アリス姫の思惑
ここいらで一つ、我が街、もういっそのこと国でもいいや。我が国の姫の話をしておこうと思う。
本名、アリス・グラスフィールド。15歳。スリーサイズは……流石に知らない。背は目測で大体150前後。非常に頭のいい子なんですが、時々思考がぶっ飛ぶこともあるようで何を考えてるのか分からない子。
初めて会ったのは、親父に城に連れられて行った時だったが、それが7,8歳ぐらい。姫が4,5歳の時だ。
何がそうさせたのか分からないが、姫は俺を気に入ったらしく、毎日のように、王様に今日は来てないのか?と尋ねに行くほどだったらしい。さすが姫。その頃から可愛い。対象が俺じゃなかったら嫉妬に駆られてただろうけど。
小さい頃から比較的活発な性格だったが、王族の務めなのか慎ましやかな態度を取るように言われていたらしい。その反発として、逆に引きこもりが生まれたけど。
俺との繋がりで……別に俺との繋がりでなくても知り合ってただろうが、ウィナとも仲良くなり、二人は比較的毎日一緒に遊んでいたようである。
お前はどうしたんだ?と聞かれるような気がするけど、旅に出るまで親父に引っ張り回され、家に帰るのが一ヶ月ぶりなんてのもザラにあった。たまに戻っては城に出入りし、王子とともに剣の指導をし、姫と遊んでいた。
なぜ、俺が剣の指導をしていかというと、親父に教わって、それを理解し、人に教えることができれば、完全に習得したということになるという教えの元からだ。今更だが、それは親父の口実合わせだったのかもしれない。姫に会う時だけ、鼻の下伸ばしてような気がするし、ウィナに対してもだけど。どうやら、娘という存在に憧れていたようですね。俺も妹が欲しかったです。妹みたいな存在はいたけど、やはり妹ではないので何かが違ったような気がする。
偽物は本物にはなれない。でも、本物を模倣させる必要はない。
そんな存在を作るのは、俺のわがままだからな。親に頑張れとか言えません。
話が逸れた。姫のことだった。
容姿は誰の目から見ても可憐と言えるもので、周囲から注目を浴びていた。ゆえにいつからかは知らんが、告白も頻繁にされてたらしい。ウィナから聞いた話だけど。
でも、そういうことが自分の周りで頻繁に起こり、周りから注目されていれば、それだけの対価を払わなければいけない。姫はそれに耐えられなかったんだろう。だから、閉じこもった。俺に会っていた時に向けていた笑顔は本物だったんだろうか。
対価というならば、俺も二年間は払い損ねてしまった。勇者としての対価を。払わなくても、誰も困りはしない。評価が落ちるだけだ。それで困るのは自身だけだ。
だから、人は自分の評価が落ちないように、自分を磨き、対価を払うことで、自分がここにいることを証明している。
再び、俺は勇者としての対価を払える機会が巡って来た。
姫はどうだろう。
姫は、存在することでその対価を払っているのかもしれない。誰も、閉じこもることに関しては咎めないかもしれない。それを今の彼女自身がどう思っているか。その結果が今回の脱走だったのかもしれない。
王様はどう姫に対して判断を下すのだろうか。互いの思惑が一致しなければ膠着状態になる。姫は余計に反感を買うだろう。かと言って、姫に王様の判断を覆すほどの権力は持ち合わせていない。いつだって、いつの時代だって、権力の差は絶対だ。主があることで配下は初めて従うことができる。
親子なら親があってこそ、子が存在する。
そんな当たり前の事実をここで呈するまでもなく、ここにおける王様の命は絶対なのだ。
しかし、王様も娘が嫌がる選択肢をしたくはないだろう。これが、どううまく転ぶかが今の問題だ。
俺たちは今、王様の前で4人で立って並んでいた。
「アリスよ。もう一度問う。何が不満なのだ?」
「何度も言うように、姫という身分。それにかけられる期待、重圧、規則、立ち居振る舞いに、交友関係。人の人生をがんじがらめにして何が楽しいのですか?」
「それはアリスのことを思ってだな……」
「そんなの建前でしょう。王族の人間をはしたないように見られないために抑制して、規制して……それが嫌だったから兄様だって修道院に行かれたんじゃないんですか?父上」
王様は目を伏せる。
強面に髭をたくわえて、威厳を振りまくが、娘の前には二の口が告なさそうだ。
確かに、姫という役割があるからこそ、その立ち居振る舞いには求められるものがある。王族として生まれたなら、それを受け入れなければ、姫は姫としての扱いは受けられないだろう。だから、幼少時から教育を重ね、そうなるように仕向ける。
これのどこに愛情があるのか。王様に情がないとは思わない。真摯に愛を注いで、育てているだろう。
だから、これは王様はあくまでも王族としての則りに従うしかなかった。王様が悪いと責めるのもお門違いなのかもしれない。でも、攻めるべき矛を立てるには王様にしか向けられない。
「ならば、アリスはどうしたいのだ?学校にも行かず、ただ城に引きこもっているだけならば然るべき処置を取らねばなるまい」
「処置?」
「王族としての地位を捨てさせる。グラスフィールドの姓を名乗るでない」
今度は姫が目を伏せる。考え込む姿勢は親子揃ってそっくりだ。血は争えないってとこか。
「姫、一時の感情に流されるな。姫は考えることのできる頭を持ってるはずだ」
ここで、姓を捨てれば、城に戻ること、王族に戻ることは不可能となる。ただの一般市民が王族となることは無理なのだ。
姫が姓を残したまま、かつ誰にも自分を責めさせない道はなんだろう。
「ふーん。この街の姫様っていうのは随分と堅苦しいもんなんだね」
静寂した空間に一つの声が響く。声の主は言うまでもない。
「うちはもっと自由だったよ。ま、言うなれば誰もこっちのことを理解する脳を持ち合わせてなかったから好き勝手にやってたっていうのが本当のところだけど」
「お主は……?」
値踏みをするようにロロちゃんを王様は見る。何者かを判断しかねているようにも見える。
ここは正直に言っておくべきか?
だが、王様の左右に兵士が揃っている。手駒がこっちは圧倒的に足りてない。魔王の娘だと分かって始末に来る可能性がないとも限らない。そうしたら、ほぼ戦力となるのはウィナ一人だ。そうなれば、ロロちゃんを守り切ることはほぼ無理に等しいだろう。
「名を聞かせてもらえるか?」
「ロロ。訳あってソードたちと一緒に旅をしている子供ですよ~。どっかの国の姫様とかはありません」
それ、ほぼ自分はお姫様ですって言ってるようにしか聞こえないぞ?ここ以外にも城はあるから別に姫が何人いようがあまり気にもかけないことだから問題はないと思うんだが。
ただ……
「お主のその頭の角はなんだ?ファッションか?お主の国では流行ってるのか?」
ですよね。まず、そこにツッコミますよね。
「そうなんです~。可愛いでしょ?」
その質問は想定していたのか、意にも介さずに受け答えをした。
王様もこれ以上追求しても無駄だと感じたのか、姫のほうに視線を戻す。
「まあよい。して姫よ。なぜ、今日に脱走を決行した?ソードらが旅に出たことは知っておったであろう。どうして今日戻っていることを知っておった?」
俺が聞きたかったことを王様は問う。こっちが質問する手間が省けた。
さて、その答えの目的の人物は兵の中にいるのだろうか。名を偽ってる可能性もあるが……。わざわざ見た目を変える必要はないだろう。雰囲気で大体わかる。
ざっと、見渡したが存在の確認はされなかった。果たして、あの人は本当に配下だったんだろうか。いなければ、問いただすことはできないが、それは仕方ないこととして受け入れておくか。出てきてくれたら一番楽なんだが。
「ある情報通から小耳に挟んだんです。それ以上は他言はできないです」
情報通ねぇ。うまいこと言ったもんだ。無論、この街にそこまで有用な情報通などいない。ましてや、俺の行動パターンなど、解析できるはずもない。どこからか監視していて、帰ることを確認していたやつの情報だろう。元より、姫は俺を頼って来ていたのだ。なら、答えは俺が出してやろう。幸い、王様には俺の力が失われてることを知られていない。
「王様」
「なんだ?貴様には話はしてないぞ」
だから、俺に対してだけ冷たくないですかね?いきなり二人称が貴様になりましたよ?この変貌ぶりに痺れる憧れるぅ!まあ、そんなことはミジンコたりとも思っちゃいないけどな。
「姫も自分で考えて行動したい年頃だ。かと言って、おいそれとどこかをほっつき歩いていたら王様としては困るわけだよな」
「うむ。そうだな」
「なら、分かってりゃいいわけだ」
少しニヒルな笑いを浮かべて、王様を見据える。
「言ってみろ」
「俺たちと一緒に旅をすればいい。なに、もちろん魔王城とまでは言わない。まずの目的地は王子がいる修道院までだ。子から連絡なくとも、院長なりなんなりに連絡を取ることは可能だろ?」
「ソードよ。巷にまたモンスターが現れたと言っただろう?もう、何かしらの情報を掴んだのか?」
「ええ、そりゃもう。俺、優秀っすからね」
ウィナからよー言うわ的な眼差しを向けられている。
いくら、自分が活躍しようが、勇者である身分の俺が立場上は褒め称えられる。俺がどう他の人たちを擁護しようともな。
だから、今回も俺の手柄ということで。
でも、視線は痛いので一つ咳払いをして、一呼吸入れる。
「どうやら、ある人物が指定してモンスターを送り込んでるみたいですね。まだ力が弱いのか遅れるモンスターも雑魚ばかりなので、姫も比較的安全に旅をできると思います」
「ある人物は?特定できてるのか?」
特定はできてます。
とは、到底言うことはできない。
だって、あなたの目の前にいるツノを生やした女の子がそれですからね。
ロロちゃんもむやみにやたらに出そうとはしないだろう。あくまでモンスターを出してるのがロロちゃんだけならという仮定はつくが。今どうこう言っても、問題は山ほど出てくる。問題点ばっかりに目を向けてもしょうがない。
そこは旅をしながら解決できるレベルだろう。
あとは姫がどうしたいか。
「行かせてください!」
即答いただきました。分かってたことですけどね。
どう考えても、俺たち行かないことに姫にとってのデメリットはない。
「とのことだが、王様。あとは王様がどうしてほしいかだぜ。ここにいてもきっと姫は学校行かないだろうし、王様だって姫と縁を切たかないだろ」
「口が達者で性格が悪いな……」
「何とでも。俺は女の子の味方なんで」
「では、ウィルザート。娘を頼んだぞ」
「分かりました」
あれ?俺は?軽くスルーですか?俺は頼りになりませんか?それとも俺が嫌いなんですか?
まあ、後者でしょうね。頼りにしてなかったらモンスターの調査を頼まないと思うし。
去り際、旅の用意を持ってくると言っていた姫の顔は綻んでいた。
待つこと30分。俺とロロちゃんは外で暇を持て余していた。
「にしても、フルネームは言わなかったのな」
「言ったら面倒なことになるのは目に見えてるし……私も何と無くあの王様苦手だし」
「初対面……ではないか」
何か感じ取るものがあったんだろう。あれは俺にだけ冷たいだけだよ。あれが本当のツンデレだね。デレの要素が一片たりとも感じ取れないけど。
与太話をしていると、想定していたよりは早く姫とウィナは戻ってきた。
ついでになんかデカイ男が一人。
「あの~サタンさん?そこで無言で突っ立ってても怖いだけなんだけど。用があるなら言ってくれないかな?」
無言でこっちを睨みつけてるから、怖いのなんのって。恐怖しか与えねえよこの人。
「あ、情報屋さん」
サタンは姫の口に指を当てて、喋らないように、とジェスチャーをした。なに?この無駄にかっこいい動作。俺もどこかでやりたい。
「姫」
「「はい?」」
「これはすいません。ロロ姫」
「まあ、そんな堅苦しくしなくていいよ。なんならロロちゃんでも十分だよ」
「い、いえ。さすがにそこまでは」
「ま、それはいいんだけど、私に用なんでしょ?あと、どうして私の場所が分かってるのかな?」
ロロちゃん、なんかオーラ出てる。しまってしまって。
これが、魔王の血族と言うものなのだろうか(たぶん違う)。
「えっと……その携帯ゲーム機あるでしょう?」
「ああ、モンスターを呼び出せる」
「それ以外にもGPS端末としても使えるんです。と言っても、分かるのは場所だけであって、魔王様自身は行けないのであしからず」
なんで魔王も自分が動けなくなるのに、城を空中に浮かべたんだ。馬鹿だろ。
「で、なんでサタンがいるの」
「各地にロロ様の捜索に悪魔たちが散らばって、ようやく確定したものの、肝心のロロ様の姿が見当たらないものですから」
「で、位置が近かったサタンがずっとこの街に滞在していたと」
「左様で」
「これ、壊していい?」
「だ、ダメです!それを扱えるかどうかでロロ様の今後を左右なされるのですから」
「今後?」
「それは後々」
「後々、ってついて来る気?」
「滅相もない。ただ、他の悪魔に連絡はしておきますが」
「全員倒して回っていい?」
「我々になんの恨みが……」
哀れだな、悪魔たち。七大悪魔だったか?サタン以外にあと六体いるのか。まあ、悪魔級ともなれば、強さも格別だろうし、力試しとしてはいいかもしれない。
「サタン、一つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「モンスターを呼び寄せるわけだが、それを倒した場合モンスターはどこに行くんだ?」
「ああ、あくまでもあれはデータ化したホログラムだから、倒しても特にこちらに支障はない」
なに?この親切な悪魔。俺、仮にもあなたたちの親玉の首を狙ってる者ですけど?
「どうしてお前たちに情報を与えるかという顔をしているな。それは……これだ」
懐から、巾着袋を取り出す。何か入ってんのか?
「言っても信じないだろうが、ここにはお前の力の欠片が入っている。だが、今ここで私を倒しても無駄だな。欠片だから全てではない。意味は分かるな?」
「悪魔たちに分散して分け与えたということか。だったら、別に魔王本人が持ってれば良かっただろう」
それより、やっぱり魔王の野郎がなにかやってやがったな。俺の力だけを奪うってどんな芸当だよ。
でも、魔王がそれを持っていないということは魔王本人には使うことができなかったということか。もしくは何らかの狙いがあってか。
「これ以上は私から情報を与えることはできんな」
「あっそ。とりあえず行くところは決まってるから、行かせてもらうぜ」
「ロロ様、気をつけて」
「私の配下のはずなのに私を襲ってくるのはどうなんだか……」
ロロちゃんはぶつくさ言っていたが、サタンはよろしくと言って城へ戻って行った。
サタンがいなくなったのを確認すると姫が抱きついてきた。
痛い痛い。腕極まってる。
「やっと一緒になれました♪」
「や、こんな城の前で……俺、殺されても文句言えんぞ」
「それは私が困ります」
「ア~リ~ス~」
ほら、殺気立ってるのがいるし。俺、殺される五秒前。
殺気を察してくれたので、姫は離れてくれた。
「まあまあ、ウィナさんもそんな殺気立てないで。早いもん勝ちですよ」
「誰がこんなんと!」
「こんなんですか……」
幼馴染だからさ。もっと好感度あると思ったのに……。僕悲しいです。
「というか、全部姫の計算通りだったってことか」
「その通りです。大丈夫です。戦力になりますよ」
「うん……期待してる……」
「まったく期待されてません⁈」
成績はいいとは聞いてるけど、それが戦闘に直結するかはまた別問題だからな。
「で、姫は何をしたいの?」
「ナニ、とは?」
「カタカナ表記にしないで。なんかいかがわしくなるだろ。ほら、アレだよ。剣を使って攻撃したいとか、魔法でサポートなり何なりしたいとか」
「私、万能ですよ。皆さんに合わせて、スタイルを変えていきます。今、どんな感じですか?」
「まあ、前線は俺で、ウィナとロロちゃんは魔法で援護射撃みたいな感じ」
もっとも、ほとんどウィナ一人でロロちゃんが出すモンスターは一掃できるレベルだが、それだとウィナも言っていたとおり、意味がないので基本的戦うのは、俺とロロちゃんだけだ。
「そういえば、なんかモンスターがデータ化だとか言ってましたね。どういうことですか?」
「……ここで説明するのは危ないな。街の外に出てからにしようか」
「はーい」
姫は再び、俺に腕を回してくる。
嬉しいんだけど、上が鎧だから、ゴツゴツして痛い。胸が当たって柔らかいとかない。そして、後ろから視線を感じてる。
出る前から、神経をすり減らしそうだった。
こうして、アリス姫の計算通り、姫をパーティに加えて旅に出た。
女の子ばかりのパーティで俺どうしましょうか……。




