尋ね人(2)
セドが渡してきた手紙と、サイドさんがノアの箱舟があると睨んだ場所は奇しくも同じだった。
同じだった、というよりもセドがこのことを知っていたのではないかと思うのだが。
その本人は、この旅の間に一度たりとも姿を現しちゃいない。
最後の悪魔はあいつに取り憑いてるんじゃないかと俺は思っていたが、どうやらそれは筋違いだったようだ。
俺は、宿の小さい浴室で濡れた体を温めるためにシャワー浴び、ベッドへとダイブして、考え事をしていた。
「悪いね、一緒させてもらっちゃって」
「旅は道連れっていうでしょう?」
「ソードさん、その言葉嫌いじゃありませんでした?」
「ケースバイケースだ。サイドさんは情報提供をしてくれたからな」
「自分に都合が良い時だけ、調子いいなこの人」
「それで、君たちもここに用があるってことでいいのかな?」
「ある人から、ここに来いって手紙が来ましてね。まあ、その本人はいないと思いますけど」
「呼び出されたわけではない、と?」
「悪魔の話、しましたよね?俺、以前に魔王と戦って、その時に力を取られたんです。それを結晶化して、7体の悪魔に分け与えた。もうすでに6個は集まっていて、後一体を残すのみなんですが……」
「それが、ここにいる。と、その手紙の主は言いたいんだね」
「ただ、悪魔単体ってことはほとんどなくて、誰かに憑依してるってことが多いから、どうしたもんかと」
「今まではどんな人に憑依していたとか分かるかい?」
「まずこいつ」
俺はスターを指差す。最初の悪魔は修道院で戦ったはずだ。
「……って、僕じゃないです!カインとアベルですから!」
「ああ、間違えた。あまりにお前が挙動不審だったから間違えたわ。てか、結局、お前も取り憑かれただろうが」
「その節はすいません……」
「まあ、それは置いといて、少し内訳を書いておこう」
「ソードさんの記憶力でなんとかなるんですか?」
「そのためにお前がいるんだろう」
「……まあ、いいですけど」
渋々と最初の自分のところから、現在入手したところまでをメモ書きで書き留めていく。
スピード→マモン
賢さ→ルシファー
体力→⁇?
耐久→⁇?
サポート→エアリス
パワー→サタン
「……そういえば、二つはどこで手に入れたんです?いつの間にか戻ってたみたいですけど?」
「諸事情により、ここでは黙秘権を行使する」
「まあ……直接は関係しないことなんで僕は構わないですけど、実際この中で戦闘したのは三人だけですね。マモンとルシファーとサタン。特に共通点は見当たりませんね……」
そういえば、サタンは結局、人の体を借りてたのだろうか。元が人型っぽいし、ずっと悪魔の姿のままいた可能性も捨てきれない。
「振り出しだなぁ」
「結局、何も分かりませんからね。直接戦ってない悪魔もいますし」
「取り憑かれてた二人を検証するなら、何かしら不安を抱えていたってことかな」
「どういうことだい?」
「まず、こいつはマモンって悪魔に取り憑かれたんですが、ずっと気張ってたらしいんです。それは、修道院で世話をしていた子供たちのことで、もう一人はリーチェルさん。リーチェルさんはずっとミーナちゃんに負い目を感じて、それで悪魔と契約を交わした。こっちは合意の上ですけど」
よほど、隙がなければホイホイ取り憑くようなこともないみたいだ。
何となく、自分に関係してそうな人物な気もするけど。
ただ、こんな海岸沿いのところで知り合いがいるはずもない。
「とりあえず、まずは散策してみるか」
「そのほうが得策ですね」
俺たちは立ち上がって、まだ早い時間であることを確認して、扉から出て行こうとする。
「こらこら君たち。なんでここにきてるのか忘れてやしないかい?」
「ん?」
サイドさんから窓の方のカーテンを開けてもらい、外を確認すると、小雨だと思っていた雨が土砂降りになっていた。
これじゃ、しばらく外に出られそうにないな。
少なくとも今日明日中はまだ降っていそうだ。
大人しく部屋へと戻り腰を落ち着ける。
「……何か、焦っているのかい?」
「いえ……とりあえず、猶予は後一ヶ月ありますから」
「猶予?」
しまった、と思った。
この事はウィナ以外に話してはいない。
魔王と交わした約束の3ヶ月。それ以内に力を取り戻し、ロロちゃんを魔王の元へと送り届ける。
すでに二ヶ月が経過したが、残りの欠片は残り一つ。間に合うはずだ。
だが、それは同時にロロちゃんとの別れが近づいている。
俺は髪を手でかき混ぜ、隠してても仕方ないと、話し始めることにした。
「魔王城への道がある」
「魔王城へ?何ですか急に」
「俺は少し前に魔王と接触する機会があった。ロロちゃんを守ることを条件に、魔王城への道を魔王に開いてもらうことになったんだ。その時に交わした期限が残り3ヶ月。もう、残り1ヶ月になっちまったけど」
「なんで……言わなかったんですか」
「ロロちゃんに知られたくなかったんだ。もう少しで別れることを」
「そんなの直前になったら余計に辛くなるでしょう。なら、先に言って心の準備でもしててもらったほうがまだ幾らかは……」
閉じたはずの扉が開いていて、遠ざかる足音が聞こえた。
小走りのように聞こえるのは逃げているのだろう。
そして、すぐに別の扉が閉められる音が聞こえた。
「……もう、隠せないか」
「行ってきたほうがいいんじゃないですか?」
「ああ」
俺は立ち上がり、ロロちゃんたちの部屋へと向かうことにした。
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ロロちゃんたちが泊まっている部屋の前で立ち止まる。
少し、喚く声が聞こえる。
きっと、ウィナに責めているのだろう。
隠してたのは俺なのに。ウィナには黙っているように俺が頼んだのに。
でも、ロロちゃんは俺に当たれなかったんだろう。
本当は軽く遊びに来ただけのはずだったのに、聞きたくなかったことを聞いてしまって。
俺はどうするべきなのだろうか。
また、ロロちゃんに言い聞かせるのか?
『旅には出会いもあって別れもある』
ロロちゃんだって心のどこかでは気づいていたハズだ。いつか、俺たちと別れることを。永遠には一緒にいられないことを。
でも、それを受け止められるほど、まだロロちゃんは強くなかったのかもしれない。
いや、俺たちだって、ずっと一緒にいるとのだと考えているかもしれない。
でも、そんな未来は俺たちにはないのだろう。
俺たちは……人と、魔族なのだから。
結局、俺は、扉の前でノックをしようとした手は下げて、自分の部屋へと引き返した。
俺ができることなんてないのだから。
ウィナやアリスには後で謝っておこう。
でも、ロロちゃんにはなんて言って顔を合わせればいいのか。
また、頭の中が混乱し始めていた。
外の降り続ける雨のように、胸を締め付けるような苦しみが晴れることはまだ無さそうだった。




