8.データを超えて
咲良の家。ぬいぐるみと甘い香りに満ちた寝室。
窓の外は日差しが眩しく、室内のエアコンからは涼しい風が送られているが、CCの顔に浮かんだ気まずさを拭い去ることはできない。彼女はベッドの端に座り、背筋を硬く伸ばし、膝の上の制服の生地を強く握りしめている。指関節は力が入って白くなっていた。
咲良
(クローゼットから山のような服を抱え出し、宝物を見せるようにベッドに広げる)
へへっ、これこそ「看板娘特訓」の最高の場所だよ! CC、今日はデータなんて見ないで、**「殺傷力」**だけを見るんだから!
CC
(ベッドに広がるリボン、ベルベット、パニエを見て、100%の拒絶を込めた口調で)
咲良……あなたの家はもう百貨店を通り越して、ただのド派手な衣装部屋じゃない。
咲良
(へへっと笑い、一着の服を掴んでCCの胸に押し付け、更衣スペースへと押しやる)
つべこべ言わない! これがプロなの! 着替えてきて!
シュッ――。試着室のカーテンが勢いよく開く。
第一形態:ゴスロリ風。
CCは黒いレースのコルセットスカートを履いて出てきた。彼女は両手で頭の巨大な黒いリボンを、まるで飛んでいってしまうのを恐れるように押さえている。幾重にも重なった黒い裾が、彼女の頬をより一層蒼白で精緻に見せ、息を呑むような脆さを漂わせていた。
CC
(視線を泳がせ、羞恥心から無意識に両足を揃え、震える声で)
駄目よ……この服……胸元が緩すぎるわ! 咲良、服が脱げそうなんだけど……!
咲良
(カメラを構え、シャッターを切り続ける)
おおお! この「抑圧された禁欲美」! 最高級だよ! 次!
シュッ――。第二形態:純白エレガント風。
それはノースリーブの純白のワンピースで、襟元には温かみのある真珠が一周あしらわれていた。CCの細い腕が完全に空気に晒され、指先は不安げに体の前で組まれている。
CC
(うつむき、頬がオーバーヒートして煙が出そうなほど赤くなる)
腰も腕も完全に露出しているわ……この服、露出が高すぎるわよ!
咲良
(CCの抗議を完全に無視し、改造狂の輝きを瞳に宿して)
最高! これこそ私たちが求めていた可愛い系だよ! さあ、最後の一着――文化祭の正式試作服!
リビングでは、陽光が温かいオレンジ色に変わっていた。
零司と佐藤級長は、タブレットを囲んで出店動線の調整を行っている。零司の顔はロケット発射のデータを計算しているかのように厳粛で、佐藤級長は極厚の眼鏡をタブレットに密着させるほど近づけて画面を覗き込んでいる。
零司
(平板な口調だが、視線は30秒おきに無意識に階段へと向けられる)
葉山くんから急用で出席できないと連絡があった。現在の出席人数は3/4。効率は25%低下だ。
その時、階段から規則正しいが、どこか戸惑いを含んだ足音が響いてきた。
CCが降りてきた。
濃紺のリボンタイがついたジャンパースカートに、純白のエプロン。あのトレードマークの黒いベースボールキャップは姿を消し、代わりに精緻なブルーのカチューシャが、絹のような長い髪を肩へと流している。
彼女は無意識に、リビングであの馴染みのある姿を探した。悠人の空席に視線が止まると、CCの肩がわずかに落ち、瞳が明らかに揺れ、口元には淡い、落胆の表情が浮かんだ。
CC
(動力源を失った精密機器のように、小さな声で)
……悠人くん、今日は来ていないの?
佐藤級長
(重度の近視のため、目を細めて必死に身を乗り出す)
ん? 誰が降りてきたんだ? 氷室さんかな? ごめん、眼鏡が汚れているみたいで……青白っぽい何かが光っているようにしか見えないんだ……。
視力の悪い佐藤とは対照的に、零司はその光景を100%脳内に刻み込んでいた。
彼は猛然と立ち上がり、眼鏡を押し上げ、主導権を取り戻そうとしたが、その目はCCに釘付けになり、逸らすことができない。
零司
(声に焦燥の震えを滲ませて)
氷室さん。週末とはいえ、そのような格好は……極めて非合理的だ。その視覚的パッケージングは、同僚の集中力データを乱す要因になる……。
佐藤級長
(見えていないが、論理の話になると本領を発揮し、零司を遮る)
おい零司、それは違うぞ。近くに綺麗な美少女がいることは、僕にとって効率を二倍に上げる要因だ! それに……CCをビジュアル担当に推薦したのは、君じゃないか。
普段のCCなら、佐藤の言葉を引き継ぎ、人を殺せそうな冷酷な眼差しで、山のような「論理的発言」を浴びせて零司を完膚なきまで論破していただろう。
だが今日の彼女は、ただ静かにそこに立っていた。
脳裏には、先ほど上の階で咲良から言われた助言が響いている。「格好だけじゃなくて、優しい態度も学んでほしいな」
CCは零司を見た。その瞳は鋭さを失い、温かい湖のようだった。彼女は両手をエプロンの前で優雅に重ね、零司に向かって、水のように穏やかで、淡い喜びを湛えた微笑みを向けた。
CC
(羽毛が舞い落ちるような、軽やかな口調で)
零司くん。
助言をありがとう。
彼女は首をわずかに傾ける。窓を通り抜けた夕日が、正確に彼女の笑みを浮かべた目尻を照らした。
CC
でも……私、今はとても楽しいの。
そう言って彼女は零司に頷き、再び二階へと戻っていった。裾が彼女の動きに合わせて軽やかに揺れ、微かな風を残していった。
零司はリビングの中央で、まるで石化した彫像のように立ち尽くしていた。
彼のタブレットから「ピー――」というエラー通知が響いたが、彼には全く聞こえていない。彼の脳内には、今、あの「非論理的」な微笑みだけが残っていた。
零司
(激しく脈打つ胸元を震える手で押さえ、顔色が蒼白から爆発的な赤へと変わる)
こ、これは……公式に当てはまらない……。
(僕は……僕は、本当に……完全に陥落してしまったのか……)
零司は、何か致命的な放射線を避けるように猛然と踵を返し、逃げるように咲良の家を飛び出した。
佐藤級長
(玄関に残ったぼやけた残像を呆然と見つめる)
……零司? どうして走っていったんだ? あんなに速く……まさか彼のデータベースが爆発したのか? 追いかけたほうがいいかな?
咲良
(後ろで意地の悪い大爆笑を上げる)
あはははは! 級長、追いかけてあげて! 彼に今必要なのはデータじゃなくて心理カウンセラーだよ!
CCの今日の日記
記録事項:週末特訓。複数の衣装に着替えた。悠人くんは欠席。
今日の出来事:
1. 佐藤くんは零司くんが去った後、すぐに追いかけていった。今日の会議は不可解な形で終了した。
2. 零司くんは逃げる際にドア枠にぶつかりそうになっていた。視覚的衝撃は脳の平衡システムに多大な影響を及ぼすようだ。
今日の心情まとめ:新しいスタイルで文化祭に登場することに、なんと……期待感を抱いている!(備考:悠人くんがこの服を見たら、どんな反応をするかしら?)




