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22.変わりつつある夫婦の形、友の憂い

 

「心結ちゃん、あなた磨けば光る、なんてものじゃないわ」

「磨けば光る……宝石の話、でしょうか?」

「違うわ。誰かの宝物の話よ、ふふ」


 満面の笑みを浮かべたリリーに頭を撫でられる。真意はよくわからなかったが、リリーが笑ってくれることが嬉しかった。リリーの期待に応えられた思うと、僅かに自信がつく。


「リリーさん、ありがとうございました」


 化粧をしてもらったお礼を丁寧に述べた後、ナギがいる方向へ振り向いた。三つ指を揃え、静かに頭を下げる。


「どうした」

「こちらの着物、ありがとうございました。後生大事に使います」

「……あぁ」

「旦那さま?」


 どこか気まずそうに視線を逸らすナギ。なにか粗相をしたかと心結が焦ると……


「着物も化粧も、よく似合っている」

「!」


 まさか、そんな事を言ってくれるとは。予想していなかった言葉に、心結の顔がポッと熱を帯びる。


「ありがとう、ございます……っ」


 ナギの「似合っている」という言葉は、もしかしたら建前かもしれない。だけど心結は、素直に嬉しかった。初めて自分が〝ナギの隣へ立つにふさわしい女性〟になれた気がしたからだ。


(もしかしたら私は、自分が思っているほど駄目ではないのかもしれない)


 前向きに捉えると、自然と顔が前を向く。これがナギの言っていた「心が美しくなる」という事だろうか。


 久我家によって砕かれた自分の心を、心結は少し取り返せた気がした。


「……そろそろ行くぞ」

「はい、旦那さま」


 藍色の外行き用の和服をまとうナギは、先に車へ乗り込む。……いや、乗り込もうとしてやめた。


 突き出した足を、元の場所へ引っ込める。心結を優先するために。


「心結、先に乗れ」

「え、でも……」

「ここへ足をかければいい」


 車への乗り方が分からないと思ったのか、ナギは視線で教えた。そこまでされると断るわけにもいかず、心結は先に乗り込む。


「あらあら」


 そんな様子を見て、リリーは笑みを浮かべた。利害の一致と風の噂で聞いたけど、もうどこからどう見ても夫婦そのものだからだ。


 別れの挨拶を交わした後。リリーは、だまり屋から遠のく車を見送る。すると突如として声が聞こえた。


「どう思う、リリー?」


 ヒスイだ。だまり屋の壁に、背を預けて腕を組んでいる。どうやら店の外に控えていたらしい。顔に「待ちくたびれた」と書いてある。


「心結ちゃん、かなりいい子だと思うわ。ナギは気づいていないけど、だいぶ心を許しているわよ」

「二人の結婚を認めるんやな?」

「認めるも何も、既に夫婦じゃない」


 リリーの尤もな言い分に、ヒスイの眉尻が跳ね上がる。


「あやかしがおらんなって、異能者の数は激減した。力も弱くなっとる。このままやと異能者は滅びるで。そうなる前に、異能の力が強いナギに見合った妻を――」

「そうは言っているけど」


 リリーは確信めいた口調でヒスイに問う。


「あなたは、ただナギのことが心配なんじゃないの?」

「……そうは言ってないやん」

「言っているも同じよ」


 だけどヒスイの気持ちも分かるのか。リリーは「そうねぇ」と目を伏せる。


「あたしも心配しているのよ。ナギとは、もう長い付き合いだからさ」

「……」

「歯がゆいわね」


 結局はどうにもできない自分を不甲斐なく感じるように、両者とも短いため息を零す。憂いに満ちた二つの瞳が、車が残したタイヤ痕を映した。


 しかし砂利の上では、痕跡はすぐ消える。強風が吹くと、初めから何もなかったように。タイヤ痕は跡形もなく消えてしまった。



 一方――



 久我家では、結婚式に向けて準備が進んでいた。屋敷はごった返すように、使用人たちがみんな慌ただしく動いている。それもこれも全て冴が原因だった。


 今まで通り祝言でいいと思ったら、「西洋の結婚式とやらをしてみたい」と冴が言った。結婚式は、まだ日本では例が少なく、必要な物を作っている店も少ない。作っていたとしても「時間がかかります」の返事ばかり。


 しかし冴は久我家を早く自分の物にしたくて仕方がない。だから「なるべく早く結婚式をしたい」と無理難題を言ったのだ。もちろん、この言葉は使用人をさらに慌てさせることになる。


 久我家の威厳を保つ必要があるため、変な式にはできない。だから勝吾が「結婚式で何をやりたいの?」と具体的な案を聞いた。しかし冴は「よく知らない」の一言。これでは流石に何の準備も出来ないので、せめて何か具体例を出してほしいと勝吾が懇願した。


 すると冴から、予想外の回答が返って来る。

 

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