朝の一場面
なんとなく書いたもので、とくに深い話ではありません。これを話の始まりに連載を書いてゆくかもしれない(まったく未定)。読んで下さったら感想をできればお願いします。
とりあえず、空が青いなとか思ったりした。
なんの前触れもなく突然こんなことを思うなんて、平和ボケの境地にでも達してしまったのかと自分自身に苦笑してしまう。春の陽光に晒されて頭の中身までが春になってしまったのか、はたまた無気力の極致についにはたどり着いてしまったのであろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
どちらかといえば後者かな。
そんなくだらないことを考えながら学校への道のりをなぞる。
四月にして高校三年生最初の登校日。桜も咲き乱れ、なにか始まりを想わせるような季節。こんなすばらしき日はやはり爽快に一日を過ごしたいと考えるのは至極当然であり、今それが叶わぬ夢、追憶となってしまったことはまことに残念でならない。そうなってしまったのには一万五七メートルを誇るミンダナオ海溝くらい深い訳があるのだ。なんというか、惰眠を貪るというか、春眠暁を覚えずというか、そんな人間の性でどうにもならない深い理由があるのだ。ようは登校初日から遅刻。どうすれば睡眠欲に打ち克つことができようか! いや、できないッ! それは俺が人間であるが故仕方のないことであろう。
――――――。
どうせ遅刻するなら普通に遅刻するよりもエンターテインメント性を重視した遅刻をしたいものである。まあ、こんなくだらないことを考えているのは俺がまだ社会に出ていない子供だからであり、けっして常識が欠落していそうな危ぶまれている連中と同類というわけではない。楽しければ良いッ!! 典型的な刹那主義者というところだろう。
―――さて、どうしたものか。
いくつかの候補は出たものの、いかんせん頭のいい方ではないのでどれも一発で学校からつまみ出されそうなものである。一年生の入学式に乱入して我が校に対する熱い思念を開陳するとか、
・・・・・・何故だか哀しい。確かに俺が馬鹿で少しばかり酔狂なところがあるのは自覚していたが、さすがにここまでとは・・・・・・。
「フハハハハハッ!!」
自然と自嘲してしまった。どうやら俺の頭の中には春の野原がどこまでも広がっているようだ。フッ、通りすがりの主婦が熱い視線を俺に送っているぜ。惚れるなよ。
「馬鹿かお前は・・・・・・」
あぁ、何処からともなく、天使の冷めたツッコミが聞こえるようだ。この声は、も、もしやッ!?
「ガ、ガブリエル様ですか!? この救われない私に第二のキリストを授けにきたのでは!?」
「男だろ、お前は・・・・・・」
「よー、田所さん」
ここは冷静にことを進めなければ。
「佐藤だ!」
「まあその有り触れた姓は捨てたまえ、五所川原さん」
左衛門尉公清さん、全世界の佐藤さんに深く御詫び申し上げます。ちなみに左衛門尉公清さんとは最初に佐藤と名のった人である。
「お前にはどうしてもついていけないよ」
そんな落胆するなよ、俺はいつでもお前の味方だぞ。世界が敵になっても、俺は―――――。
「・・・・・・黙ったままその憂いに満ちた眼差しを向けないでくれ」
奇異の視線を向けられているがいつものことなので気にしないでおこう。いちいち気にしていたら今頃は廃人と化し社会の情勢を暗い部屋の液晶画面という四角い窓から傍観していたことだろう。いや、うちにはパソコンたる高尚機器はなかった気がする・・・・・・。まずはパソコンから揃えなければ、
「ふむ、やはりノートよりデスクトップの方がいいよな?」
「ところでなんでお前がここにいるんだよ」
無視された。
「人に訊く前に自分から名乗れ」
「佐藤だ」
「・・・・・・・・・・・・」
そろそろ話の内容が支離滅裂になってきたので学校へ向かおう。
「お前がめちゃくちゃにしたんだろうが」
――――――どうやら声に出してしまったらしい。この年にして更年期障害などと診断されたら人生ほっぽり出して麻薬でトリップしてやる。「お父さん、お母さん、僕はもうダメです。翼で身体を覆った天子様が迎えにきたようです」みたいな遺書はあまり書きたくないのだが。
「まぁあれだ。まだ意識が深い闇に沈んでいたんだが、ふと外の喧騒に引き揚げられて重い瞼をこじ開けたんだよ。不思議に思い窓のカーテンを開けると、何故か太陽が時間にそぐわない南中高度にあるわけだ。そこで思考に思考を重ねこの怪奇現象の謎に迫ったん――――――」
「遅刻か」
「・・・・・・・・・・・・」
懇切丁寧に説明しているのに話の腰をへし折らないでほしい。
「俺も同じようなもんだしな」
どうやら五所川原さんも遅刻中らしい。学校でマジメな部類に入っている五所川原さんにしては珍しいこともあるものだな。
「――――――あれだな」
「ん? どうした」
訊かれたら言うしかないであろう。
「・・・・・・・・・・・・」
「同病相哀れむ」
――――――数秒の沈黙、
そして――――――
「病院行ってこい。先生には俺から言っといてやるよ」