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100%の集中モード  作者: WE/9
大学セクション

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16.本気ですか?

午前一時、アパートの喧騒はアルコールと疲労とともに次第に沈殿していった。 ソファでは、蛍が沙也加の懐で深い眠りに落ちていた。目尻にはまだ乾ききっていない涙の跡があり、沙也加は彼女に柔らかなウールの毛布をそっと掛けた。普段は皮肉や鋭い言葉を投げかけるその瞳も、今は限りなく温和だった。 健二と輝は悠人に連れられ、大学のラボや修理店へと最後の機材搬出に向かっていた。閉まったドアの音は極めて静かで、この束の間の安らぎを乱すまいとしているかのようだった。


アパートの中には、火が消えた後の鍋の余熱と、掃き出し窓のそばに座って東京の夜景を見つめる凜だけが残っていた。彼女は背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま、月光に照らされた白い帽子が、透き通るような冷徹さを放っている。


「よく眠っているわ。感情の解放はこの子のシステムにとって良い薬になったみたいね」沙也加が凜のそばに歩み寄った。 「さて、凜。大人同士の話をしましょうか」 凜が振り返る。その瞳は清冷だった。 「ベルリンの計画書のこと? もうメールで送ってあるわ」 「いいえ、そんな冷え切ったデータの話じゃないわ」沙也加は窓枠に背を預け、かつてないほど真剣な口調になった。 「聞きたいのは、本当に覚悟はできているのかってことよ。ベルリンの冬はここより十倍も過酷だし、あそこの学術競争は弱者を容赦なく引き裂くわ。そして何より、本当に悠人君を連れて行くつもりなの?」


凜の眉が微かに動いたが、言葉はなかった。 「分かっているはずよ、悠人君はあなたのために東京でのすべてを捨てるのよ」沙也加の視線が凜の瞳を射抜く。「彼はここでは名の知れたカメラ修理師だけど、ベルリンでは言葉の通じないただの外国人労働者よ。もしいつか、あなたの学術的成果が高く飛びすぎて、彼が異郷の泥沼に足を取られたとき、あなたのその『絶対的正確さ』を求める脳は、そんな『偏差』を本当に許容できるの?」


空気が希薄になったかのような静寂。凜は長い間沈黙した。沙也加が、彼女は答えないだろうと思ったその時、凜はゆっくりと、ずっと頭に乗せていた白いベースボールキャップを脱ぎ、膝の上に置いた。


「沙也加。あなたが言ったあらゆる可能性は、すでに脳内で三万回以上シミュレーション済みよ」 凜の声は低かったが、強い力に満ちていた。 「悠人は私の随行パーツなんかじゃない。彼は私の『定着液フィクサー』よ。彼がいなければ、ベルリンで目にするどんなデータも、無意味なノイズに過ぎないわ」


凜は窓の外の、煌びやかだがどこか見知らぬ光の点を見つめ、稀に見る温かさを声に滲ませた。 「もし彼が異郷の泥沼に沈むなら、私の軌道を修正して彼と接合するだけ。それは偏差を許容するということではなく、私の『座標系』を再定義するということ。もし世界が私と彼のどちらかを基準点に選ばなければならないなら……私は、彼を選ぶわ」


沙也加は目の前の少女を見つめた。凜を感情を持たないデータマシンだと思っていたが、今、理解した。凜の感情は誰よりも深く、そして極端なのだ。一度ピントを合わせれば、二度と外さないという狂気的なまでの忠誠。


「……まったく、あなたには負けたわ」 沙也加の口元に、晴れやかな笑みが浮かんだ。 「私の心理学理論も、あなたを前にすると書き換えが必要みたいね。それだけの覚悟があるなら、もう心配することはないわ」 沙也加は手を伸ばし、凜の肩を軽く叩いた。 「行きなさい。あの冷え切ったベルリンを、二人だけの現像室ダークルームに変えてきなさい」 「それから、この子は……今夜はここに泊まらせるわ。これからは私ができる限り面倒を見るから」 沙也加は蛍の毛布を掛け直した。 凜は沙也加を見つめ、小さく頷いた。それは女同士の深い告白であり、託された誓いだった。この対話を経て、ベルリンへ行く意義は単なる「進学」ではなく、人生を賭けた不可逆的な化学反応へと変わった。

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