過去の自分(3)
最初が修行始めで、もうすでに12歳ぐらいまで進んでいる。
テンポ速いですね。ここから、また退行するなんてことはありませんよね?
最初はみんなとの出会いを見せていった感じなのだろう。重要なファクターとなるのはこの辺りからではないだろうか。
そこまで重要なことがあったどうか忘れたけど。どんだけ記憶力ないんだ俺。
だが、俺も15の時には旅に出ているので、残りはそう長くないだろう。
あの悪魔の能力は対象者自身を退行化させる能力だと思っていたが、そういうわけでもないらしい。これなら、トラウマでも見せつけて精神的に衰弱させればいいのにな。もしかしたら、過去へは飛ばせるが、そういった指定まではできないとかなのか?
先ほどロロちゃんに会ったので、今度はウィナかと思ったら、次はアリス単体だった。
場所は城の中庭。中庭のくせにうちの自宅より当たり前のように広いってどういうことですかね。
「ねえ、お兄ちゃんはなんで学校行かないの?」
「行かないじゃなくていけないんだ。いつ親父に拉致されるか分からないし、勇者に必要なのは教養じゃなくて実戦経験だって言われててな……」
「私、お兄ちゃんと一緒に学校行きたいな……」
「初等部は6年だからいいけど、中等部なんて被る時ないだろ。王子ですらそうだぞ?」
「でも、うちは高等部まで一貫校だから会おうと思えばいつでも会えるよ?」
「そうしたいのは山々だけどな……」
どうやら、俺に学校に来て欲しいと懇願しているようだった。確かに、俺が普通に学校に行って、普通の青春を過ごしていたらと考えた時期もあった。でも、勇者として生まれたのは宿命であり、運命だったのだ。
それを放棄するわけにもいかないし、今更学校に通うことなんて俺の中の考えにはなかった。
「ま、ウィナや王子もいるんだし、我慢してくれ。俺みたいなのはたまに会うからいいんだと思うぞ?」
「私は毎日一緒にいたいもん……そうだ!お兄ちゃん、大きくなったら私と結婚しよ?」
「うえ?そ、それは……」
「それはならんぞアリス」
「げ」
「お、お父様」
「まったく。息子の稽古日でもないのに来おって。あまり娘をたぶらかすでない」
「別にたぶらかしてなんかねえよ」
「たぶらかすって?」
「姫はまだ知らなくていい言葉だ。とにかく、王様にとやかく言われることはねえな。遊び相手のいない姫と遊んであげてただけだよ。この後、俺はまた修行だ。また来るよ姫」
「うん。待ってるね」
「……友達出来るといいな」
俺はそう言い残していた。
なんで姫に友達ができないのか理解ができていなかった。可愛くて、活発で頭も良くて、この時は同年代からは憧れの的なのではないかと考えていた。
知るわけもなかったのだ。姫がどんな境遇に置かれていたなんて。国を離れて修行を繰り返し、学校に行ったこともなかった俺に。
俺が、アリスにとってどれだけ大きな拠り所となっていたかなんて。
ーーーーーーーーーーーーー
アリスときたからお次はスターだ。
だが、スターに対して後ろめたいことは師としての役割を放棄してしまったことだ。それは最初の旅を終えたときのことだし、この頃とは違うだろう。いったい、スターとは何があったのか。
「アリスが何を考えているのか分かりません」
これはいつだ?先ほどのと同時期か少し上ぐらいか?
「なんだよいきなり」
「いえ。あなたが年齢では中等部になられたでしょう?」
「行ってないけどな」
「アリスがそのせいかいきなり中等部の勉強までし始めたんです。聞いたら『お兄ちゃんに近づくにはこうするしかないの!』と。まだ9歳なのに何を色気付いているのか……」
「背伸びしたい年頃なんだろ。プラスに働きそうならそのままやらせればいいし、なんか危なっかしいって思うならお前が止めてやれ。先に生まれた兄の役割だ」
「……兄ってなんなんですかね?」
「俺には、妹も弟もできたことがない一人っ子だからな。妹分、弟分はいても、血の繋がった兄弟のことなんて俺には分からんよ」
「でも、ソードさんもアリスにとっては兄も同然ですし、何かアドバイスくれませんか?」
「強いて言うなら、姫には酷かもしれないけど、俺に憧れるのはやめとけってことだけだ。きっと、いつか後悔すると思う」
「アリスも……どこかでは分かってると思います。でも、まだ幼いし色んな感情がごっちゃになってるんだとは思いますが、その中であなたのことが好きだという感情だけが前面に出てて、それに執着してるんじゃないでしょうか?」
「どちらにせよ、兄は妹の行く末は見守ってやらなきゃな。俺みたいなのに攫われないようにちゃんと見ててやれよ」
「……はい。でも、そう自分を悪く言う必要なんてないんじゃないでしょうか」
「そう聞こえたか?」
「僕には、そう聞こえます。遠回しに自分を嫌うように仕向けてるようにも。アリスのこと、嫌いですか?」
「……いや、好きだよ。でも、それが女の子としてなのかは分からない。まだ小さいしな。もう少し大きくなって、そういう対象として見れるようになればまた変わるのかもしれない」
「そうですか……。では、ウィナさんのことは?」
「な、なんでここでウィナが出てくるんだよ!」
「他意はないです。幼馴染ですし、年も近いですから、正直そういう話もあるのではと」
「ガキが勘ぐるな」
軽くデコピンをして、話を断ち切っていた。思春期真っ只中だから、ウィナに対してだけは過敏に反応していたと思う。スターはそんな俺を見ていたからこそ、アリスのことを心配していたのだろう。叶わぬ恋だと。結局、兄は妹のために何ができるのか。スターは俺にその答えを期待していたのだろう。
何も答えてやることはできなかったが。
「そういえば、王子。王様から聞いたぞ。俺と家庭教師以外の習い事は全部辞めたって」
「ええ。それがなにか?」
「なんで俺なんかの剣の授業聞いてくれてんのかなって思ってさ。最近は不定期だし。学校でもやってんじゃねえの?」
「学校ではレベル低いですから。ソードさんに一カ月ぶりでもこうして交えてもらえたほうが、余程刺激になりますよ」
「剣なら俺じゃなくても大人でいいやついるだろうに」
「……あなただからでしょうね。幼少期から、僕とあまり変わらない年だからこそ、こうやって一緒に続けられるんだと思います」
「下手に大人とやるより危険はねえってことか」
「それにあなたなら僕の今の力を把握してやってくれますしね」
「それがいつまでできっかなぁ」
「とりあえず、僕が旅に出るまで頼みますよ」
「なんだ、お前も旅に出る気なのか?」
「父上みたいに、中でふんぞり返ってるわけにもいきませんから」
「……ま、お前が旅に出なくてもいいように俺が終わらせてきてやるよ」
「そうなることを祈ってますよ」
軽く微笑んで、大人ぶってスターは言葉を紡いでいた。よく考えれば、こんな時からこいつは大人びてたな。教育の賜物でもあると思うが、だからこそ、こういう剣の講義でも受けていた方が息抜きでもよかったのだろう。
俺はこの時に交わした約束を果たせず、失望させて、旅に連れ出してしまっているわけだが。
俺は何も約束を果たせてないんだな……。幼い頃の約束だからと言って、あいつらが忘れているはずもない。俺よりずっと頭も記憶力もいいのだから。
悪いな、俺なんかに付き合わせちまって。
贖罪できるとは思わないが、これからはもっと誠意をあの兄妹に見せてやろう。




