表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

きらきらを探す「ここ」へ

作者: 陽ノ下 咲

 むかしむかし、と言うほど遠くもなく、けれど確かに今とは少し違うところに、「ここ」がありました。


 ここは、もともと一面きらきらに満ちていました。空気はやわらかく、光は穏やかで、何もかもが静かに輝いていたのです。


 けれど、ある日、「それ」は生まれました。


 「それ」は音もなく、影のように現れ、少しずつ、少しずつ、ここを蝕んでいきました。


 「それ」はとても気長で、急ぐことを知りませんでした。

 長い長い時間をかけて、ここに染み込み、光を曇らせ、いつしかきらきらは見えにくくなっていきました。



 ここは気づかないふりをしていましたが、ある日ふと、胸の奥がひどく冷たいことに気づいたのです。



 気づいた時には、ここは、ひとりぼっちになっていました。



 ここはとっても孤独でした。



 世界が無駄に広く、殺風景で、そしてどこまでも空っぽに思えました。


 風の音も、雲の流れも、すべてが遠く感じられ、ここは小さく震えていました。



 けれど、そのときでした。



 ここの前に、小さな小さなきらきらが、ぽつんと現れたのです。



 まるで星のかけらのようでもあり、あたたかな灯りのようでもありました。

 とても小さくて、けれど確かにここにあるきらきらでした。



 ここは、それを見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じました。



 息がしやすくなり、世界に色が戻った気がしました。


 ここはとても嬉しくて、幸せでした。



 「ずっとこのままがいいです」



 ここは、そう願いました。


 この小さなきらきらさえそばにあれば、どんな夜も越えられる気がしたのです。



 けれど、ある日、小さなきらきらは静かに言いました。



 「どうやら、ぼくはもうすぐ消えてしまうみたいです」



 その言葉に、ここは凍りつきました。



 胸が苦しくなり、涙が止まらなくなりました。

 自分でも驚くほどに駄々をこねて、嫌だ嫌だと泣きました。


 

 ずっと変わらずにいてほしいと、声が枯れるほどせがみました。



 けれど、小さなきらきらは首を横に振り、やさしく微笑みました。


 そして、ここの手をそっと握って、こう言ったのです。



  「だけど、大丈夫です」


 「だって、ここが、きらきらを心から望んで求めたら、いつでもきらきらは、形を変えて現れます」


 「何度でも、何度でもです」


 「疲れたら休んでもいいんです。立ち止まってもいいんです。だけど諦めないで。きらきらを信じて、探し続けてください」



 そう言うと、小さな小さなきらきらは、光の粒になって消えていきました。



 ここは、とても寂しくなりました。


 世界はまた静かで、冷たく感じられました。 



 けれど、不思議なことに、小さなきらきらが握ってくれた手の温もりは、消えませんでした。


 胸の奥に、ほのかな灯りとして残っていたのです。


 そして、最後の言葉が、ここの心に小さな光を灯しました。



 ここは歩き始めました。


 時々ほっと休みながら、時には立ち止まりながら。


 時折、どうしても襲ってくる「それ」に覆われる日もありましたが、それでも、そんな時は小さなきらきらの温もりを、思い出しました。



 探し続けました。信じ続けました。



 すると、いつしか、ここは気づいたのです。


 小さなきらきらが、あちこちに生まれていることに。


 誰かの優しい言葉の中に。

 朝の光の中に。

 涙を流したあとに残る、静かな強さの中に。



 これらはすべて、ここ自身の中にあった、きらきらでした。



 気づいたとき、ここはもう、ひとりぼっちではありませんでした。


 周りには、たくさんのきらきらが、そっと輝いていたのです。



 「それ」は、今もすぐそばに忍び寄っています。


 けれど、ここはもう知っています。



 どんな夜の先にも、必ずきらきらはあるということを。



 そして今日も、ここは胸の奥のきらきらを抱きしめながら、静かに歩いていくのでした。






本作を見つけてくださり、お時間を作ってお読みいただき、誠にありがとうございます。


本作は、「冬の童話祭2026」の「きらきら」のテーマで、大人に向けた童話を執筆しました。


「それ」も「きらきら」も、それぞれの中にきっと存在しうるものだと思います。


ゆっくりでも、立ち止まってもいい。

途中で道を変えても構わないと思います。

だけど決して諦めずに。

最後の時まで「きらきら」を探し続けて、生きていきたいものですね。


読んで下さった方の心に、少しでも響いてくれていたら嬉しいです。


 

最後までお読みくださり誠にありがとうございました!また他の作品でもお会いできれば嬉しいです。


陽ノ下 咲


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
静かで優しい童話なのに、読み終えた頃には胸の奥に小さな灯りが灯ったような、不思議な読後感の残る物語でした。 「ここ」「それ」「きらきら」 たったそれだけの抽象的な存在で描かれているのに、孤独や不安、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ