世界の最果てから
「寒い……」
ウィナがそう言って身を震わせていた。
儀式を終えて、休ませたはいいが、雪が入ってこないとはいえ、ここは雪国。寒くないわけがなかった。
まあ、応急処置でアリスに火の魔法を使ってもらい焚き木をしているが、もっとも燃やせるような木自体も少ないので、早いとこ出るのが得策だろう。
「わたし出来ることなさそうなので帰りますね~」
と、妖精のフィアさんはとっとと儀式を見終えたら帰って行きやがった。
こちとら、そっちの世話したんだから恩を返せよ。どちらかといえば、妖精よりはエルフの方だったかもしれんけど。
いなくなったやつのことをボヤいても仕方ないが、どうにもしてやれることが男である俺では少ないので気を揉んでいるわけだ。
「この辺りから国の中央部までは近いんでしょうか?」
「どちらにせよ、あんまり寄ってく必要もなさそうだな。悪魔だって、寒い環境に身を置きたがるバカはいないだろ」
「そういえば、ソードさん。どうしてここに悪魔がいること知ってたんですか?」
「正確には妖精の里だったけどな。まあ、世の中都合のいいこともあるんだよ」
「そして、都合の悪いこともある」
「そうそう……スターか?今言ったの」
「いえ、僕じゃありませんが」
スターとは違い、低くそしてどこか威圧感のある声。
全く、聞き覚えのない声ではない。いつか、どこかで聞いている。
恐る恐るその声の主を確認しようと振り返ると、やけに背の高い男がいた。
「久しぶりだなぁ。勇者」
「お勤めご苦労様です。おーし、みんな次の客が来たから撤退するぞ」
「うわっ!だ、誰ですか⁉︎」
「そういや、お前は会ったことなかったな」
ロロちゃんが気づいたのか、急に現れたそいつの前へと立った。
ていうか、あの妖精来たことに気づいて逃げたな?
「何の用?」
「そう邪険に扱わないでください。そろそろ頃合いだと思っただけですので」
「頃合い……?何のだ?」
「欠片。集まってるのでしょう?」
「今、5個まで戻した。後は、あんたが持ってる分と、もう一人だ」
「大丈夫です。把握はしてますので。ですが、もう一人の悪魔は少々面倒なことになってましてね……。自力で行ってもらおうと思うのですが」
「そいつに挑めるかどうか、今一度、腕試をするってことか?」
「察しがいい。私は紳士ですので、さすがに今倒れている、あの魔法使いの少女を人質に取ったり、攻撃対象にすることはありません。ですが、大きな戦力を欠いた状態であなた方がどれだけ戦えるか。私が力を認めれば、あなたの力の欠片を返しましょう」
「……こんな雪国でやれってか?」
「戦う場所がいつも自分にとって有利なステージとは限りませんよ?それは、私に取っても同じことです」
「御託を並べてるとこすまんが、手出しをしないというなら、もう少し設備整えてくれない?あのままだと風邪引いちまう」
「いいでしょう。悪魔長サタン。弱っている女性には優しくしますよ」
こいつこそ何となく偽善者な気がする。
それ以前にこいつに会ったの何ヶ月ぶりだよ。
こんなところにいるということは、王様の護衛職はクビになったんだな。檻破壊してたし。
「自主退職です。勝手にクビにしないでください」
「で、なにか?うちの国滅ぼしてきたのか?」
「勝手に極悪非道みたいな扱いにしないでもらいたい。悪魔だってやることは選んでますので」
「なりふり構わず不幸を撒き散らしているものかと」
「……本当に人のカンに障ることをズケズケという勇者だな」
「あんたに嫌われようがどうでもいいし」
「……嫌われたくない相手はいるようだな。その言い方だと」
「そりゃ、いくらでもいるさ。その全員が、俺のことを嫌わないでいてくれるかなんて到底分かりはしないけどな」
「悪魔だって同じことだ。だが、大半は魔王と同様、存在するだけでこの世界では煙たがられる」
ロロちゃんが顔を曇らせる。つい最近まで、自分がその存在だったのだ。誰一人、見向きもされないまま、それを昨日まで、エルフの里で体感してきた。自分の母親が同じエルフから迫害されていたのだ。
二度と、そんな思いをしたくないだろう。だから、俺はロロちゃんの側にいると言った。
「あんたが心配しなくても、ロロちゃんは俺たちがずっと側にいる。四人もいるんだ。誰かいなくても、誰かがいてやれる。あんたが心配することはない。それに、あんただって、ロロちゃんの側にはいなかっただろう?なぜ、今更気にかける?」
「何故……か。何故だろうな。私にも分からない。もしかしたら、何か使命感に駆られてるのかもしれないな」
「悪魔長サタンはロリコン……と」
脳内に適当にメモ書きしておく。
「ちょっと待て!今のは聞き捨てならないぞ!」
「そういや、悪魔は結婚したり、子供作ったりするのか?男しかいなかったけど」
「聞いたかもしれんが、エルフの突然変異種。エルフというより魔族の血が勝った状態なのだ。悪魔というのは。だから、エルフから遠ざけられ魔王に拾われた。まあ、別に子孫繁栄はできなくもないが、本来、悪魔というのは魔王に仕えるもののことなのだ。神に仕えるのが天使であるのと同じようにな」
「ロロちゃん。よかったな。ちょうどいい奴隷が手に入ったぞ」
「うん!」
「いえ……あの、そういうことでは……」
「で、ロロちゃん。あの悪魔長どうする?」
「クビで」
「御慈悲は無いのですか⁉︎」
「私、姫なんかじゃなくて普通に庶民でいいの。パパにも頼んでみる。まあ、パパがそれでも雇うって言うならサタンぐらいは雇ってあげるよ」
「どっちにしろ召使いだな」
「就職先があるだけマシだなと思うか……って違う違う!」
何か間違えたことを俺たちは話していただろうか?
「途中から何から何まで違う!ええい!勇者!貴様が姫にロクな影響を与えとらんからだ!表に出て剣を取れ‼︎」
「さみぃよ。ウィナが寂しがるから元気になってからまた出直してきてくれ。3日もすれば復活するから」
「悪魔を目の前にしているのに悠長すぎないか?それよりも会話が冒頭あたりに戻ってるのだが。エンドレスでやらないといけないのか?」
「しょうがねえな。……なら、今一度、どれだけロロちゃんを愛してるかを証明してやろう。最後に必ず愛は勝つらしいからな。三人いれば負けるはずねえな」
「面白い。それで勝てるものならな」
「スター、アリス……それに、ロロちゃん。行けるか?」
「なんか恥ずかしいんだけど」
「おいおい、ロロちゃん。いつでも俺たちはロロちゃんに対しては慈愛に満ち溢れてるぜ?愛でて、愛でて、愛で尽くす。飽きることなくな」
「愛が重い……」
「大丈夫だ。嫌ならどこか行けばいいし、束縛することはないぜ?」
「……とりあえず目の前のストーカーを倒そう」
「私はストーカー扱いですか⁉︎」
むしろ、こんなところまで追ってきてストーカーじゃなかったらなんなんだと聞きたい。
てか、こいつは何かレーダーを持ってんじゃなかったか?やはり、ストーカーだろう。位置まで特定してきやがるとは。変態だな。
こんな世界の、大陸の最北端へと来やがって。理由もなくここまで来たのなら物好きもいいところで、その点に関しては理由があるからまだしも、その理由が最悪だ。ロロちゃんを追ってここまで来てるんだし。
「とにかく、ストーカーの変態野郎はとっとと排除するに限るな。あと寒いし」
「そっちのが主な理由な気がするよね」
「ウィナが心配だし」
「ちゃんと、あったかい格好にさせたから大丈夫だよ」
さすがアリスさんです。心配要素を払拭してくれました。
それにしても、戦うの久しぶりだな。戦うのは、海竜と戦った時以来か。
無論、トレーニングを怠ってきたわけではない。
スターも俺と一緒に続けてきた。
そんなシーンが一切ないというのは、書き記すほどのことではないということで。基本的に王様に報告するものを語っているだけなのだ。
だから、割愛しても構わないところはいくらでも割愛する。愛を語ってるところが多いのは、俺にとって重要なウエイトを占めるからだ。
王様に語るに当たって、アリスのところは不都合かつ殺られる可能性が高いので、俺は身の安全の保証を手にするために秘密にしておくことにする。
ただ、アリスの方を口止めする気はない。俺に口止めする権利などどこにもないからだ。
ほぼ、正反対にある俺たちの国の王様の耳には届かないことを祈って、ここに綴ることにする。
「そういや、ロロちゃん。魔法の方はどうなんだ?」
「極めるにはまだ足りないってぐらいかな。もう少し時間があればよかったけど、ある戦力で戦うしかないんだから、私が持ち得る力で戦うよ」
「そうか。なら、今回は俺と前で戦ってくれないか?」
「え?……私、前じゃ弱いしあまり戦力にならないよ?」
「俺が守ってやるから。それに、あいつはロロちゃんにどうせ攻撃できないよ」
「ソードの戦法ってどうだったっけ……?」
「殴って殴って殴りまくって相手を戦闘不能にする。シンプル・イズ・ザ・ベスト」
「ただの脳みそ筋肉だったよ……ソードに頭を使えって方が無理な話だったね。ウィナがいない以上はスターに指揮をとってもらおう」
「ぼ、ぼくですか?」
「だって、ソードだとガンガンいこうぜで、全滅ルートにマッハだよ」
「頼んだぜ。スター」
「……やれる限りはやってみましょう」
信用がないのは悲しきことだが、事実も覆せないので、今回の指揮はスターにとってもらうことにする。
身体は冷え切っているが、さっさと始めて慣らしていくことにしよう。
洞窟から少し離れた場所へと移動し、スターの掛け声のもと、サタンとの戦闘が始まった。




