ。今手を出すとは一言も言っていない。
だから、聞いてやるべきなのだろうか?
「ロロちゃん、人の価値はおっぱいで決まらんぞ」
「誰も悩んどらんわ!いきなり失礼だよ!」
違ったのか。しかも悩んでなかったのか。自分は貧乳でもいいと。貧乳はステータスだと。うん、なかなかいい心がけだ、俺は全力で応援してやろう。
「だが、せめて毎日一本牛乳を飲もう。おっきくなれんぞ」
「そういうのは遺伝によるものが一番大きいって聞いたんだけど……牛乳でどうこうなるものなの?それ以前にソードは牛乳持ってるの?」
「その辺の牛から搾ってくるか」
「産地直送どころの騒ぎじゃないよ!」
「どうすりゃ満足してくれるんだ?」
「ソードがアホな会話を繰り出そうとしなければだよ」
「俺にとっては中身のある重要な会話だぞ」
「今の会話のどこに中身があったのさ」
「ロロちゃんのおっぱいが大きくなるかどうかってところだな」
「なんかソードと会話してると疲れるよ……ちょっと一人でドラゴンに挑んできてくれない?」
「まあ、そう邪険に扱うなって。別にロロちゃんにセクハラしたいわけじゃないんだから。俺だって、ロロちゃんと仲良く会話を楽しみたいんだ」
「これもお互いを知るため?」
「そうそう」
俺自身今の今まで忘れてた。アリスがロロちゃん抱きかかえて行っちゃったもんで、俺の手の中に温もりが足りないのだ。寂しいです。
「……セクハラしないなら、ちゃんと喋ってあげる」
「分かったよ。ロロちゃんの胸については定期でしか言わないから」
「定期的でも言わないで!」
「じゃあ俺からはどう会話を振ればいいんだ⁉︎」
「そんなに話すことないの⁉︎」
会話のスキルが下ネタから入ってしまうのは男子特有の悪いくせだな。可愛い女の子、気になる女の子にはちょっかいを出したくなるのと同じ感じ。
「もう……でも、ちょっとづつ小出しにしてかないと、すぐにネタも尽きちゃうし、意味のない、中身のない会話をするのも大事なのかな」
「いいじゃねえか。すぐに尽きても」
「え?」
「いいんだよ。必死こいて、話すことの内容考えなくても。それこそ、意味ない、中身のない会話を繰り返すだけでも、その人の人となりが見えてくるもんだぜ。例えば喋り方一つでもさ、俺はなんかこう、自分で言うのもなんだが、アホっぽいだろ?」
「そうだね」
「ちょっとでも否定してくれよ……」
「面倒だね……ここで否定しても、何か変わるわけでもあるまいし」
「まあ、それもそうだな。あと、ウィナはなんかしっかりしてる感じがしてくるだろ?」
「うんうん」
「アリスは……まあ、アレだな」
「言葉濁しすぎだけど、なんとなく伝わったからいいよ」
「ありがとう。さすが嫁候補だ。で、ロロちゃんはなんか可愛い」
「一番意味のわかんない説明だよ」
「等身大ってやつかな。年相応に感じる。敬語は使わないけど、相手を見下す感じじゃないし、かつ苛立ってこない」
「苛立ってくるのもあるの?」
「あるんだよ。世の中にはな。ウザさが滲み出て隠せない奴が。例はうちの王様」
「ソードって王様嫌いすぎだよね……」
「向こうも嫌ってるからおあいこだ」
向こうが嫌ってるなら俺が嫌っても問題はない。ただし、社会的見解において媚は売って損はないので、ひたすら平身低頭です。だから、向こうつけあがるのかな?
せめて武器よこせ。
「ん、出口だね」
洞窟内で照らしていた明かりとは別の明かりが差し込んできた。随分と長く歩いていたような気もするが、不思議と足は疲れていない。
「ゆっくり歩きすぎたな」
「いいじゃん。こうやって喋れたし。結構楽しかったよ」
「楽しんでもらったようで何よりだ」
「お兄ちゃん、何話してたの?」
少し先に行って、外に出ていたアリスが改めて出てきた俺たちに駆け寄ってくる。ウィナは近くにあった適当な岩に腰掛けて空を眺めていた。
「そうだな。会話は大事だってことかな」
「……?」
唐突によく分からないことを言ったせいで、アリスは頭にクエスチョンマークでも浮かんでそうな顔をしていた。
言葉に出さなきゃ伝わらないことがある。でも、言葉に出さない思いもある。
俺はいくつ、本当のことを話して、いくつ、虚言を混ぜているのか。
ウィナと同様に空に視線を向けた。
洞窟から抜け出た時にはすでに、星が瞬いていた。




