恐怖と羨望
特に言葉を発することなく俺は後ろを歩いている。
みんなは何とかロロちゃんに話しかけようとしてるが、なんと声をかけていいのか分からないのか、直前にためらってしまっている。
並び順としては、先頭にフィア。その真後ろにロロちゃん。その後ろにウィナ、アリス、スター。そして、最後尾に俺が。
俺たちは今、妖精とエルフの居住地の境目にいる。奥地から流れている川で何となく隔たりを作っているらしい。こうして頻繁に行き来しているのも、妖精ではフィアと長老ぐらいとのことだ。
向こうは向こうで、長老的なものがいるらしい。とりあえずはそっちに挨拶に行くそうだ。案内してくれているフィア自身はあまり会いたくはないらしいが。
俺はみんなを抜いて、フィアの近くへと行く。
「何ですか?」
「エルフと妖精はあんまり仲良くないのか?」
「人間同士で仲良くできないことだってあるんですから、種族が違ったら本来仲良くすることすら難しいと思うです。ペットがいるでしょう?きっと種族が違ったら、どちらが上位だってことを決めなくちゃ自我を保てないんだと思うです。私が仲良くしている子はそういうことは考えてないと思うんですけど、向こうの長老はそういう思考が強くて……」
「会いたくねえってことか」
「一番人間を嫌っているとも言えます」
「なんでお前の爺さんはそんなのに俺たちを会わせに行かせるんだよ」
「あくまであの悪魔は向こうの管轄ですので、向こうに通りを通してからってことでしょう。そこで私の友達と落ち合うことになってるので、早く行きましょう。早く行って早く終わらせたいです」
友達には会いたいけど、その上には会いたくないってことだな。分かりやすいやつ。まあ、よそのお偉いさんに会いたくない気持ちはわかる。俺に至っては、自分のところのお偉いさんに旅を終えても、報告せずに隠居したい。
「あなたも大概ですよ」
「ならスターがさっさと王様になってくれ。それなら毎日報告に遊びに行ってやるよ」
「あなたが来た時点で他の人に対応を任せます」
次期国王様は僕のこと嫌いだそうです。人間同士相入れてないのに、こりゃ無理そうだな。アリスの方から陥落させていこう。
「なあ、アリス」
「何かわかりませんが、とりあえず拒否しておきます」
「何も言ってねえだろ⁉︎」
「兄さんがダメなら私からみたいな浅知恵が見て取れました」
だから、うちのパーティはエスパーばっかりなの?俺の思考が浅知恵過ぎるのが原因なの?
「ロロちゃん、慰めて」
「無理」
最近どいつもこいつも俺に冷たいです。俺に拠り所はないのか?
「なあ、ウィナ。なんでこんなことになったんだ?」
「日頃の行いのせいでしょ。無駄口叩いてる暇があったら、心の準備でもしておいたら?どうせ罵られるだろうし」
「それを前提としていくのもなんだかなぁ。ぶっちゃけなんで俺たちが下手なんだよ。あいつらで処理できないからお鉢が回ってきてるというのに」
「あんまり言ってるとすぐに耳に入りますよ。ほら、あそこです」
なんか見たことのある家に案内された。というか、さっき長老がいたところと外観は変わらない。
「同じところに案内しやがったな?」
「なんでそんなしち面倒臭いことをしなくちゃならないんです?確かに見た目こそ一緒ですが、ちゃんとここです。さて、私はここで……」
「行かせると思うか?」
「わたしは会いたくないです」
「俺たちだって出来る限りは会いたくねえし、自分たちで行ってちゃっちゃと終わらせてきても問題はねえんだよ。説明役としているんじゃなかったのか?」
「その辺りは、通訳の通訳がいるんで、私がいなくとも成立しないことはないです」
通訳の通訳って発信源は一体どんだけ難解な言葉を発してるんだよ。仲介役がないと会話ができないのか。
「発信源はボケてるので、正直こっちからの話はその孫の私の友達を介してしか話せないです」
「もう、そいつ長老の座から降ろせよ」
「それすらも耳に入れないのであの爺さんが死ぬまで無理です」
「……残りの寿命は?」
「まだあと2,30年は生きるかと。エルフは平均寿命180年ぐらいなので」
「長すぎるだろエルフ‼︎」
「人間でも全く何もしない、外気に触れない、衝撃を受けない、必要最低限の栄養を摂り続けるということを続ければ理論上200歳まで生きれるそうです。ともすれば、エルフも理論上だともっと生きれそうですね」
「衝撃やらなんやら受けることで寿命を縮めてるってことだな。やっぱり引きこもり最強だな。旅終わったら引きこもる」
「どうせ引きこもったところでやることないでしょう。やる以上は人に迷惑かけないようにしてからにしてください」
「勇者特権とかないの?」
「買い物の割引にしてあげてたでしょう。うちの国限定ですけど」
「他の国で影響力なさ過ぎだろ!もっと勇者っていうぐらいなんだから崇めてくれよ!慕ってくれよ!」
「むしろ魔王の方が影響力ありますよね。全世界中に恐れられてるんですから」
「あれ?俺より魔王の方が凄い?」
「やっぱりパパ凄い!」
「ロロちゃん。そこはあんまり喜ぶべきところじゃないよ……」
「小ネタやってないで、行きますよ」
見えてから少し歩くと、どうやら入り口のところで待ち人ありけり。
昔の文法あたりで出てきそうな導入部だな。昔のは全部こんなだったらしいけど。読みにくくて仕方ねえ。でも、昔からすれば、今の文法も読みにくかったりするんだろうな。俺、本とか全く読まないからほとんど関係ないけど。
それとは関係なしに、どうやら入り口に立っているのは俺たちと変わらないぐらいの年の女の子みたいだ。
ただ、例によって背は低い。ロリコン歓喜の国だなここ。
「誰か〜。ソードを隔離しておいて〜」
「ウィナさん!そんな殺生なことを言わないで!」
「妖精さんだったら小さすぎてどうしようもないかと思ったけど、このぐらいだと危険だよ」
なぜか初対面のはずの女の子を抱きしめている。
その女の子はキョトンと不思議そうな顔をしてウィナと俺を見比べている。
本当に何がどうしてこうなった状態だよ。
「あ、あの〜」
「あ、ご、ごめんね。話聞いてるかな?」
「はい〜。私、フィアの友達でエルって言います〜。フィアのおじいちゃんから伝言預かってるので皆さんのことは知ってます。案内しますね〜」
妙に間延びした喋り方だ。というかスローテンポだ。テンポが悪い。
「おじいちゃーん、お客様だよ〜」
「ほいほい。ありがとなエルちゃん」
「この方たち」
「んん?」
「…………」
聞いてたよりは普通。まあ、よくあるエルフの特徴を除けば、耳は遠くなさそうだし、自立してるし、偏屈爺さんってわけでもなさそうだが。
「帰りなさい」
「おじいちゃん!ちゃんと私たちのために来てくれてるんだから突っぱねないで!」
「エルちゃんがなんと言おうとワシは人間は好かん。例えワシたちのために何かしようと、ワシの知るところではない」
「なら、勝手にやらせてもらおうか。行こうぜみんな」
「勝手にやっても、反感また顰蹙を買うだろう」
どうしろっていうんだよ。
「おじいちゃん悪魔さんがここにいると迷惑なんでしょ?みんなに迷惑がかかってるのと人間さんたちに退治に行ってもらうのとどっちがいいの?」
「仕方ないの……そこの人間たち座りなさい」
言われた通り各々座る。だが、爺さんは立ったままだ。
「なんでこの爺さん立ちっぱなしなんだよ」
「おじいちゃん、なんで立ちっぱなしなの?だって」
「見下したいからだ」
ぶん殴って無理やり俺たちより目線を下にしてやろうか。
「ソード君抑えて」
「止めるなアリス。一度頭ぶん殴ったほうがいい感じに矯正されるだろう」
「おじいちゃんいじめないでください〜」
「ほれ、言わんこっちゃない。人間なんて皆野蛮だ」
「この老いぼれが〜。手出しできんのをいいことに……」
「ソードさん。声が漏れてます」
「どうせ聞いちゃいないだろ」
「ごにょごにょ」
エルちゃんが爺さんに耳打ちして、俺たちに向き直る。
「やってみるもんならやってみろだそうです〜」
「表にでやがれジジイ‼︎‼︎」
「どーどー」
俺は牛か何か?そんなんで止まってたまるか、と言いたいところだが、こんなところで問題を起こしても、面倒が積み重なるだけなので、一応みんなの手前、気持ちを鎮めることにする。
「おじいちゃんはともかく、私からお願いできますか?案内しますので」
「エルちゃんが行くことはない」
「おじいちゃんは黙ってて!」
「はい……」
孫娘には敵わないようで。この子がいなかったら、ここで停滞していただろうな。一触即発で、俺が殴りかかっていたことだろう。
「時に勇者といったか」
「あん?」
「勇者といえば、人間からすれば憧れの対象だ。憧れたからといってなれるものでもないのだからな。だが、人間にとってそうでも、ほかの種族にとってその対象とは限らないことを覚えておいて欲しい」
「……わーったよ。とりあえず、俺たちは悪魔の退治といってくる。ああ、特徴とかあれば教えてもらえないか?」
「きっと、行ってみれば分かると思います。案内は私がしますので」
「エルちゃん遊ぼうよー……ミュッ!」
「こっちは遊んでんじゃないの」
「ごめんねフィアちゃん。終わったら一緒に遊ぼう?」
「仕方ないですね。私も一緒に行きましょう」
「どうせ暇なんだろう」
「暇ですけど何か?」
開き直りやがったよ。
まあ、このエルちゃんがいない限り、フィアがここにいる理由もないだろう。ともすれば、俺たちと一緒についてくると言っているのだから、ついてきたいのなら、ついて来ればいい。
「一つ言っておくが、遊びじゃないからな?危なかったら省みずに全力で逃げろ。これは忠告だ」
「そこのちっちゃい子はいいの?」
「あなたに小さい言われたくないんだけど……私だって戦力なんだから!戦わないで物見遊山の気分のあなたと一緒にしないで!」
「わ、悪かったですよぅ。でも、正直あなたたちの力にも純粋に興味があります。戦うわけではないですけど、見させてください」
「それは構わねえけどな……守りきれるかどうかはわからんぞ?」
「イエッサー!」
つくづく、調子のいい妖精のようだ。
確かに、強さを鼓舞してこそ、知名度は上がるのかもしれない。デモンストレーションでもすりゃいいんだろうけど、俺は好かない。好かないとかいうか、単純に面倒。知名度が上がらんわけだ。
好意的に見てくれる奴もいれば、嫌悪感の対象となる奴もいる。
とにかく、あの爺さんにいい人間もいるってことを伝えてやるとしますか。




