きらきらを探す「ここ」へ
むかしむかし、と言うほど遠くもなく、けれど確かに今とは少し違うところに、「ここ」がありました。
ここは、もともと一面きらきらに満ちていました。空気はやわらかく、光は穏やかで、何もかもが静かに輝いていたのです。
けれど、ある日、「それ」は生まれました。
「それ」は音もなく、影のように現れ、少しずつ、少しずつ、ここを蝕んでいきました。
「それ」はとても気長で、急ぐことを知りませんでした。
長い長い時間をかけて、ここに染み込み、光を曇らせ、いつしかきらきらは見えにくくなっていきました。
ここは気づかないふりをしていましたが、ある日ふと、胸の奥がひどく冷たいことに気づいたのです。
気づいた時には、ここは、ひとりぼっちになっていました。
ここはとっても孤独でした。
世界が無駄に広く、殺風景で、そしてどこまでも空っぽに思えました。
風の音も、雲の流れも、すべてが遠く感じられ、ここは小さく震えていました。
けれど、そのときでした。
ここの前に、小さな小さなきらきらが、ぽつんと現れたのです。
まるで星のかけらのようでもあり、あたたかな灯りのようでもありました。
とても小さくて、けれど確かにここにあるきらきらでした。
ここは、それを見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じました。
息がしやすくなり、世界に色が戻った気がしました。
ここはとても嬉しくて、幸せでした。
「ずっとこのままがいいです」
ここは、そう願いました。
この小さなきらきらさえそばにあれば、どんな夜も越えられる気がしたのです。
けれど、ある日、小さなきらきらは静かに言いました。
「どうやら、ぼくはもうすぐ消えてしまうみたいです」
その言葉に、ここは凍りつきました。
胸が苦しくなり、涙が止まらなくなりました。
自分でも驚くほどに駄々をこねて、嫌だ嫌だと泣きました。
ずっと変わらずにいてほしいと、声が枯れるほどせがみました。
けれど、小さなきらきらは首を横に振り、やさしく微笑みました。
そして、ここの手をそっと握って、こう言ったのです。
「だけど、大丈夫です」
「だって、ここが、きらきらを心から望んで求めたら、いつでもきらきらは、形を変えて現れます」
「何度でも、何度でもです」
「疲れたら休んでもいいんです。立ち止まってもいいんです。だけど諦めないで。きらきらを信じて、探し続けてください」
そう言うと、小さな小さなきらきらは、光の粒になって消えていきました。
ここは、とても寂しくなりました。
世界はまた静かで、冷たく感じられました。
けれど、不思議なことに、小さなきらきらが握ってくれた手の温もりは、消えませんでした。
胸の奥に、ほのかな灯りとして残っていたのです。
そして、最後の言葉が、ここの心に小さな光を灯しました。
ここは歩き始めました。
時々ほっと休みながら、時には立ち止まりながら。
時折、どうしても襲ってくる「それ」に覆われる日もありましたが、それでも、そんな時は小さなきらきらの温もりを、思い出しました。
探し続けました。信じ続けました。
すると、いつしか、ここは気づいたのです。
小さなきらきらが、あちこちに生まれていることに。
誰かの優しい言葉の中に。
朝の光の中に。
涙を流したあとに残る、静かな強さの中に。
これらはすべて、ここ自身の中にあった、きらきらでした。
気づいたとき、ここはもう、ひとりぼっちではありませんでした。
周りには、たくさんのきらきらが、そっと輝いていたのです。
「それ」は、今もすぐそばに忍び寄っています。
けれど、ここはもう知っています。
どんな夜の先にも、必ずきらきらはあるということを。
そして今日も、ここは胸の奥のきらきらを抱きしめながら、静かに歩いていくのでした。
本作を見つけてくださり、お時間を作ってお読みいただき、誠にありがとうございます。
本作は、「冬の童話祭2026」の「きらきら」のテーマで、大人に向けた童話を執筆しました。
「それ」も「きらきら」も、それぞれの中にきっと存在しうるものだと思います。
ゆっくりでも、立ち止まってもいい。
途中で道を変えても構わないと思います。
だけど決して諦めずに。
最後の時まで「きらきら」を探し続けて、生きていきたいものですね。
読んで下さった方の心に、少しでも響いてくれていたら嬉しいです。
最後までお読みくださり誠にありがとうございました!また他の作品でもお会いできれば嬉しいです。
陽ノ下 咲




