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3.久我家と異能者

 久我家は一、二を争う名家であり資産家だ。当主である義正および次期当主の勝吾は、肩書きに胡坐をかいて我が物顔で街を闊歩する日々。気に食わない店は土地ごと買収し、数えきれないほどの商人を路頭に迷わせた。


 やることなすこと冷酷で過激だと世間から恐れられている反面、名家であるが故に敵には回せない。久我家を見ては、誰もが取り繕った笑みを浮かべこびへつらった。「江戸時代の徳川家、大正時代の久我家」と揶揄されるほどに。


 しかし、時代に名を刻む久我家にも苦手なものがあった。それは異能者だ。妖怪を討伐するため、生まれながらに能力を備えている人間。異能者。見た目はただの人だが異能者は総じて美男美女であり、いつの時代も人気があった。名家だ、良家だ、とそんな肩書きがなくとも異能者は無条件に人々から愛されてきたのだ。


 しかし異能者を良く思わない人間もいる。自分の家よりも人気が出ることを嫌う久我家だ。名家で資産家であることを誇りに思い肩書に固執する久我家は、無条件に愛される異能者そのものを憎み続けている。


 けれど十九年前、突如として風向きが変わった。


 まだ心結が生まれたばかりの頃、この世の妖怪は一匹残らずして異能者が滅ぼした。その戦いは激しいもので、妖怪を滅ぼした代わりに多くの異能者も命を落としたと聞く。それから異能者の数は激減。以前は街を歩けば人間と同じくらいの異能者がいたが、今では見つけようと思っても難しいほどだ。


 そうなると大きな顔をするのが久我家だ。「やはり顔ではなく肩書きが物を言う」と、異能者を慕っていた名家と次々に縁切りをした。周りの名家よりも頭一つ飛びぬけて有名な久我家だからこそ出来る意趣返し。孤立無援になったとて、所詮は財力が物を言う世界では久我家は頂点に立っていた。


 こうなると久我家を誰も止められない。久我家に逆らう者はいなくなり、皆があべこべのように頷き、久我家を持ち上げた。心結の両親、花本家も、まさにあべこべだった。財政難により名家の地位から落ちぶれた花本家は、政略結婚しか手がなく絶体絶命。


 しかし幸運なことに、心結はそこらの美女と比較してもたいそう顔が良かった。この顔だと天下の久我家も相手をしてくれるのでは?と、心結の両親は推測する。その結果、花本家の目論見どおり久我家は心結を嫁にとることを決めた。しかし花本家に目論見があったように、久我家にも了承した理由があったのだと、心結は遅れて知る。


 顔のいい心結を嫁にとり、顔のいい跡継ぎを産ませる。顔と権力と財力。この三拍子が揃えば、異能者よりも優位に立てること間違いなしだ――いつか義正が勝吾に話しているのを、心結は聞いた。そして愕然とした。


 つまり自分は顔のいい跡継ぎを設けるためだけに選ばれたのだと。久我家の浅い優越感を満たすためだけに、毎日虐げられているのだと。桶の水面に涙が落ちる。すると水面が歪んだ。しばらくすると元通りになった自分の顔を見て、心結は諦めたように目を伏せる。


(いっそ顔に火傷の痕が出来たら良かった。そうすれば私は用済みなのに……)


 器量が良い、という理由だけで久我家に迎えられたのであれば、それを失くしてしまえばいい。久我家に嫁いでから、何度となく思っていることだ。しかし期待とは裏腹に、いたるところに傷が出来ようともすぐ治ってしまう。今回の火傷も然りだ。


(……戻ろう。冴様とお出かけなら、暗い服を選ばなきゃ)


 以前、勝吾から「冴より目立つ格好をするな」と言われた。それ以来、心結が着る物と言えば浴衣のような薄い生地の紬。色も、紺や灰といった暗色だ。勝吾が「これでも着ておけ」と渡してきた、どこで拾ったか分からない古い服。それをお出かけ用として着ている。


 廊下で使用人たちが忙しなく行き来している。きっと勝吾の出かける準備をしているのだ。髪を乾かす時間はない。濡れた髪がバレないよう、急いで一つにまとめる。拭いきれない水滴が、叩くように勢いよく心結の頬へ落ちた。


  ❀

 

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