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6.突然の嫁入り

「お前、異能者か!」

「だったら、なんだ」


 久我家は屈指の異能者嫌い。久我家と同等の地位を得ている皇家を前に、やや怯んでいた勝吾だが、相手が異能者だと分かると途端に大きな態度に出た。


「異能者なんぞ滅びの一途をたどっているのに、名家だと? どうやって名家になった、どんな汚い手を使った。さては金か?」

「……」


 どれほど攻撃的な言葉をぶつけられようと、ナギは微動だにしなかった。ただ黙って、勝吾の話を聞いている。


「ふん、黙りっぱなしか。さすが『だまり屋』だな。しかもその容姿……異能者は生まれつき顔が良くて人が寄って来るのではなかったか? 整っていない長すぎる髪に、合っていない着流し。名家といえ、皇家の程度が知れる」


 尚も反論してこないナギに気をよくしたらしい。続けて勝吾は畳みかける。


「お前が今まで姿を隠していた理由が分かったぞ。名家としても異能者としても中途半端だからだ。人間でも異能者でもない、まがいものめ!」


 すると勝吾の勢いに負けじと、冴も声を大にして主張する。


「そうよ、この方が皇家の方であるはずがないわ! うそつき者!」

「だ、旦那さま 冴さま……!」


 その言葉は心結の心にひどく刺さった。自分が言われたわけではないのに心が痛い。全ては、自分がココにいるせいで巻き込んでしまったのだ。皇家を、ナギを――


「皇ナギ様、申し訳ありません……!」


 心結は謝罪するしか出来ることがなかった。それが今の自分に出来る唯一のことだ。ナギの腕の中で小さくなり、身を震わせる。反対に上から降って来るナギの声は、力強かった。


「顔を上げろ」

「ですが……」


 申し訳がたたなくて動けないでいると、背中を支えるナギの手が心結の細い顎をつかむ。そして強引に上を向かせた。


「人に頭を下げる時は非がある時だけだ。無駄に自分を安売りするな。それに、お前はもう皇家の人間だ。俺の妻になった以上、俺の地位を落とす行動は許さない」

「!」


 ナギの言う通りだ。自分の行動はナギの人柄を図る物差しになると、ようやく気付く。そんなことさえ分からないとは情けないと、心結はたまらず目を伏せた。


「申し訳ありませんでした……いえ。これから、よろしくお願いいたします」


 最後に、抱かれたままお辞儀をする。すると下げた鼻に、ナギの着流しが当たった。見ただけでは何も思わなかったが、この感触、かなり上等の物だ。勝吾が着ている物より、ずっと。ナギは本当に皇家の者だと、そう認めるしかない。


(どうしよう、私が皇家に嫁入りなんて……)


 前は久我家、今回は皇家。財力・権力を兼ね備えた上位の名家の嫁に、心結は順番に嫁ぐことになる。皇家にないがしろにされた勝吾が、憂さ晴らしに自分の悪名をこれでもかと流すだろう。離婚した理由も「心結が不貞を働いた」と罪をなすりつけるかもしれない。


(それでも……久我家に戻るよりは……)


 あの地獄よりも地獄な場所は、きっと存在しない。一途の希望を残した心結は勝吾たちを見ることなく、ナギに抱かれたまま店の奥へ姿を消した。


  ❀

 

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