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魔王拾いました  作者: otsk
妖精の舞台編
113/145

雪原に舞う天使

 ソードの勇者としての証。その剣を右手に握り空に羽ばたいた。

 自分が空を自由に飛び回るなんて考えてもみなかった。

 でも、それについて今感動している場合ではない。

 サタンにまずは追いつかなきゃ。話はそれからだ。

 でも、初めて飛ぶ私にとっては、これが正しい飛び方なのか分からない。自分がイメージしてたものとかけ離れてるのかもしれない。

 正しい飛び方ではないのなら、元々の体力が少ない私にとってはすぐに力尽きてしまうだろう。

 でも、ソードはそんなになるまで、私をずっとその体で守ってくれた。

 ソード、すぐに助けるから。待ってて。


「サタン‼︎」


「おや……姫様。その羽は……」


 どうやら、私が飛べることに驚いているようだ。

 いや、飛べることというよりは、私のその羽に驚いてる?


「エルフとも……魔族のものとも違いますね。エルフなら透き通るような言わば虫に近い形状のもので、私たちのようなものなら、漆黒に羽は染まっているのですが……姫様のは純白であられる。いやはや、どういったものか」


 関心などされても、私は嬉しくない。ただ、今飛べることに感謝はする。羽がどうとかなんて二の次だ。こいつを倒さないと……。


「まあ、その辺りは後々に解明していくとしましょう。ですが、姫様。その剣でどうしようと?飛びながらそれを振り回すことは容易くありませんよ?」


「うるさい!こんなところでお前に負けてたまるか‼︎まだ、負けるわけにはいかない‼︎」


「随分と威勢が良くなりましたね。誰からも逃げ回っていた頃とは大違いだ」


「……一人じゃないもん」


「ん?」


「もう私は一人ぼっちじゃない!」


「そうですか……そうですね。随分、周りからあなたは愛されるようになった。それは姫様の魅力によるものか、物好きが多かったか……」


 多分後者だと思う。ソードほどの物好きは世界中探しても2人といないだろう。なんせ、魔王の娘と聞いて、勇者でありながら面倒見るなんて言い出すくらいだし。そのソードの周りにいるぐらいだし、きっとみんなも物好きなのだろう。

 類は友を呼ぶとかどっかで聞いた。ウィナからかな?


「って、こんな世間話をしに来たんじゃない!」


「もちろん分かってますよ。なら、始めましょうか。姫様、一人でも戦えることを証明するのでしょう?」


 微笑を浮かべて、魔法を放つ体制をとる。

 先ほどの戦いは、ほとんど直線的な軌道だった。魔法って、曲線を描くようなことが出来たっけ?

 ウィナなら出来るような気がするけど……。

 ……そうか、サタンの魔法は威力こそ高いけど、そこに応用性がない。私を舐めてるのか。それとも、それ以上のことは出来ないのか。

 でも、私が見てきた中で一番の魔法使いはウィナだ。魔法使いっていうぐらいだから、魔法に特化しているわけだし、サタンなんかに負けはしないだろう。

 でも、ウィナの底を見たわけじゃないけど。

 だから、というわけでもないけど、一度見ているから、なんとか躱すことはできた。


「ほう、躱しますか。まだまだぎこちないですが」


「サタン。もっと、魔法の特訓したほうがいいよ。私の知ってる魔法使いはもっとすごいから」


「言いますね。あの少女に引けをとるようでは悪魔長の名が廃りますね」


「廃っちまえそんな称号。なんの意味があるのさ。あんなバラバラで自分勝手な悪魔たちのトップなんて称号に」


「誰にでも、上に立ちたいと思うのですよ。姫様もいつか分かるかもしれません。上に立ち続ける魔王様の大変さも」


「どうでもいいよ。そんなの。娘だからって魔王を継がなきゃいけない通りもないし」


「……それもいいでしょう」


 …………‼︎


 下から声が聞こえる。

 でも、この場で下から声を出すような人はアリスしかいない。

 見つけたのだろう。ソードの力の欠片を。


「ロロちゃーん!あったよー!」


「……サタン。どうやら、あなたの負けみたいだよ」


「みたいですね。魔法で消すぐらいしとけばよかったか……」


「でも、わざわざ降伏するような真似もしないでしょ?」


「ええ。それと、あと一つ忘れてますよ」


「……あっ」


 スターの事忘れてた。檻の中で囚われたままだ。

 でも、このまま降りたらまた飛び立てる保証はない。

 なら、このままサタンを討たないと。

 ソードの剣を握る手に力を込める。

 でも、私じゃこのままじゃ魔法は……。

 いや、やるんだ。いつまでも出来ない、出来ないで逃げてちゃダメだ。

 魔法が放てないなら、その力をこの右手に……。

 いつかソードが言ってたやつだ。


『剣に魔法を纏うとか出来ねえのか?』


 あの時、私はできないと言った。

 魔法もロクに使えなくて、いつも足を引っ張ってばかりで、それなのにみんな私を甘やかして……。

 もうそんなのは嫌だ。

 みんなを助けて。それで『ロロちゃん頑張ったね』って言ってもらいたい。

 サタンから繰り出される魔法を再び避ける。

 詠唱なしとはいえ、ウィナより遅いし、魔法を繰り出す間隔も長い。

 次だ。次を避ければ、これが届く。


「甘いですよ。姫様」


「なっ……」


 こちらの考えが読まれていたのか、魔法を途中で中断し、後退した。これでは、私の腕の長さじゃ届かない。

 サタンは魔法を放ち、私に直撃させる。

 その衝撃に耐えられず、地面へと落ちていく。


「たぁーーーー!」


「?」


 なんか奇妙な叫び声と一緒に、なにかがクッションとなった。


「ア、アリス……」


「ロロちゃん!負けちゃダメだよ!ウィナちゃんもいないし、ソード君もいない。でも、剣を託されたんでしょ?なら、ロロちゃんがやらないと!」


「でも……私じゃ……もう、飛べないかもしれない……」


「甘ったれるな!今まで散々甘やかしてきたんだからここぐらいやりなさい!私たちと違って、こんなに立派な羽がまだ付いてるんだから」


 後ろに視線を向けると、まだ羽は消えてなかった。

 意識すれば動かせる。これなら、まだ飛べるかもしれない。


「兄さんはあのままでも大丈夫だから。私はソード君を介抱してくる。だから、あの悪魔はロロちゃんがやるんだよ?」


「う、うん!」


「よし、いい返事。頑張って!」


 アリスは私の頭に手をおいて、エールを送ってくれた。

 そして、ソードがいる方へと駆けていく。

 まだ、やれる。

 上空にいるサタンを睨みつけて、もう一度飛ぶ。

 それを阻止しようとサタンは攻撃してくるが、その合間を縫うように上昇をする。


「……正直、もう一度来ることはないと思いましたが」


「まだ、負けてないもん」


「ええ。あれぐらいで負けを認めてちゃ、誰にも勝てませんよ」


「私は……今まで、誰かを頼って生きてきた。エルフの里を追い出されてからも、誰かの手を借りて生きてた。その時は愛玩用のペットだったけど。……それが終わって、ソードたちと一緒にいる間も、みんなに頼って生きてた。今、こうして私を頼ってくれたんだ。だから、サタンを私は倒さないといけない」


「わたしを倒すことにためらいがないことに少々遺憾なことではありますが……私とて、魔法しか使えないわけではありませんよ?」


 サタンは、腰にぶら下げてた鞘から剣を抜き取る。その剣は、何かに覆われているかのように禍々しい。


「どっちの方が得意なの?」


「どっちが上、というのはありませんよ。この剣も魔法の力を増長させるためのものですから」


 もう一度途切れてしまった魔法を剣に纏わせる。

 唯一使える氷の魔法。

 この景色にはお似合いだ、と私は思う。少し、吹雪いてきた。

 これが吉と出るか凶と出るか。

 日中はほとんど行動ができない私としては、寒いぐらいならなんとかなるものかもしれない。

 でも、寒さで体力が削られる。

 それに、私は以前少しスターに剣を教わっただけで、大してやってきてはいない。

 付け焼き刃でなんとかなるのかな……。

 呼吸を整えて、両手でしっかりと握り直す。片手では、弾かれておしまいだろう。なら、両手でしっかり握って、離さないように。

 後は、イメージに任せよう。

 サタンに突っ込み、ソードがいつもやってるように、剣を振り下ろす。

 それをサタンは剣で受け止める。

 そして、弾くように私を押し上げ、距離を取った。


「意外に様になってますよ。姫様」


「褒められても嬉しくない」


「まったく、へそ曲がりな子に育ってしまいましたね。誰に似たのか……」


「悠長に構えてる暇があるの?」


 再び振り被り、サタンを切る勢いで振り下ろす。

 大味だけど、一番攻撃力が出るだろう。

 私の軽いかもしれないけど全体重を乗せてるようなものだ。

 ……全体重?

 少し考えついた私は、さらに上空へと飛ぶ。


「何を?」


 この気候では上を向くのは難しいだろう。

 目に雪が入ってしまう。

 だが、下なら、多少視界が悪いけど、見渡すことができる。

 サタンが、上を向き、雪が入ったのか目を細め、腕で擦り始めた。

 今だ……!

 私は腕を引き、サタンに向かって急下降した。

 サタンは目をこすっていてその反応に遅れ、剣を防御に使うので精々のようだった。


「喰らえ!サタン‼︎」


 急下降するスピードのまま、剣をサタンに向かって突き刺した。

 そのまま貫き、私はさらに下へと下降していく。

 ブレーキをかけ、上を見上げた。

 サタンが、地面へと落ちていく。

 雪の上だったため、大した音は鳴らなかったが、あれだけの高さから落ちたんだ。ダメージはさらにあるだろう。

 私は、サタンの元へと近寄る。


「予想外でしたよ……飛ぶのは初めてだったのでしょう……?」


「うん……まあ、天候は私に味方したようだね」


「その……ようですね」


「……結局、サタンは何がしたかったの?」


「姫様の力の覚醒ですよ……。誰かから聞いてないですか?」


「……確かになんか、まだ力が眠ってるだとかなんとか言われたような……」


「今回の戦闘で半分……といったところでしょうか……」


「わざわざそのために?」


「いつか……望まずともあなたは魔王を……継承しなくてはなりません。その時に弱いままでは……示しは……つきませんからね」


「もう……半分……」


「何がトリガーになるか分かりません。……それと、もうあと1人の悪魔は強いですよ。……正直、狂ってると言えるでしょう……そろそろ……限界ですね……姫様、お元気で」


「うん……ありがとう、サタン……」


 灰になるように、サタンの体は消えていった。

 いつしか、吹雪は止んでいて、空から光が珍しく差し込み、降り積もった雪を照らしていた。

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