鳥籠の姫様改め、檻の中の勇者
自宅で姫の誘拐、および拉致監禁の罪を無理矢理押し付けられた俺は、城の檻に放り込まれていた。
独房に放り込まれたので、中にあるものは簡素なベッドぐらいだ。
誰の命令だ?そもそも、あの時に俺が姫を自宅に連れて行ったのを見たやつは誰もいなかったはずなのに。
「ご機嫌はいかがかな?勇者殿?」
俺を捕らえた兵士が檻の前に立つ。そのそこはかとなしに湧き出てくる高慢な態度に腹が立つ。
「最悪だね。勝手に罪をなすりつけられて、腕を縛られて機嫌がいいやつがいるかよ。そんなのただの変態だろ」
「うちの兵士に一人いたが、まあアブノーマルなやつだったな。むしろ縛り上げるほど快楽状態になっていたからな」
そんなやつと俺を一緒にしないでもらいたい。俺はそんな特殊性癖など持ち合わせていない。
「誰の命令だ?」
王様と言えど、俺を恨んでるのかどうか知らんが、さすがに言われのない罪を押し付けるほど、愚かではないはずだ。
「我らが王の命だ」
うちの王は俺をそんなに恨んでいたか。俺はこれでも結構忠誠してると思うんだが、そう思っていたのは俺だけだったのか?
王様が俺をどう思ってるかは置いといて、まずはここから脱出せねばなるまい。
「俺はどうしたら出られるかね?」
「姫をこちらに渡してもらおうか」
「渡すも何もついてきたんじゃないのか?」
「ついてきた?何を言う。姫は任意同行だから、この場にはいないぞ」
要するに罪人は俺だけなので、姫は別室でいると言うことか。
「なら、別に俺を介さなくても姫に直接要件を言えばいいだろ。俺がどうこうする話じゃない。分かったなら、早よ行け」
「解けとは言わないのだな」
「言ったところで、確認ができるまではどうせ解かれないだろうしな。姫だって、悪気があって脱走したんじゃないんだし、大目に見てやってくれよ」
「まだ幼いからな。誰にどうされるとも分かった話ではない」
「幼いたって、そこまで小さくないんだし、自分で自分のことぐらい判断はできるだろ。そうやって、過保護に鳥籠の中にしまい込むから、反発したくなっちゃうんだろ」
「鳥籠?しまい込む?何を言ってる?」
「何って、姫の話だよ」
「いや、姫はお前が連れていた……」
「家の中にいたろ?確かに俺が兵の目を背けるために連れ込んだが、それを罪に問われるとは」
「いや、そうではなく」
なんか、微妙に会話が噛み合ってないのか、会話のキャッチボールが成立してないような気がしてきた。
待てよ。一度、質問してみるか。
「ちょっと聞きたいことがある」
「なんだ?」
「姫の名前を言ってもらえないか?俺が想像してるのと違うような気がしてきた」
「意見の相違が見られるということか。なら、勇者殿も言ってもらおうか。そうすれば分かることだろう」
「ああ。せーの」
「アリス・グラスフィールド」
「ロロ・アークハルト」
やっぱり全然違うじゃねえか。噛み合わなくなるわけだよ。って、ロロちゃん?
「ロロちゃんって姫なのか?」
「貴様、ロロ様をなんと心得る」
「妹」
檻が剣で切り裂かれた。やったね。これで出やすくなったよ。ちゃうわい。そんな悠長なことを言ってる場合じゃない。なんとかして、激昂してるこの兵士をなだめなければいけない。
「もう一度問おう。ロロ様をなんと心得る」
よかったもう一度チャンスが与えられた。武器も力も失っている状態で、その上腕も縛られて満足に動けないときた。脚は縛られてないことは幸いしたが。
「魔王の娘。そうだろ?」
「その通りだ。それを知りながら、なぜ姫は勇者である貴様と一緒にいる?」
「俺だって、最初はちゃんと聞いたさ。初対面では嫌われてたしな。でも、一緒にいくと言ったのは他でもないロロちゃん自身だぜ?ま、俺が言ったところで信憑性もないだろうからここで切り捨てても俺はいっこうに文句は言えねえよ。俺は魔族に対してそれだけのことをしてきたんだからな。違うか?」
兵士は剣を鞘に収めた。
俺に背を向けて、呟く。
「奇妙な勇者だ。魔王の娘とあらば、芽を摘むために倒しておくのが普通は定石だ。だが、貴様はそうしなかった。いつ寝首を狩られるかも分からんのにな。貴様を姫が気に入って、ついているのなら、私は何も言わん」
どうやら俺を切り捨てることはやめたようだ。あと、ついでに縄を解いてくれませんかね?
「サタン・ブライドだ」
「え?」
「私の名だ。以後見知っておいてもらおうか。どこかでまた会うかもしれんしな」
背を向けたまま、サタンは去って行く。
「お、おい!」
「なんだ?檻は壊れている。脚も自由だ。勝手に出て行って構わない。私の独断ですべてやったことだ」
「いや、あのですね……」
「まだ何か?」
「腕の縄も解いてください……」
頭を押さえて、仕方なしと剣で縄を切ってもらえた。
持つべきは優しい敵さんだね。……敵?
「えっと、あんたはいわゆる上級魔族ってやつか?」
「7大悪魔とも敬称される。もっとも肩書きに興味はないが」
「ふーん。悪魔ともなれば喋れるもんなんだな」
「姫から聞いたのか」
「魔王族と一部の魔族だけだって聞いてたからな。あんたは悪魔って言う割りにはいい人そうで良かったわ」
「姫を城に戻してこいと言われてるだけだからな。お前を亡き者にしろとは命令されてない。それだけだ」
「ありがたいこって」
縛られて感覚が麻痺していたが、徐々に戻ってきた。
二、三度手をプラプラさせて牢屋から脱出することに成功。
もっとも、全部勘違いで、俺は悪くなかったのだが……。
サタンは自身が壊した檻の破片を拾いながら、思いつめていた。
後悔するなら壊さなきゃ良かったのに……。
後悔先に立たず。今日、改めて学びました。




