3人の幸せを望む
私はお盆を戸棚の奥へしまいました。
「やぁ、今日はもうお店は終わりかい?」
常連さんの騎士様が裏口から顔を出しました。
あら、えぇ、今日は残念ながら。
「そうか、残念だな。今日は少しおしゃべりをして行ってもいいかな?」
騎士様なら喜んで。
「顔色が悪いようだけど、なにかあったのかい?」
さきほど、軍医様がいらして、ほら、ここに。
私はそう言って、お盆の上のものを見せようとしました。
しかし、お盆の上には何ものっていないのです。
にゃぁ、と足元で猫が鳴きました。裏口から入ってきてしまったようです。
その猫は黒くてよくわかりませんが、少し、血に汚れているように感じました。軍医様たちのお体を食べてしまったの?
「なるほどね。そうだ、いい考えがある。」
騎士様はそう言って、店をあとにしました。
少し経った頃、
「これを代わりにしよう。」
と、騎士様はお盆に
腕と目玉と心臓
をのせました。一体、どこから?
「処刑された死体が集まる場所があるんだ。そこに、全く腐っていない三つの女の亡骸が横たわっていたから、そこから。」
***
次の日、軍医様がいらっしゃいました。
私はお盆にのったそれをお出ししました。
「この薬があればなんだって元通りさ。」
と、瓶に入った何やら怪しい塗り薬のようなものをお出しになり、
それぞれの腕と目玉と心臓に薬を塗り、はめ込みますと、
傷口がわからないほどにふさがってしまったではありませんか。
ある軍医様は手を動かし、
ある軍医様は目を2、3度回し、
ある軍医様は久しぶりに聞く心臓の音を確かめると、
「これで信じただろう。」
お店をあとにしました。
***
僕は本を閉じた。
変わらない物語は良い結末でなければならない。
あの3人は幸せにしているだろうか。