初めてのダンジョン
旅には困難がつきものだ。
それは、人間関係、無力さの痛感、天候、立ち寄った場所での冷遇。様々な要因があげられる。
今回はそれとは全く関係ないが、旅には必要不可欠とも言えるダンジョンへと入り込んでいた。
ここで、旅の心得というものを感じてもらおうというウィナの提案によるものです。何があってからでは遅いので、あまり危険なところへ連れて行きたくはないんだけどな。
ダンジョンへ入る前になぜか入り口に置いてある松明に火を灯し、薄暗い洞窟の視界を確保する。
松明を持っているのは俺。松明を左手に持ち、右手には昨日とは違い、また一回り小さい手を握っている。
「ねーなんでここに来たの?」
「まあ、一応ダンジョンの大変さというのをだな」
「ダンジョンって普通依頼を受けてからじゃないと入れないんじゃ……」
姫のお言葉。確かにそうだ。普段なら危険が伴うため、依頼を受けて、承認を受けてからじゃないと入るための許可が降りない。なら、どうして俺たちはここまで堂々と入っているのかというと
「それが勇者である俺の特権というものだ」
「ということでは全くなく、ここのダンジョンは一度入ってて、クリアもしてるからクリアしたダンジョンは許可がなくても入っていいんだよ」
「へえ〜そういう仕組みになってたんですね」
「こればっかりは外に出ないと知らないことだからな」
「おお折れずにちゃんと対応した」
俺がいつまでもメンタルの弱いやつだと思われても困るぜ。何度も何度も折られてるうちに慣れてきた。これがMへの目覚めか?
「ねーねーソード」
「どうした?」
「手繋いで歩いてるけどなんか意味あるの?」
「嫁の前にはまず恋人というステップが必要だ。これもその一貫」
「恋人?」
「どう見ても親子にしか見えないんだけど。もしくは小さい子を連れてる変質者」
なんとことを言うんだ。俺だって薄々思ってたけども。それは言うべきじゃないだろう。
確かに180近くある俺と135程度しかないロロちゃんでは、どううまく見ても親子にしか見えないだろう。俺も客観的に見てればそうだと思う。下手をすれば、幼女を連れてる変質者。やめて、本当にそう思えてきたよ。
「ロロちゃん、もうちょっと背伸ばせない?」
「人の身体的特徴にケチをつけるな!」
ご立腹の様子。誰しも好き好んで小さいわけでもあるまい。ロロちゃんに言うことじゃないな。
「なら肩車だ」
「いや、理由が分からないけど」
「少しでも視界を高くして、背の高い気分を味わってもらう」
「ソードに肩車されたら2m超えるよ。私もさすがにそこまでは言わないよ」
確かに俺もそこまでの成長は望んでいない。
「でも、ちょっと高い気分は味わってみたいかも」
「じゃあ、誰か松明持って」
「しょうがないな。持っててあげるよ」
「サンキュ。よし、いくぞ」
ロロちゃんを肩に乗せて立ち上がる。すごい軽い。見た目通りといえば、見た目通りだが、少し心配。そういえば、いつからか外で一人で生きてたんだっけか。ご飯を食べるのも一苦労だったんだろうな。
「うっうっ……ロロちゃん、これからちゃんと食べさせてやるからな、ウィナが」
「私かい!お前が食べさせてやれ!」
「何をそんなに心配してるの?」
「いや、なんか前にご飯ひとつ食べるのも大変だったみたいなこと言ってたのを思い出して」
「ああ。あの時はサバイバルだったよ……アリスに拾われてよかった」
「拾われた?なんのこと?」
気づいてなかったか。アリス自身は猫の状態のままのロロちゃんしか見てないから。アリスにとっては初対面だ。
「アリス。一時期お前、猫飼ってたろ」
「え?う、うん」
「その猫な、ロロちゃんだ」
「うんごめんなさい。意味がわかりません」
でしょうね。なら、証拠を見せるまでだな。
「ロロちゃん。へ〜んしん!」
「そんな掛け声で変身しないよ」
「じゃあよろしく」
「意外とあれ疲れるんだよ」
「どれぐらいの間変身できるんだ?」
「ん〜。ざっと二日ぐらい?変身が解ける感覚は分かるから、その時に何処かに隠れるけど」
「なんで、耳だけだと短いんだよ」
「全身変化より、部分変化のほうが力の制御が面倒だからだよ。常に全身にだけ向けてればいいのと、部分部分に力を集中させるのとじゃ、全然力の使い方が違うの」
「そうなのか?」
「いや、私見て言われても。私も変身ができるわけじゃないし」
普通に魔法を使うのとは違うのか。魔王の血族だけがもつ特有の技とでもいうのか。そもそもあれは魔法の類なのかどうか。
「えっと、変身したら自分の意思で元の姿に戻れるんだよな?変身した時間に関係なく」
「うん。一度でも変身したら、また変身するまでに時間が必要だけど」
「アリスに見せてやってくれないか?勘違いされっぱなしもアレだろ」
「勘違いどころか認識すらされてなかったけど……」
気にしないことにしよう。前に飼っていた猫がロロちゃんだと分かってもさほど、アリスにもロロちゃんにも支障はあるまい。
そういえば、猫から戻るのは見たけど、猫になるのは見たことなかったな。
ふと、そう考えてたら煙が上がった。どう変身しようが、煙が上がるんですね。こりゃ人目のつくとこで変身は出来ないわけだ。
「ニャー」
全身が真っ黒の毛で覆われた小さな一匹の猫が現れた。
「わあークロー」
アリスはロロちゃんが猫になってる時の姿をクロと呼んでいた。
ロロちゃんはそうやって、色々な所を転々として、その度に新しい名前をつけてもらっていたんだろう。
そうしなければ、自分で生きていく術を持つのには幼すぎたのだ。
「あれ?ロロちゃんは?」
「だから言ってるだろ。その猫がロロちゃんだ」
「そうなの?」
ロロちゃんはニャーと一鳴きする。猫の状態だと喋れないのだ。でも、こちらからの言葉は理解できるようだから、一方的なコミュニケーションとなってしまう。可愛いけど、これでは不便だな。
「でも、久々に会えたしもう少しこうしてていいかな?」
「だってさロロちゃん」
「ニャー」
「いいってさ」
「本当にそう言ってるの?」
ロロちゃんはアリスのことは気に入っていたみたいだし、特に問題となることはないだろう。
アリスもロロちゃんを腕の中に抱えてご満悦の様子。
しばらくはこのままでいてもらいますか。どうあがいてもいつかは解けるみたいだし。
「ほら、何ぼさっとしてんの。アリスたち行っちゃうよ」
「あ、ああ。悪い」
松明を持ち直して、アリスたちの背中を追いかけた。




