表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/28

9.心結の痛ましい過去

 

「こんな高熱で、よく出歩いていましたね。ナギ様の冷酷な言葉にも耐えながら……心結様、お可哀想に」

「……」


 素直な感想を述べる響丸を、やや不服そうにナギは見た。


 二人の前では、高熱にうなされる心結が息荒く呼吸している。大量の汗も出ており、ときどき響丸が手ぬぐいで拭いてやる。


「だいたい、ナギ様は異変に気づかなかったのですか? 心結様と近い距離でお話しされたのでしょう?」

「……」


 近くで話した、どころか。店から屋敷へ来るまでは抱いて移動した。しかし心結の調子が悪いと分からなかった。熱が出て、体温が上がっていることも。


(だが……気持ち良かった、とは思う)


 心結を抱えて移動している時。心結の高すぎる体温が心地よかった。それはきっと、低すぎる自分の体温のせい。


「長いこと普通の体温ではないから忘れていた。生きている人間は、これほど温かいのだな」

「……ナギ様も生きておられるでしょう。それに異能の力が使えるだけで、あなたも人間であることには変わりありません」

「何をむくれている」

「もうっ」


 あっけらかんとしたナギに何を言っても無駄だと悟った響丸は、頬にためた空気を抜く。そして場に漂う湿っぽい空気を払うように、「それにしても!」と大きな声を出した。


「さっきのナギ様は珍しかったですね。意識のない心結様を抱きかかえた時の、切羽詰まったあのお顔! あれほど焦った表情は初めて見ましたよ」

「……ふん」


 長い前髪の隙間から、ナギは心結を覗き見る。こけた頬に、傷だらけの指。細すぎる体、艶のない髪に、傷んだ肌――久我家の妻だったとは、とても思えない。


「ご飯さえ出されていなかったか」

「心結様は今年十九になられるそうです。それにしては、お体が小柄なのは……」

「体に入れる物がなければ、そりゃあな」


 呟くナギに、響丸が眉を下げる。


「心結様がお可哀想です。あんまりです」


 心結の汗をふきとりながら、響丸は続ける。


「久我家といったら、暴虐武人で有名な嫌われ者じゃないですか! そんな所へ花本家のような弱小名家が嫁いだところで、心結様がどうなるか……ご両親は分かってもよさそうなのに」


 グッと唇をかみしめる響丸を、ナギは一瞥する。響丸は捨て子ゆえに、人の痛みに敏感だ。だからこそ、目の前で傷ついている心結を見て見ぬふりはできなかったのだろう。そして幼子ゆえに、汚い大人の世界があることも知らないのだ。


「……心結の両親は当然、分かっていただろうな」


 久我家に嫁いだ心結が幸せになれるか否か――名家の両親なら分かるはずだ。しかし分かっていながら、それでも心結を嫁がせた。我が娘よりも、久我家からの支援金を優先したのだ。心結が不幸になると分かって嫁がせた。そういう意味では、真の黒幕は心結の両親といってもいい。


「花本家……名家の名を取り上げられても、何も支障はなさそうだが」


 名家をやめて一般家庭に戻ることも出来る。財政が厳しくなった名家は、大抵そうして来た。


 財政難であるにも関わらず「名家」の肩書に固執していると、生活はどんどん苦しくなる。名家には名家の付き合いがあり、随所で金が入り用になる。それも自転車操業では賄いきれない額だ。だから足元を見て、さっさと一般家庭へ戻った方が幸せになれる。


 しかし花本家はそうしなかった。あの悪評高い久我家と手を組んでまで、花本の血を残そうとした。まるで絶やしてはいけない、特別理由があるように――


「……ん?」


 青白い顔の心結を見ていて、ナギは気づいた。左目を中心に赤みを帯びているのだ。ナギは、心結を起こさないようそっと頬へ触れる。


 

読んでくださりありがとうございます。

よろしければ、リアクションボタンを押していただけるとうれしいです。

感想も、お待ちしておりますっ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ