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真実の愛を貫くために私とは白い結婚にしたいそうですが、こちらには何のメリットもないので婚約を破棄させていただきます。異論は認めませんっ!

掲載日:2026/03/21

 ハクモクレンの花は白くて大きいが、散り方はボトリとしていて馬鹿っぽい。

 シーラ・ベルモン伯爵令嬢は金色の髪を春風が撫でていくのを感じながら、その青い瞳を窓の外から正面に座る婚約者へと戻した。

 婚約者であるアントニオが馬鹿なことを言いだしたからだ。


「僕はカロリーナを愛しているっ。真実の愛を貫くために、君とは白い結婚にしたいっ」

 

 金髪碧眼の見目麗しいアントニオは、思考が残念な男だった。

 シーラは溜息をひとつ吐くとキッパリと言った。

 

「却下します」

「なぜだ⁉」


 食い下がるアントニオに、シーラはピシャリという。

 

「こちらには何のメリットもありませんもの」


 だがアントニオは諦めない。

 

「メリットならあるだろう⁉ この美しい僕を、当主として迎えることができるのだぞ」


 アントニオは胸を張った。

 男性にしては少々薄い胸板だが、金色の髪は艶やかで顔立ちは整っており、美しい青い瞳をしている。

 貴族にとって美しい見た目は武器のひとつだ。

 だからといって、それだけで押し切れるものでもない。

 

「当主は見た目で務まるモノではありません。それに白い結婚では、後継ぎができないではありませんか」

「僕とカロリーナの間にできた子を据えればいいじゃないか」

「却下ですっ!」


 シーラは眉をキッと釣り上げて怒りのこもった視線をアントニオに向けた。

 彼は全く動じない様子で、しれっと紅茶をすすっている。

 事態の深刻さを全くわかっていない。


「とにかく何から何までありえないので、婚約を破棄させていただきます」

「えっ⁉」


 シーラの言葉に、アントニオは心の底から驚いているようだ。


「そちら有責での婚約破棄ですから、慰謝料もしっかり請求させていただきますからねっ」

「ええっ⁉」


 アントニオは慰謝料といわれて青ざめた。

 シーラは冷たく言い放つ。

 

「私という婚約者がありながら、他の令嬢に入れあげるなど言語道断。慰謝料のことは、婚約時に交わした契約書にもしっかり書いてあります」

「えっ? だって浮気禁止は女性側だけでしょ?」

「それは嫁入りした場合です。婿入りの場合、男性が外で子どもを作ったらややこしいことになるじゃありませんか」


 シーラに言われて、アントニオは首をかしげている。

 本気で分かっていないようだ。

 シーラは頭が痛くなった。

 

「とにかく異論は認めませんっ!」

「そんなぁ~」


 自分にとって不利な事態を招いたことだけは理解したアントニオは、シーラの足元に縋りついた。


「冷たいこと言わないでよ、シーラ」


 面倒なことになったので、もっと面倒なことになる前にとシーラは執事を呼びつける。

 

「ダミアン」

「はい、お嬢さま」


 忠実な黒髪の執事はシーラの声に答えて音もたてずに素早く近付いて、アントニオを器用に避けながら主の足元にひざまずいた。

 

「このゴミを捨ててちょうだい」

「かしこまりました」


 執事のダミアンはスッと立ち上がって丁寧に礼をとると、アントニオをシーラの足元からひっぺがし、ドアの前に立っていた衛兵にポイッと渡した。


「はぁ~」


 シーラはテーブルの上へ両腕を投げ出して、顔をうつぶせて溜息を吐いた。


「なぜ毎回、毎回、私の婚約者は馬鹿ばっかなの?」


 そうなのだ。

 シーラが婚約破棄したのは今回が初めてではない。


 伯爵家の跡取り娘であるシーラは婿を必要としていた。


 ところが王国の貴族社会は男社会だ。

 

 男性側からしたら、婿になると格が下がってしまうため、なり手が少ない。


 よって婿取りの場合には、優秀な人材を得にくいという事情がある。


 伯爵家と釣り合いのとれる伯爵家の令息を、となるとさらに難しい。


「はぁ~。普通でいいんだけどなぁ~。普通でぇ~」


 シーラは切実に願った。


 屋敷にやってくる男たちは、どいつもこいつも馬鹿っぽくて香ばしい。

 

「ふふふ。お嬢さま。次の婚約者が決まらなかったら子どもの頃の約束通り、わたしと結婚しませんか?」

 

 忠実な黒髪の執事、ダミアンがシーラを見て笑っている。


「子どもの言うことを真に受けないで。私、3歳だったんだから」

 

 シーラは3歳児のような拗ねた声をだすと、更に執事は声を立てて笑った。

 

 彼は賢いが、腹の中は真っ黒だ。


「わたしの実家は一応、伯爵家ですからね。釣り合いは取れますよ」

「ハイハイ。そうね。次もダメだったらね」

 

 シーラの婚約者たちは馬鹿ばかり。

 小さな頃のプロポーズが、呪いのように効いている。


 クスクス笑う執事の声を聞きながら、シーラは窓の外で咲いているハクモクレンの花を眺めた。

 

 ~ HappyEnd ~

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