過去の自分(4)
予想通り、スターの元を去った後にいたのはウィナだった。
きっと、これは旅に出る直前だろう。俺に、魔王討伐の命が王様から下された。
前任の勇者の消息がつかめなくなった事から、予定より早い出発となったのだ。
それを、最初にウィナに報告した。
最初のパーティメンバーは自分で推薦したものでいいという話だったからだ。それを補えるだけのメンバーを王様側で調達しておくとのことで、ウィナにその役目を頼もうと思っていた。
「ね、ソード。ちょっと来てくれる?」
いつのまにか、ソード君と呼ばずに呼び捨てで呼ぶようになっていた。距離が近くなった気がして、俺はそれが嬉しかった。修行に出ている以外は、基本的にはウィナと一緒にいたから、それが自然となるのも時間の問題だったのかもしれないが。
まだ、この時はあまり背は高くないな。
ウィナと並んで歩いてあまり背が変わらないのを見て、少し苦笑する。
確か、この時に連れられて行ったのは、ウィナの家の裏にある山だったか。この時にはあまり行かなくなっていたが、小さい時にはいい遊び場としてよく行っていたが、成長してからは遊ぶには少し窮屈だったのだ。
「久しぶりだなここに来るのも」
「あまり遊びまわるって年でもなくなっちゃったしね」
「お、まだあのベンチはあるのか」
「ああ、ソードのお父さんが作ってくれた」
少し錆びれている感じはしたが、まだ座れそうだ。ただ、二人で座るには少し成長しすぎてはいた気がするが。そもそも、小さい俺たちのために作ってくれたものだしな。
それでも、距離がこぶし一個分ぐらいの間隔で座ることはできた。
「……やっぱり、旅に出たくないか?俺だって、無理を言ってることは分かってるし、ウィナが嫌なら無理強いをするつもりはないけど」
「ううん。そんなことないよ。私を選んでくれて嬉しい。いつか、ソードが旅に出ることは分かってたから、ソードと一緒に戦えるように勉強も実践も頑張ってきたもん」
「そっか、そいつは俺も嬉しいよ。じゃ、どうしてここに連れてきたんだ?」
「ちょっとお話ししたいなって。最近はあまり帰ってこなくもなっちゃったし、一緒にいるのも少なくなっちゃったから」
「一応、帰ってきたときは一番に行くようにしてんだけどな」
「ま、いいんだけどね」
日が沈んでいくこの時間。一番星も輝き始めている。夜になるまで時間は短い。時期的には春になったぐらいか。少し肌寒くもあっただろう。ウィナは少し体を震わせていた。寒さに対してなのか、それとも別のことに対してだったのか。
「ね、ねえソード」
「んー?」
「ソードは、さ。好きな子とかいないの?」
「なんだよ、藪から棒に」
「幼馴染だから、気になっちゃって〜ね?」
「ね?と言われても、そもそも俺の周りなんてお前か姫しかおらんだろう」
「王子は?」
「俺はアブノーマルな趣味をお前に見せたことがあったか」
「アブノーマルだからこそ、幼馴染にも隠してるとか」
「隠したことねえし、そんな趣味を持ち合わせていない!」
「そっか……」
「なんだよ」
「いや、姫に結構アプローチかけられてるって話を聞いて、それになびかないからそういうことなのかと」
俺、この時ものすごい曲解されてたのな。どういう結論でそんなことになるんだよ。
「まったく……頭が痛い」
「明日から出発なのに大丈夫?」
「誰のせいだよ」
「で、誰が好きなの?」
「そういうお前はどうなんだ?ウィナだって、可愛いんだし学校のやつからとか告白されたりしないのか?」
「全部断ってます」
「ざっくりだなぁ。フラれたやつ可哀想に。断るときはなんて言ってるんだ?」
「……す、好きな人……他にいるからって……」
本当に恋する乙女ですね。この頃のウィナ。すごく撫で回したい。なんで、この時しなかったんだろう。……ああ、背が変わらなかったからやりにくかったのか。
「だ、だから私のことはいいの!ソードはどうなの?」
「……お前だと言って、それでどうにかなるのか?」
「……どうにもならないね。私もソードのことが好きだし、でもだからと言ってどうなるわけでもないよ」
「そんなもんだ。だったら、ここで誓っておくか」
「何を?」
「俺はウィナの隣でずっと守り続けるよ。何があっても。これから先も、ずっと」
「……何それ。告白?」
「今から旅に出るんだ。だから、危険なこともいっぱいあると思う。お前を旅に連れて行くってことはそういうことだって俺は思うから」
「ありがと。でも、ソードが私に守られるなんてのはやめてよ?」
「ぜ、善処します」
「冗談。でも、守る守られるじゃなくて、横で並んで立っていたいな私は」
「最初は2人だから、頑張って協力してこうぜ」
「うん」
「降りるか。今日はうちの母さんが奮発してくれてんだ。ウィナも一緒にどうだってさ」
「なら、ご馳走になろうかな。……ちょっと、やっぱり待って」
「どうしたよ?」
「このままあやふやなのは嫌だから……あんな適当な感じじゃ私は嫌だから」
「だから……何が?」
「私、ソードのことが好き。幼馴染でも、家族でもなくて1人の男の子として。だから……だから……」
虚を突かれたのか、この時、俺はあたふたして、それで……何て答えたんだっけ?
「お、お前、顔真っ赤だぞ」
「ゆ、夕陽のせいだもん!ね、ソードは私のこと、女の子としてどう思ってる?」
「……悪いけど、女の子をウィナと姫しか見てきてないから、どんなもんなのか分からない。ウィナが基準だから、どう思えばいいのか。でも、今はウィナのこと好きだって言える。……返事は旅を終えて、お前も気持ちが変わってなかったら、その時でいいか?」
「……待たせちゃうのか……」
「悪いな」
「他の人になびいても知らないよ?」
「その時は死ぬほど後悔するかもな。なんであの時返事しなかったんだって」
「今が……ラストチャンスかもよ?」
「いいや、俺はウィナのこと信じてるからな。ずっと、隣に立ち続けてきたんだ。これからも、一緒にいてみせるさ」
「……もう、バカなんだから」
「そればっかりは遺伝だからどうしようもないんだ。諦めてくれ」
「ん、分かった。待ってるから。ソードの返事。…………いつになっても」
最後の呟きはこの時の俺には届いていなかった。すでに降り始めていて、どこかへと吸い込まれるように消えていた。
そっか……今でも、待ってくれてんだな。あんなので返事をしたつもりになってはいけないんだ。だから、俺はアリスのことを女の子として見なかった。アリスが引いたわけも、終わりを告げた意味もなんとなく分かった気がした。
もう少しだけ、待っててくれウィナ。もうすぐ、終わると思うから。




