ある城の姫が逃げ出したのは、
「結婚をして欲しい」
お父様に言われたときは、
「えぇ。お相手はどちら様で?」
胸をときめかせたものだった。
「私は王妃の遺言に従わなければならない。」
私はお父様がいつもと違うことに気づいた。
「お父様、私はお父様と結婚をするというの?」
***
お母様がなくなったのはいつだっただろうか。
お母様の残した遺言。お母様はお父様に言ったのだ。
「私のような女性以外とは再婚なさらないでください。」
それが最期の言葉だっただろうか。
確かにお母様はとても綺麗な方だった。お父様はお母様以上に美しい方を見つけることはできずじまいだった。
それに、確かに私はお母様に似ていると幼い頃からいろいろな人に言われていた。将来が楽しみだとか、お父様がなぜ自分には似ていないのだと嫉妬されているとか。それでも皆が笑ってくれたので、私は自分の容姿が嫌いだとは思わなかった。お父様は自分と結婚して欲しいと私に言った。ここまで自分の容姿を嫌ったことは今までになかった。お父様はお母様がいなくなったショックでどうかしてしまっているのだ、と自分に言い聞かせ、
「月のドレス、星のドレス、太陽のドレス、それと千種類の動物の皮で作った毛皮のコートを私にくださるのなら、うけいれます。」
次の日、私の前には3つの美しいドレスと様々な動物の皮が使われたコートが差し出された。
信じられなかった。絶対に作れるわけないと思っていたのに。
「明日結婚を発表する。」
お父様は今までに見たことのないほど嬉しそうな笑顔をされた。
私は自分の部屋の暖炉の炭でコートと自分の身なりを汚した。
コートをはおり、3つのドレスを持つと、城の外へ逃げた。