鳥籠の姫様(2)
二日分歩いた距離はあっという間に台無しにされ、ウィルザート家が営む店に戻ってきた。
「台無しとはなんだ。台無しとは。ソードが姫の様子をみて行きたいというから、転移魔法を持たないソードの代わりに使ってあげたというのに」
「うん……それは感謝してるんたが……なぜこの世界には自動車なるものが存在しない」
「いや、正確にはあったよ。モンスターがいるから会ったら危険だし、産廃だー、ってことで生産中止。今、残ってるのもほとんどないよ。街の中を移動するぐらい」
徒歩で行けと、ツッコミたくなるが、この街も辟易するほど広い。でも、置いておくような余裕のある土地を持っている人は富裕層にあたるので、数は少ないと思う。実際、俺は使ってるところを見たことがない。
「とりあえず、うち入ろっか」
俺の背中で眠るロロちゃんを見やってそう告げる。
俺も同意し、店の裏側から入らせてもらうことにする。
「ただいまー。ちょっくら入らせてもらうよー」
「お邪魔します」
ウィナの親は店に出ているので、声だけが返ってきた。
「店番がいないからお母さんまで出突っ張りとは。帰ってきたんだし、手伝いしても罰は当たらないよ?」
「だったら先に娘が手伝えと思うのは俺だけなのか?」
「私はロロちゃん見てるから」
「ったく、分かったよ」
店側に回って、中に入る。中々に怪しい薬品類が揃っているが、触れないことにしよう。俺は、ウィナ直々に治療してもらってるし。
「おじさーん。手伝うぜ」
「なんだあ?もう戻ってきたのか?調査は終わったのか?」
「ちょっと、こっちで気になることがあったからな。済んだらすぐに出るよ」
「ゆっくりしてけばいいのによ。実家のほうには顔出さねえのか?」
「出さねえよ。親父がウザイ」
「あいつも嫌われたもんだな」
親父=元勇者で俺を育てた人であるが、恩義を全く感じることができないのは何でだろうか。真っ当な青春を送りたかった。血で血を洗うような血生臭い日常は俺は望んじゃいねえよ。
「ま、店番ぐらいしといてやるよ。他にやることあるだろ?」
「じゃあ、ソードは店の前でも掃除してきてくれ」
「つい先日やったばっかだが……」
「2日やってねえんだ。とっととやってくれ」
俺たちがいなくなってから一度もやってないんかい。
また裏側に回って箒を持ってくる。魔法使いってイメージ的には箒にまたがって空を飛ぶイメージがあったが、現実はそんなことはなく、あれは異常なほどに魔力を消費するらしいので娯楽用のようだ。
箒を手に持って、サッサと地面を払う。
おかしいな。俺は何をしているのだろう?姫に会いに来たはずなのだが、結局ウィナの店の手伝いを無給でやってるし。俺のは慈善事業じゃないやい。
適当なところで手を止めて、店の中に戻る。
「おじさんよ。ちょっと、俺たち城に行ってくるから。また後で戻ってくるから荷物は置かせてもらうぜ」
「仕方ねえな。金払えよ」
「銭無し勇者なんだ。免除してくれ」
「なんで金持ってねえんだよ」
「さあな……」
こっちが聞きたいぐらいだ。旅に出てからというものの、ロクに進んでないし、クエストもやってないから金は一銭も貯まってない。俺の所持金は全てウィナが管理している。前科があるので仕方ない。
ここは普通に働く以外にクエストというシステムで完了すると金がもらえるというのがある。お金以外にもアイテムとかもあるけど、全国の勇者の方々はやってると思います。勇者って俺しか知らないけど。まあ、モンスターを倒す生業をしている人もいるだろう。勇者って銘打ってるけど、言い換えりゃ、剣士でも通るしな。勇者だという証明に王様から戴いた(敬語にしとかないと色々も面倒)腕章をつけている。一応魔除けとかの効果があるとかないとか言われているが、普通にモンスターに襲われていたことを見ると、嘘の効果教えやがったな?本当に証明書みたいなものの効果しかねぇじゃねえか。ちなみにこれをつけてないと、割引とかしてもらえないので毎朝起きた時つ着けている。旅の間は戦闘中も寝てる間もつけてるけど。
「ウィナはどうした?」
「ああ。旅先で一緒になった子がいてさ。疲れて寝ちゃってるから、一緒にいてあげてる」
「へえ。どんなやつだ?」
「年は12歳ぐらいの女の子。可愛いぞ」
「うちの娘よりか?」
「うぃ、ウィナのほうが可愛いかな……」
そう言っておかなければ、きっと俺は殺されるだろう。まったく、なんで親って娘のことになると本気なんだ?たまには息子のことも思い出してあげてください。ウィナに兄弟はいないけど。
「よし、見てくる」
「あ、おい!」
そういや、変身してないから魔王の角が出たままじゃないのか?大丈夫か?
慌てて、俺はウィナの親父を追いかける。
だが、すでに二人の姿はなかった。
「どこに行ったんだ?」
「あんたの気配を察してどこか行ったんじゃね?」
「そんなに俺のことが嫌いかわが娘よ……」
めんどくさい親どもだ。
俺はおじさんを尻目にウィナたちを探しに出た。
店の外に出ると、何やら喧騒が沸き起こっていた。
「探せ探せ!」
「こちらで見なかったか?」
まさか、ロロちゃんが見つかったんじゃ……。
一抹の不安を覚えて、視線をキョロキョロさせている兵士を一人捕まえる。
「何事だ?」
「こ、これは勇者様。いえ、実は姫が城から脱走したようで最近学校に行ってないようでしたから、仔細を聞こうとしたところ、逃げられたようなんです。探すのを手伝ってもらえませんか?」
「…………」
「勇者様?」
「わりーが、パスだ。親父に嫌気が差したんだろ。姫だって年頃の女の子だ。どこか、ふらっと遊びに行っただけだって。晩御飯にもなれば帰ってくるさ」
「そ、そんな悠長なことを」
「ん、あれ姫じゃないか?」
「ど、どこに?」
「あ、見えんくなった。あそこの突き当たり右に曲がってたぜ」
「おい、お前ら!姫は向こうだ!行くぞ‼︎」
ドタバタと景気良く兵士たちは走り去って行った。
忙しい連中だな、ったく。
頭を掻いて、路地裏の影に目を向ける。
「いなくなったぞ。姫」
「ありがとお兄ちゃん」
「あんな、いつも言ってるがお前のお兄さんはちゃんといるだろ」
「それだったら、お兄ちゃんも姫じゃなくてアリスって呼んで」
「さすがに姫をしたの名前で呼ぶのは……」
姫は頬を膨らませて、俺を睨みつける。
「ここじゃ、いつ戻ってくるかも分からんし、俺の家に行くか。二日しか経ってないし、誰も立ち入っちゃいないだろ」
立ち入っても、盗るようなもんは何も置いていないけどな。旅が終わった時に全部押収された。横暴だ。
「そ、そんないきなりなんて………」
「何を考えてるか知らんが、姫が考えてるようなことにはならんぞ」
俺の自宅はウィナの家から徒歩三分程度の場所で、ボロアパートである。だから、なんでこんな待遇が酷いの?
「姫……ボロいが綺麗にはしてるから、遠慮なく入ってくれ。おおよそ、床が抜けたりすることはないと思うから」
「非常に不安です……」
久々の我が家に帰ってきた。鍵、鍵と。だが、回す前にはすでに空いていたみたく鍵の抵抗がなかった。
「ったく、いくらボロアパートだからって不法侵入だぞ……」
文句を垂れながら、ドアを開く。
だが、奥のほうに人影が見えた。逃げないところを見ると特に物取りではないらしい。というより、なんとなく逃げ場所に使ったと見るべきか。
「で、どうやって入ったか説明してもらうかウィナさんよ」
「二年も一緒にいれば合鍵を作る暇はいくらでもあるのですよ。ソードさん」
これよみがしに鍵を見せつけてきた。いつの間に作ってたんだよ。
「ずるいです!私も欲しいです!」
「姫はあったところで使う機会はないだろう」
「あ、姫」
「ウィナさん、お久しぶりです〜」
「お久しぶりです〜じゃないでしょ。学校はどうしたの」
「だって、兄様もウィナさんもいないんですもん。私の安息の地はあそこにはないんです」
「それには同意するけど……護衛でもつければいいじゃない」
「さすがに四六時中私の側にごつい人ばかりいたら、みんなが怖がっちゃうじゃないですか」
「そこがつけいる隙になってると思うんだけど……」
「とにかく、兄様もウィナさんもいないなら学校は行かないです」
「ところで、ウィナ。姫の成績のほどは聞いたことは?」
「トップだって聞いてるけど。実際行かなくても大丈夫だから、無理やり引っ張って行くことも気が引けるんだよね」
さすがに王族は優秀だな。あの、性格と根性がひん曲がった親父から生まれた子供たちとは到底思えない。
「姫、なんで城からも逃げてきたんだ?」
「父上と一緒の空間にいるのが耐えられなくなって……お兄ちゃんもウィナさんと一緒に旅に出たって言うから、あそこにいる理由もないし……」
姫という立場を忘れているとしか思えないのだが。逃げ出したところで行く当てがあるわけでもないのに。
実際、姫は本当に逃げ出してきただけのようで、ドレスのままである。
「どこに行く気だったんだ?」
「う、そ、それは……」
「考えてなかったんだろ?たまたま俺たちが戻ってきたからよかったものの、姫は目立つんだ。どこかで捕まって、城に強制送還がオチだ」
「あう……」
「姫、学校に行きたくないのか?」
「楽しくないもん」
「そうか……俺行ったことないからな。行けるだけで羨ましかったりするが、行きたくないのも理由があるわな。で、姫は何がしたいんだ?」
「わ〜この子可愛い〜」
話を聞けよ。真面目な話してんだから。姫はロロちゃんに気づいて、ほっぺをふにふにさせている。
「どちら様?」
「拾い子。親元に戻すために俺たちと一緒に旅をしている」
「へぇ〜、親はどこに?」
俺とウィナは黙って上を指差す。
「アパートの二階?だから戻ってきたの?じゃあ、早く行こうよ」
「じゃなくてだな。空だ」
「空?あはは、面白いなお兄ちゃん。空に家があるわけじゃないじゃん。えっ、もしかして……その子親がいないの?」
「違う違う。あるだろ、一つだけ空に」
「ラ○ュタ?」
あの雲の中には天空の城があるぜ!
いや、ねえよ。
「今現在も見えてるだろ。魔王城。別名スカイラビリンス」
「へえー。あそこが家なんだー…………って、魔王の子供⁈」
反応が遅い。だが、いい反応だ。リアクションという意味合いで。
「そ、魔王の子供らしい」
自称だから、真偽は定かではないが、わざわざ疑いをかけるほどのことではない。
姫はほー、とか、へー、とかもの珍しそうにロロちゃんを眺めている。
これだけ騒いでてもロロちゃんは目覚めないのだから、寝付きが良すぎだろ。起きてからものの一時間も経たずに寝に入ったぞ。朝に弱いのは本当だったか。
一通り堪能したのか、姫は座り直す。スカートが引っかかって座りにくそうだけど。
「魔王を倒しにまた旅に出たのに、今度は魔王の子供を戻すのに魔王城に行くの?」
「まあそうなっちまうな。この子に罪はないし、弱いし」
「可愛いは正義だね!」
うん。確かにロロちゃんがあからさまにモンスターですって風貌なら一にも二にもなく、倒してただろうからな。確かに可愛いは正義。みんな可愛いものが大好き。
なんで可愛いものって癒されるんだろう。癒し系。俺は時々卑し系と呼ばれる。俺、何かやったかな?
「で、この子はロロちゃんだ。本名、ロロ・アークハルト。魔王とエルフのハーフらしい」
「にへへ……」
よだれ垂れてるぞ、よだれ。幸い、枕元にティッシュがあったので、拭き取ってあげることにする。
「うーん。人にしか見えないね」
「これでも、猫に変身することができるんだぜ。最初会った時は猫だったし」
「へ〜。見てみたいな」
姫は覚えているだろうか。この子が以前に飼っていた猫だということに。ロロちゃんも姫に会えることを楽しみにしてきたんだ。喜んでくれるといいのだが。
ふと、扉が叩かれる音が聞こえる。
「うっせえよ!近所迷惑だ!」
「ソード・ブレイバーだな。姫を誘拐の疑いが出ている。城まで同行を願おう」
「はっ?ちょっ、待てよ。誘拐つうのは同意の上じゃない場合だろ。俺と姫は知り合いだし、俺の家に招き入れただけだ」
「拉致監禁も追加か……とにかくついて来てもらうぞ。姫も一緒に来てください」
「てめぇ!勇者に向かって何言ってやがんだ!」
殴りかかろうとしたところを、腕を掴まれ、関節を極められる。あっという間に動きを封じられてしまった。なんだ?兵士にして動きが……。兵士の皮被ってるだけのように思える。
「どうして連れて行くんですか!ソードは何も悪いことはしてないんでしょ!」
「ウィルザートの子か。真相を知りたければ、城まで来なさい」
「てめえ!離しやがれ!」
「うるさいですね。少し黙っててください」
「がっ!」
頸動脈に一撃を入れられ、意識が遠のいていく。意識が途切れる前に聞こえたのは、姫が謝る声だった。




