死んだらやってみたい10のコト ③1万円返す
さぁさぁ今回は幽霊君の過去がまた少しばかり見えてきまっせ!!
気持ちいい気持ちいい夢の中随分と寝ている気がする、
こんなに長い間寝ていられるなんて仕事をしていた頃には夢にも思わなかっただろう。
けれど誰かが俺の頬をつついている感触がして徐々に覚醒していく。
「んー、まだ寝みぃよ・・・・・。」
「圭佑起きなさい。いつまで寝てるのよ、このニートが。」
「言っておくが俺はニートじゃなかったぞ・・。立派な社会人だった・・・。」
「過去形ね、現在進行形でいうとニートよ。」
「相変わらずひでぇ扱いだな、天使ちゃん。」
こんな暴言を吐き散らかす天使でも俺こと丸山圭祐が
彼女に救われたのは正真正銘の事実である、不幸な事故で若くして
これから楽しい出来事満載という時に亡くなった俺は
いきなり現れた口悪天使に連れられ天国に直行されると思いきや
彼女の申し出により願い事10コ叶えるまではこの世に留めれることになった。
天使との条件付きの現世暮らしで彼女とのやり取りも慣れてきた今日この頃、
慣れたくはないけど慣れてしまった天使ちゃんとの生活及び俺に対する悪態。
金髪碧眼で背中に大きく白い羽根を生やしている(もちろん本物)少女、
自称天使ちゃんはいつも通り人を見下した態度を取っている。
そして今日も今日とて朝から酷い言われ様だ、さらに
俺は顔の前にある先程頬をつついたものの正体を知って完全に目が覚めた。
「って人の顔を足でつつくな!!」
「あーらごめんなさい、ほら私足が長いから伸ばすと届いちゃうのね。
それにあんたの顔がちょうどそこにあったから。」
西洋人とも東洋人ともとれないそのちょうど中間地点といった顔立ちの
天使は自分の細く真っ白な長い脚をこれ見よがしに俺に見せつけている。
そして天使が足を持ち上げた時ふとして気づいた、
彼女と初めて会った時からずっと裸足だということに。
と、突然キィィと住処としている屋上のドアが開く音が聞こえ俺と天使はそちらに目を向ける。
開いたドアの先からはここで働いているのであろう男女が出てきた。
「なんだなんだ、こんな朝っぱらから。」
姿が視えてないとはいえ物陰に隠れる俺を見て天使は呆れ
身を潜めることなく堂々と二人を眺めていた。
俺も首を伸ばして二人の行動をよくよく見ると女が男に金を渡していた。
「あの男、ヒモね。最低だわ。」
「いやいや決めつけるなよ、ただ借りたお金を返しているだけかもしれないだろ。」
相手の男を勝手にヒモと断言した天使から彼の擁護にまわって発言したときまで
俺はすっかり忘れていたことを思い出した。
「そういえば、あいつに金返してない。」
「何よ、いきなり・・・あいつって?」
「同じ工事現場で働いていたやつ、村上っていうんだ。」
「話が飛躍しすぎてよく分からないわ、工事現場?あんたって何の仕事してたのよ。」
「あ~そう言えば天使ちゃんにほとんど俺のコト話してないか。」
「そうよ、高校行かなかったってことしか聞いてない。」
「重い話を本人の前で軽く言ってのけてしまうところとか
さすが天使ちゃんだなって思うよ。」
「それって褒めているのかしら。まぁここでは追及しないでおいてあげる。
で、何してたの。」
「鳶職人だよ。俺なかなかいい腕してるって親方に褒められていたんだから。」
「あんたの自慢話はどうでもいいからさっさと話を進めなさい。」
「ちぇっ、たまには俺もいいとこ見せたっていいじゃんか。」
「はぁ!?あんたに見せ場なんて数億光年早いのよ。」
・・・俺どんだけ長生きすればいいんだ、ってかすでに死んでるわ。
「で、その村上にいくら借りてるの。」
「1万円。」
「たったの1万のこと気にしてるの!?」
「あいつだって決して生活が楽だったわけじゃない、俺と同じような
生活レベルだったから苦しかったはずだ。なのに、無理して作ってくれて。」
一万という金額に対し笑い飛ばしている天使に向かい
俺は非常に真面目な顔をしてそれがどれだけ大切な金であったかを説く。
「じゃあその1万円何に使ったのよ。」
「・・・妹の結婚式の祝儀。」
「妹の・・。」
「あぁ、これも言ってないよな。俺1コ下に妹がいて芽衣って言うんだ。
俺が言うのもアレだけど優しくて気立てがいいやつなんだよ。
それで風の噂であいつが結婚するって聞いてな、気になってちょっと調べたんだ。」
天使は何やら難しい顔をしながら俺の話に耳を傾け先を促す。
「なんだかんだで妹とは10年以上も会ってないんだ。
あいつに見せる顔なんてないんだけどな、それでも兄貴として
これくらいのことはしてあげたかったんだ。
たった1万でも俺に用意できる金はこれで精一杯でしかも借りた金だけど。」
「まぁ詳しい事情までは聞かないわ、いくら天使でも野暮ってもんだし。
でも今あんたから話を聞いたところじゃ
さしずめ圭佑はメロス、その村上ってやつはセリヌンティウスってとこかしら。」
「走れメロス・・・、天使ちゃん日本文学なんて知っているのか。」
「それなり名作と言われるものはね、ほかにも世界中の芸術作品とか
現代の一般教養とかなら網羅しているわ。」
「けど俺はメロスじゃないよ、メロスは最後に約束を守って戻ってきた。」
「だからこれからメロスになるのよ。」
「今から?」
「それを3つ目の願いにするの。」
「え?」
「彼に借りたお金返したいんでしょ。」
「まぁな。」
「常識を持ち出すと借りたものは返すべきではないかしら。」
天使の言葉に俺はある人物を思い浮かべた、思い出を辿っていくと
最初は嬉々として最後は悲痛な罪の意識に責め苛まされる気持ちになる男。
「あぁ・・・、よし決めた!村上に1万円返す、それが3つ目の願いだ。」
借りたものは返す、受けた恩は必ず返す、そんなことを口癖とし
家訓としていた親父を思い出し俺は天使に次なる願い事を告げた。
「で、どうやって返すの。言っとくけど私金の鋳造なんて出来ないから。」
「まず、働かないとな。金を稼がないと。」
「ええ~そんなのどっかから頂戴しちゃえばいいのに。」
「頂戴って・・・それって盗みかよ!?」
「違うわよ、天使ちゃんがそんなことまかり間違えても言いはしないわ。」
「じゃあどうやって。」
「教会が信徒から集めたお布施の一部を拝受するのよ。
あそこには少々融通が利くからね。きっと大丈夫でしょう。」
「さすが天使ちゃん、天使ちゃんの威光は牧師にも届くんだな。
で、どう言って貰うんだ?」
「はぁ何言ってるの、普通の人間に視えないんだから
黙って持っていくに決まってるでしょ。」
「それを現代日本では強盗と言うんだ!そんなことしたら俺は
天国でなく地獄に行っちまうよ!!」
「あら人間は悪いことしたら地獄へ堕とされると考えているみたいだけど
実際地獄なんてものは無いのよ。」
「えっ!?無いの!?」
「ええ、そうよ。どんな悪いことした人間も皆天国へ行くのよ。」
「羨ましいシステムだな、けどそれじゃあ善人があまりにも不公平な気がするが。」
「神もそこまで甘くないわ、悪人が楽しく極楽生活して何の裁きも
受けないまま転生されたら困るもの。だから天使たちによるこれを受ければ
誰でも善人になれる教示という名の恐ろしい
スパルタ教育を受けさせて悪人を善い人間にするのよ、
これがまた骨が折れる作業らしくね。担当になった天使は会う度に
段々目が吊り上っているのよ、私はまだなったことないけど
これからもならないことを祈るのみだわ。」
天使が祈る姿なんて滅多に拝めないだろう貴重なショットを
俺は高層ビルの屋上で見れるなんて思ってもみなかった。
「けれど盗みしてスパルタ教育受けるの俺だろ!」
「私じゃないからいいの。」
天使の言葉とは思えない悪逆ぶりだ。
「とにかくそれはダメだ!俺は真っ当な人間だ!」
「だからあんた幽霊だって。」
天使は俺の言葉を聞き頬杖とため息をつき間違いを正した。
「コホン、とにかく真っ当な幽霊として窃盗行為は断じて拒否する。
俺が考えてたのはまた天使ちゃんの力で人間にしてもらって短期バイトでもしようかなと。」
「地道ねぇ~、あんたにはお似合いだけど。
けどあんまり私の手を煩わせるようなことはしないでよね。」
「それが天使の言葉かよ。」
「華麗なる天使ちゃん愛の罰!!」
「イッテ!」
謎の技名を叫びながら俺はプロレスでいうドロップキックをくらわされ
背中にジンシンと微妙に痛手を負ってしまった。
「天使の言葉は神の言葉に等しいのよ!なんせ神の代理人ですからね。」
「神よ、何故俺のところに来た代理人が・・・・・」
この外道天使なのかと思わず口にしかけたがこれ以上傷を増やすのは
これからの仕事に支障をきたすかもしれないので何とかして飲み込んだ。
「分かった、なるべく天使ちゃんの手を煩わせないようにするから頼みます。」
「ったくしょうがないわね、ほれ。」
面倒くさそうに人差し指を出すと前回と同じような手順を踏んで俺を人間にしてくれた。
「よーし、早速アルバイト探しだー!ってことで天使ちゃんはここでお留守番よろしく。」
「はぁ!?何でよ?」
「この前みたくついてこられても困る。俺仕事しに行くんだから。」
「探しに行くんでしょう。」
「探して面接して仕事するの。天使ちゃん行ってもつまらないだろ。」
「あんたは私がいないと困るんじゃないの。」
「そんな心配してくれなくても大丈夫だよ。それに言っただろ、天使ちゃんに
手間をかけさせるわけにはいかないから。」
というのは建前で本音は同行するとまたいちいち文句や悪態をつかれるのでは
ないかそれが四六時中続くのもさすがに嫌気がさすというものだ。
「あらやっと天使ちゃんの苦労を理解してきたのかしら。」
「まぁな。少しでも天使ちゃんの仕事は減らしたいし。」
「分かったわ、私は私で初めて日本に来たんだもの。せっかしだし
日本観光するっていうのもいいかもね。」
「そうするべきさ!それがいい、楽しんできなよ。
んじゃここからは別行動ということで。」
俺は天使の考えが変わらないうちに早々と立ち去った。
そんなこんなで天使と分かれ街に繰り出した俺は
とりあえずコンビニに入ってバイト情報誌を立ち読みすることにした。
いらっしゃいませという店員のけだるい挨拶を耳にしながら
雑誌がズラリとならんである棚から目当ての本を探しあてた。
「にしても短期で割のいいバイトってなるとやっぱり体使うやつだよな。」
「それって大変じゃない。」
「いや、もとよりそのつもりだから別にいいんだが問題は身分を証明するような
物を何一つ持ってないということなんだよな。」
「そんなの簡単よ。」
ふと横を見ると女子高に潜入した時に変装した姿の天使ちゃんが
俺の見ている雑誌に顔を覗かせている。
「てっ天使ちゃ、フガッ。」
思わず大声を出してしまいそうになった俺は口の中に天使の拳を詰め込まれ
彼女は俺をギロリと一睨みした。
「こんなところで天使ちゃんなんて大声で言ってみなさい。
頭イカれた変人ニートだと思われるわよ。」
天使は小声で極めて正論を述べついでに一言多かった。
「何でここにいるんだ?観光しにいったんじゃなかったのか。」
「最初はそのつもりだったんだけど、やっぱり圭佑一人じゃ何かと心配でね。
私の力が必要なときいなかったら困るでしょう。
それで親心ならぬ天使心でわざわざ来てやったのよ。
実際今ここで困ってたじゃない、よかったわね。
天使ちゃんが気遣いが出来る天使ちゃんで。感謝なさい。」
「いや、でも・・・。」
「厚意には素直に甘えるべきよ。」
つい30分程前に別れたはずなのにまたもや不幸にも再会してしまった。
俺は自称厚意というものを仕方なく受け天使ちゃんと連れ立って
一つ目のバイト候補先に行くことになった。
道中、目をキラキラと輝かせながら辺りをくるくると眺めまわる
天使ちゃんはどうやら下界にあるものに興味津々らしい。
普段は傲岸不遜とした態度を取るくせに今の天使は180度違うではないか。
おまけに今日の彼女は以前の制服姿ではなく今どきの女子らしい
水色の生地に花柄がプリントされたワンピースにヒールの低い白い
パンプスを履いた愛らしい姿で横に並んで歩いているもんだから
ドキドキしっぱなしである。
当然こんなことが天使ちゃんに知れたらまた馬鹿にされてしまうので
絶対言わないのである。
「で、どこなの?」
「へ?」
「アルバイト先ってどこなのよ。」
「それはあぁ、ここだよ。」
天使に見惚れた上にいきなり話しかけられどきまぎしている
俺をジト目で見る天使から急いで話を続けようとした時
ちょうど目的地へ着いたため話はここで中断した。
「ここ?」
「土工スタッフのバイト募集してたんだ。日給1万円以上。
軽い面接だけでそのまま働けるなんて都合のいいバイトがあったもんだ。」
天使が目を向けると数人の男たちが目に入った。
鉄骨を肩に抱え精を出し黙々と作業を進めている。
「あれ何してるの?」
「アパートの補修工事だよ。で、さっきの話なんだけど身分を明らかにする者が
ない俺はどうすればいいんだ?まさか身分証も天使ちゃんの力で作れるのか。」
「そんな魔法少女みたいなこと出来るわけないでしょ。
天使ちゃんの力を履き違えてもらっちゃ困るわね。」
「じゃあどうするんだよ。」
「ふん、この天使ちゃんを甘くみるんじゃないわよ。
何のためにここまで来たと思ってるの。さっ行くわよ。」
「えっ!?おいおい!」
天使の策が不明のまま腕を掴まれずんずんと中へ入っていく。
「すいませーん!この中で一番偉い方どなたですかー?」
いきなりの闖入者の来訪に作業を進める手を次々と止めていく作業員たち、
変に目立ってしまいここでのバイトが落ちてしまったらどうするつもりなのだろうか。
「・・・責任者は私だが。」
天使の問いかけに応答したのは昔ながらの大工といった黒い服に
身を包み顎鬚を蓄えた厳格そうな壮年の男性であった。
俺と天使を交互に見てはしきりに小難しい顔をしている。
「お願いです!兄を、兄をどうかここで雇ってください。」
現場責任者を捕まえて何を言い出すかと思いきやいきなり俺のことを兄などと言い始めた。
「おい、何言ってウッ・・・。」
「事情を説明すると長くなりますがここはあえて手短にお話しさせていただきます。
先日不幸にも両親を亡くし頼る親戚もおらず兄妹二人路頭に迷っていると
突然現れた占い師から今日この場所に来ればきっと私たちを導いてくれる方が現れると
予言を授かりました。きっと神の思し召しなのでしょう。
その方は黒き衣を纏いて白き顎鬚を蓄えていると・・・そう貴方のことです。
聞くところによると今ここでは新たな働き手を募っていると、
私も働きたいのは山々ですが残念ながら体が弱くて・・・そのせいで
兄に多大なる迷惑をかけてましてですからどうしてもここで兄を働かせてほしいのです。
一日だけで構いません、どうか、どうか・・・。」
俺に有無を言わせる前に天使の裏拳がみぞおちにクリーンヒットし
喋りたくても喋れない文字通り言葉も出ない状態になった。
「・・・何か身分を証明するものは。」
「いえ、それが身一つでここまで来たものですから。」
返答を聞くと一層難しい顔をして腕を組みそのまま動かなくなってしまった。
やはり見ず知らずの人間を雇うなんてことは有り得ないだろう。
まさか天使の作戦がこんなチープなもんだったとは俺は怒りを通り越して呆れてしまった。
「・・・いいだろう、では向こうに作業着があるからすぐ着替えてくれ。
作業手順の説明はそれからだ。」
「えっ?あのそれって・・・・・。」
それだけさっさと言うと背を向けてどこかへ行こうとしてたので
俺は思わず呼び止めてしまった。
「ここで働きたいんだろ。四の五の言わずにさっさと着替えろ。」
「あっはい!」
まさかのOKに俺は天使がやはり力を使ってあの親方らしき人物を操っているのではないかと
訝しんだが俺の考えを察したのか思いっきり足を踏みつけそれが間違いであることを暴力で表した。
そんなこんなで天使の計らいにより一時的ではあるが俺は脱ニート宣言をした。
「全ては天使ちゃんの思惑通りってとこかしら。じゃっ、しっかり働きなさい。」
それだけ言うと天使は木陰に移動しそのまま腰を下ろしてこちらに向かってにっこりと手を振った。
どうやら俺が汗かいて仕事している間優雅に見学するようだ。
「おい、済んだんなら早くこっちに来い。ちんたらするな。」
「すっすいません。」
「お前、名前は。それぐらい聞いていないと色々と問題が起きてくるからな。」
「あっはい、自分は丸山圭佑。26才、とにかく一生懸命働かせてもらます。」
そして俺は久方ぶりの仕事へと日がな一日中働きつめた。
―――日も暮れて太陽が地平線へ半分姿を消した頃俺らの仕事もようやく終了した。
やはり久しぶりに体を動かすとあちこちが痛む、と思いきや全くそんな気配もなく
まるであの頃に戻ったように楽しい時間だった。
「丸山。」
名前を呼ばれ振り返るとあの厳つい顔した親方が封筒をずいと
何も言わずに差し出してきた。
「えっと・・・。」
「今日分の金だ、受け取れ。」
「ありがとうございます。」
それが給料だと知ると素直に受け取る、すると袋の厚みが一万円という薄い札
一枚や二枚入っているという割にはわずかに厚いのに俺は気付いた。
親方の前で無礼だが急いで中身を確認すると今日一日働いただけでは稼げない
ような金額が封筒には入っていた。
「あの、これは一体・・・・・。」
「妹さんと二人で生きていかにゃいけんのだろ、それくらいの金は無くちゃ
この先大変だろうが。」
彼の背中越しの話から金額の多い分は彼の慈悲の心だということだ、
俺たち兄妹が数日間でも困らないようにという心配りだろう。
だがそれは天使が吐いた真っ赤な嘘であり一万さえあれば十分なのだ。
「こんなに貰えません。」
「いいから貰っとけ、金はあって損はしねぇだろ。」
夕暮れの太陽を背に振り向いた親方の顔はよく見えなかったが、
多分きっと眉間の皺が少し薄くなっていたような気がした。
「――で、結局そのまま貰ってきたのね。」
「俺たちのコト思ってのことだったし、それでも返すって言い続けたら
いい加減にしろって怒られるわ。だったらいっそのこと貰っちまおうってな。」
「ちゃっかりしてるわね。」
「でもこれで―――――。」
「ようやく村上にお金返せるわね。やったじゃない。」
自分の成果を眺め喜びに浸っていると天使が横から口を出してきた。
「まぁそれもあるけどな。」
「何?ほかに何かあんの。」
「じゃあ早速村上に金を返しに行くぞ!」
「あっ!コラー話逸らすなー!」
村上のアパートにたどり着くと部屋に明かりが灯っており家人がいることを知らせた。
俺はアパートに設置されている部屋ごとのポストに一万円が入った封筒を投函し
奴がいるであろう部屋をチラリと目を移しそのまま去ることにした。
「ちょっと、手紙とかいれたりしないの。」
「そんなことしたら俺死んでるのに変だろう。
別に俺は借りた金返したかっただけだしこれでいいんだよ。」
「まぁあんたがそれでいいって言うなら構わないけど。
仲良かった奴なんでしょ、少しくらい会いたいって思わないの?
霊体になって部屋に入ることだって出来るのよ。」
「いいって、これで満足さ。」
それでも天使は納得していない顔だが、こいつ案外おせっかいの世話焼きなのか
面倒くさいとか言いつつも結局要らんところで首つっこんでくるし。
「ありがとうお節介天使ちゃん。イテッ」
「語弊を生じたようだから直してあげるわ。
お節介ではなくて思いやりよ、好意よ、親切よ。」
「はいはい、とにかくありがとうな。」
殴られ無理やり言い直されても彼女の世話焼き・・・、
いや親切は事実なので彼女はやはり腐っても天使なのだなと思ってしまう。
と、村上に一万円返したことに安堵してもう一つやろうとしたことを
うっかり忘れてしまうところであった。
「あー天使ちゃん?俺用事思い出したんだけど一緒にアーケード街行かない?」
「はぁ?用事って死んだあんたに何の用事があるっていうのよ。」
「えっ、いやー色々とね・・・。」
「・・・怪しい。」
怪訝な目で俺を見る天使は明らかに俺の不審な言動を怪しんでいる。
「・・・ダメ?」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・お願いします。」
「・・・・・どうしても?」
「どうしても!!」
「ったく仕方がないわね、じゃあその用事チャッチャッと済ませて帰るわよ。」
そんなこんなで俺はお節介で甘い天使と共に夜のアーケード街へと向かった。
アーケードの入り口に来ると俺は天使に回れ右して面と合わせた。
「すぐ戻ってくるからここで待ってて、じゃあ!!」
「ちょっ、圭佑!!」
天使が何か言う前に俺は猛ダッシュで人ごみの中へと紛れて消えた。
一緒に行っても良かったんだがやっぱりサプライズの方が
こっちの嬉しさが倍増するからな、そんなことを考えながら
俺は目当ての店へと急いだ。
10分くらい経過して俺は息を切らしながら天使のいる場所へ戻ってきた。
「ごめん、お待たせ。」
「天使ちゃんを待たせるなんてどういう領分してるんだか。」
「ごめん、ごめん。さぁ帰ろうか。」
「ちょっと待ちなさい。」
先を歩こうとする俺を天使は制止させた。
「それ、何よ。」
天使が指差した先は俺が持つ黒い紙袋だった。
「ん?それは帰ってからのお楽しみだよ。」
「はぁ?」
「さぁ帰ろう帰ろう。」
困惑したままの天使を連れ幽霊と天使の姿に戻りいつもの住処に
戻ると待ってましたとばかりに俺は天使へ例の紙袋を渡した。
「私に?」
「そう。とにかく開けてみてくれよ。」
まさか自分に贈られるとは思っていなかったのか驚く天使は
紙袋から箱を取り出し開封した。
「靴?」
箱の中から天使の手の中へと移動した白い靴は月光にてらされ
キラキラと眩い光を放っているかのようである。
「余ったお金で買ったんだ。
天使ちゃん、この姿の時裸足だろう。俺も見えない幽霊のくせに
靴履いているのに天使ちゃんが裸足っていうのはな・・・。」
「圭佑・・・あんた・・・。」
とうとう天使ちゃんの口から感謝を述べられるのかと身構える。
ついに散々人を罵倒し続けてきた天使を平伏させられるのだと嬉々としてその時を待った。
「あんたバッカじゃないの。」
だが、それは思っていた言葉とは真逆であった。
「ば、か?ありがとうじゃなくて?」
「あんたね~、天使っていうのは裸足が鉄則なの。
この金髪に青い目、で白い服に裸足。この姿で業務を行うの。
こんな現代の靴履いた天使見たことないでしょう。」
「た、確かに。」
「つまりあんたのしたことはただの金の無駄遣いで終わったってわけね。」
「なんだ~。」
俺は心底がっくりしてしまった。
意気消沈している俺を見てさすがに気の毒に思ったのか天使は労いの言葉をかけてくる。
「・・まぁあんたの気持ちはもらっとくわ。」
「で、」
「でって?」
「その次の言葉は?」
「言葉?」
「だから、ありがぶひへっ!!」
「調子に乗るな!そういうのは言わせるもんじゃない!ありがとう!」
頭を殴られたショックでよく聞こえなかったが天使から礼を言われた気がしたが
きっとそれは俺の幻聴であろう。
「あーあー、なーんか今回私あんたに手の平で踊らされたような気がする。」
「別に躍らしたりはしてないけど、そんな気持ちにさせられたんなら一矢報いたって感じだな。」
「む、天使にそんなことするなんていつか天罰が下るんだから。」
というか天使本人がいっつも天罰を下すんだがな。
「―――それで妹の結婚式はどうだったの?」
「え?」
「妹の結婚式の話。どんなんだったのか気になって。」
まさかこの話に展開するなんて思いもよらなかったので
俺は突然のことで口ごもってしまった。
「何よ、なんか結婚式であったの。」
「いやー、お恥ずかしいことに金だけ置いて帰って来たんだ。」
あーあ、こんなこと天使に言うなんて一生の恥かも、
というか一生も何も終わっているから一死の恥?とでもいうのか。
「・・・あんた本当に馬鹿。そんなんだから死んじゃうのよ。」
また言葉やら足やら手で叩きのめされるのかと思ったらポツリとただ一言
そう漏らしただけであった。
それから天使はしばらく夜の闇を照らす月を眺めるばかりであった。
そんなこんなで俺が無事成仏するまで残り7コ。