決別
洞窟の中で暇を持て余していたフィアとエルちゃんと合流し、腰を落ち着ける。
だが、ことがことなので、特に誰も言葉を発することはなく時は流れていく。
フィアとエルちゃんも空気を読み取ってくれたのか、何も聞かないでいてくれている。
全てはロロちゃんが戻ってきてからだ。
そこから、もう一度始まる。
いや、始まらないといけない。
彼女はそこで立ち止まってはいけないのだ。でも、立ち止まりそうなら、俺たちが背中を押してやろう。なんのための仲間で友達なのか、それこそわからなくなる。
……………
…………
………
……
…
どれぐらい経っただろうか。
いつの間にか寝ていた気がする。
目をこすって瞼を開くと、ロロちゃんの顔がすぐ正面にあった。
あんなことがあった後なので、俺は少しバツが悪く顔をそらしてしまう。
……いや、それだと悪いな。もう一度、俺はロロちゃんの顔を確かめる。
目は泣き腫らし、真っ赤に充血している。
それが、恥ずかしいのか、それとも俺と同じような理由のせいか、視線を少し泳がしていた。
「そ、ソード……これ」
おずおずとロロちゃんが差し出したのは、俺の力の欠片だと思われるものだった。
とういうことは、もう……。
「悲しくないよ。もう、散々涙は流したから。後は笑うだけだから。泣いた後は笑えなきゃ、ママも心配するから。だから、これはママが最後に残してくれたもの。でも、これはソードに返さなくちゃ」
「悪いな。最後に一緒にいてやれなくて」
「ママも分かってたみたいだから。私のために、みんな気を利かせてくれたんだって」
「そういえば、みんなは?」
ふと気付いて辺りを見渡すがロロちゃんと俺以外の姿はどこにも見当たらない。
「ソードが寝てるから私がいてあげてって。先にエルフの長老のところに行った」
「相変わらずあいつら仲間意識が低いよな……俺のことなんだと思ってんだ?」
「程のいい壁?」
「本当に思ってそうで困るな……」
「……みんな聞いてたのかな」
「だろうな。あいつら物陰に居やがったし。障子にメアリー壁にミミアリーとはこのことだな」
「なんだか人の名前みたいに聞こえるけど、それあってるの?」
「通訳者がいないから、俺に回答を求められてもな。ただ、いつ何時も誰かが自分のことを見てるって俺は都合よく解釈してるけどな」
「悪いことできないね」
「そうだな。でも、見ていて欲しい人がいつでも見てくれてるって考えればそれは素晴らしいことじゃないか?」
「ママも見てくれてるかな?」
「ああきっとな。さて、そろそろ行こうか。悪いな待たせて」
「ううん。こっちこそ。それで……えと……」
もじもじといじらしく手をグーパーさせたり、プラプラとしてみたり少々落ち着きがない。
「まったく。落ち着かないな。俺が握っててやるから。これで、止まるか?」
「あ……うん。今度はソードがエスパーみたい」
「手を繋ぎたいなら、それぐらいなら俺はすぐに叶えてやっから。遠慮するな」
「あんまり女の子たぶらかすと勘違いされるよ?」
「人聞き悪いな……女の子が望むことなら俺は出来る限りは叶えてやりたいだけだ」
「偽善者?」
「誰が偽善者だ!むしろ俺ものすごく紳士だぞ!てか、勇者名乗ってて偽善者は酷すぎるだろ!」
「人によってはそういう見方も……」
確かにあるかもしれんな。多大な犠牲を出した先に果たして本当に、平和があるのだろうか。
そんなものは確かに偽善者だろう。何かを犠牲に成り立たせたくなどない。例え、誰であっても。
「モンスターはバシバシ倒してるじゃん」
「無抵抗でやられるやつはいない。正当防衛を俺は主張する」
「ああ言えばこう言うんだから……」
「なんかウィナに似てきたか?」
「それなら本望だよ。どこかの誰かに似てくるより」
「誰のこと言ってるんだ?」
「誰のことだろうねー?ほら、早く行こ!」
引っ張り出した、小さな歩幅に合わせて俺は歩き出す。
そうして、数分も歩けば、入り口にたどり着いていた。
やはり、かなり時間が経っていたのか、外はすでに暗く月が昇り、星が瞬いている。
俺とロロちゃんは一緒になって、その空を見上げる。
ふと、ロロちゃんの方に顔を向けると、ロロちゃんの頬に一筋の涙が伝っていた。
俺はそれを見て見ぬ振りをする。
「一人で、見送るのはやっぱり寂しかったよ……。涙が止まるまでは、せめて、みんなのところには行けないなって。心配させるだけだし。……結局、泣き腫らしちゃってるし、目も赤いみたいだから、無駄なことだったけど」
「いいじゃねえか。今日1日ぐらい泣き腫らしたって。涙が止まらなくなたって。だから、明日からまた笑えばいい。そりゃ、全て忘れて生きていけるわけじゃないけど、笑ってる中でロロちゃんがお母さんのことを思い出してあげれば、きっと、ロロちゃんのお母さんも幸せだと思う」
「……私、ママに何かしてあげられたかな?何もできないまま、お別れしちゃったと思うんだ」
「子供が自分の分まで精一杯生きてくれれば、それが親の幸せだと思うぜ?後は、自分の夢を叶えて、それを伝えてあげよう。それが、親への恩返しだ」
「私の夢……」
「まあ、例えば私が魔王になってやる!とかでもいいんじゃないか?」
「なんか、なんやかんやでいつかなってそうだから予定調和的に起こりそうなものは却下。自分の力で叶えたいの」
「じゃあ、どうすんだよ」
「あ、流れ星!」
「久しぶりだな」
祈るように瞳を閉じる。
その願いを流れる星たちに込めて、いつかどこかで叶うように……届くように……。
「うん。これでオッケー!」
「叶いそうか?」
「う〜ん。まあ、結局私次第なのかもしれないけど……」
「なんだそりゃ」
「願い事は人に言わないのが鉄則だよ」
「誰に聞いたんだよ、そんな乙女チックなことは」
「アリス」
「だよな……」
ウィナは妙に現実主義者だから、流れ星を見て、その光景に感動することがあっても、願い事をしようとはしないだろう。
そのくせに空気読んで、お姉さんぶって『何、お願いしたの?』って聞いて来るんだ。
「何か、お願い事した?」
「噂をすればなんとやらだな」
「なに〜?人の噂をコソコソしないでよ」
「いや、俺の中だけで勝手にしてたからロロちゃんは特に関係ないぞ。それに噂をするなら堂々と本人の前でする」
「それ、噂になってないよ」
「ウィナは何かした?」
「私は……特にしてないかな。流れ星はリアルタイムで観てても、とっくの昔に過ぎてて、大気圏の中で溶けちゃうか、隕石としてどこに落ちてたりするかもだし」
「たいきけん……?」
「小難しい用語を使うな。もっとゲーム感覚で説明してやれ」
「強い結界を流れ星が突き破ってくけど、途中で結界がさらに強くなってて突破出来ずに消滅しちゃうの」
「なんかわかった気がする」
「よくこんなアドリブに答えられるな」
「伊達にソードの相手してないよ……」
「むー」
どうやら、ロロちゃんが御立腹の様子。
「で?仲良さげですね。お二人さん」
「暗いし、危ないだろ?手を繋いで歩くぐらいいいだろ」
「ま、いいけどさ……今日ぐらい。ロロちゃんが我が儘言ったって」
「……我が儘ついでに一つ聞いてくれる?」
「えっと……どっちがだ?」
「両方……かな?」
「俺とウィナ、両方にか?」
「うん……私と今日、一緒に寝て欲しいなって……」
「俺は構わないけど……ウィナはいいか?」
「ロロちゃん間に挟んで寝るならそれでも……でも、スター君とアリスはどうしようっか」
「最近、仲良いみたいだし、これを機に一緒に寝かせてもいいんじゃないか?」
「なんかどちらともブースカ言ってきそうだけど」
「俺の口八丁で言いくるめてやるよ」
「「正直ソードに期待はしてない」」
ウィナとロロちゃんの声が重なり、二人で顔を見合わせて笑いあう。本当に似てきたよあんたら。
それにしても、俺そんなに期待値低いですか?
「じゃ、私はいいよ。一番一緒にいたいのは私じゃなくて、ソードと。でしょ?ロロちゃん」
「な、ななな。そ、そそそそんなことないもん!」
「じゃあ、あれは空耳だったかな〜『バカでスケベで能無しだけど……』」
「それ以上復唱しないで〜‼︎」
俺を貶してる部分はいいんですね。
言われたら言われたでこっちもこそばい気分になるだけなので、言われない方がいいのだけども。
「可愛いな〜ロロちゃん。好きな人は目の前にいるんだから、それを伝えちゃってるんだから、後戻りはできないよ?」
「そ、そんなのウィナだって……」
「私はどっかのバカがどうしようもないからね〜。今日1日はロロちゃんに貸してあげる」
「おいコラ。いつから俺はレンタルできるようになったんだ」
「所有権は誰にもないけど、もちろんソード自身にもないのであしからず」
「俺の人権は何処⁈」
ちくしょう。レンタル料金取れないじゃん。結局、ウィナのところに金は回ってくから何も代わり映えすることはないのだけど。
「じゃあ……ソード……。今日、一緒に寝てくれる?」
「何もしないぞ?」
「何で私がそれを望んでいるような言い方をするわけ?」
「お望みじゃないのか……」
「今日……一人だとまた泣いちゃいそうだから……」
「冗談だよ。じゃ、今日だけロロちゃん借りてくな」
「ちゃんと返してよね」
「私、ウィナのものじゃないもん!」
「…………」
ウィナが少し考え込む仕草を見せたが、すぐに首を振って、おやすみと先に戻って行った。何がしたかったんだあいつは。
「ウィナ、損な役回りな気がする」
「正直なところ、本当に申し訳ないと思ってる」
「そのくせに他の女の子にデレデレしてうつつ抜かすんだから、余計に心配するんじゃないの?」
「そこまでわかってんなら、配慮しようという気はないのか」
「ないね。ソードがさっさと決めればこじれることはないんだよ?」
「ロロちゃんに話したっけ?旅に出る前にウィナに結婚してくれって頼んだの」
「……初耳だよ。私、勝ち目ないじゃん……」
確か、ミーナちゃんだけだったっけ?言ったのは。
「いや、その時は断られたんだ。それでも、昔から一緒にいて、一番付き合いも長いし、あいつ、俺のためなんかに交際とか全部断ってんだぜ?さすがに無下にできないんだよな」
「ソードがウィナのことがそこまで好きじゃないとかなら話は別だったけどね」
「そうなんだよな。別に親の手前付き合ってたわけじゃないし、俺は俺でウィナのことが好きなんだ。ただ、ウィナに対してが家族のようなもので好きなのか、女の子として好きなのかがイマイチ俺には区別がつかないんだ」
「例えば、スターがウィナと話してたりするとヤキモチを焼いたりする?」
「いや、正直あいつに関しては脈がないから安心して見てる」
「それはそれでスターに失礼でしょ……」
「師匠を超えることは許さん」
「弟子って、師匠を越えてなんぼのものじゃなかったの?」
「剣術的な話だ。それとこれとは話が別」
「人間的に財力的にも圧倒的に向こうが上なのに、ウィナもなんでこっちを選ぶのか」
「それを言うならロロちゃんもだろ」
「……結局、好きになる人って理屈じゃないと思うけど、きっと私は少し抜けてるぐらいの人が良かったんだと思うよ。スターだと色々完璧すぎるから」
「まあ、あいつは妹愛に全力を注いでるから今はいいや」
「ソードも大概スターに対してぞんざいだよね……」
「あいつは自分で考えて動けるからな。伊達に修道院に入ってたわけじゃないだろ」
「話、変わるけどさ。もし、ソードの親が亡くなったらソードはどうなるのかな」
「仮にも肉親だからな。じいさんばあさんのことは知らんし、そりゃ泣くだろ。ま、いい歳だからわんわん泣くようなことはないだろうけどな。いつかその日が来るだろうし、避けようのないことだと思うぜ」
「避けようがない……か。ママがあの時死ぬのは決まってたことなのかな」
「だとしたら、運命はひでえもんだな」
「……そうでもないよ。別れがあるなら出会いもある。旅にはそれがつきものだって、そう言ったのはソードだよ?」
「俺、なかなかいいこと言うな。自らを絶賛したくなる」
「それがなければよかったのに……ソードは一言余計なんだよ」
「まあ、今のは俺も余計だと思った」
「……でもさ、私はこうしてソードたちと出会ったけど、パパのところに戻ったら別れになっちゃうんだよね。……やっぱり、それは寂しいよ」
「だから、俺と一緒にいようとしたのか?」
「ち、違うよ!ソードのことは……ホントに好きになったから……だから、一緒にいたいって……それじゃ、ダメなの?」
「いや、嬉しいよ俺は。真っ直ぐな気持ちを伝えてくれて。ただ……」
「ただ?」
「魔王がんなこと許してくれるかって思ってな。勇者だしな、俺」
「大丈夫だよ。ソード、優しいし。勇者の役目、ほとんど放棄してるし」
あれ?俺、勇者としてこの旅でなんかしてきたっけ?
今更ながらに、考える羽目になってしまったが、何もしてないことに気づき焦りを覚えた。
過ぎたことはどうにもならんが、勇者の仕事って、世界平和以外に何があるのだろうか。そもそも、魔王だって侵略する気ないんだし、俺である必要性が微塵たりとも感じられない。
「勇者って……なんだ?」
「え?今更それを聞くの?」
「だって、魔王侵略する気なさそうだし、魔王を倒すのが勇者の宿命らしいけど、する必要性がないし」
「おいおい考えていこう。他の勇者って名乗る人が倒しても迷惑千万だし」
「ごもっともだ。ロロちゃんがいる限りは俺だって魔王に用があるからな」
「じゃあ、返事はパパの前でしてよ」
「え?何それ、イジメ?」
「言い逃れはできないでしょー。ふぁぁぁ」
「もうさすがに眠いか」
「うん……おんぶして」
「しょうがねえなっと」
ロロちゃんをおぶると、すぐに寝息が聞こえた。泣き疲れてもいたんだろう。母親と永遠の別れをしたのだ。
せめて、墓ぐらいは明日作ってやろう。
それにしても、ロロちゃんの返事を魔王の前でするって、ロロちゃん選ばないと詰み状態じゃないですかね?
その時はその時だ。俺ならできるはずだ。
誰も、傷つかない選択を。




