10.5 what if :小野寺のハーレムが叶う日
午後の秋葉原を激しい豪雨が襲い、楽しみにしていたアニメ展の旅は中断を余儀なくされた。 「濡れてしまった以上、もし良ければ僕の家で処置しませんか。この湿度は、氷室さんの白い服や蛍ちゃんの電子機器にとって致命傷ですから」 小野寺がメガネを押し上げると、雨幕の中でレンズが自信に満ちた光を放った。
二人が小野寺のプライベートな領域に足を踏み入れるのは、これが初めてだった。予想に反し、そこは雑多なオタク部屋ではなく、偏執的なまでに整理整頓されていた。数千冊の漫画が出版年と作家ごとに正確に並べられ、壁のフィギュア箱はレーザー校正されたかのように整列している。 「座ってください、まずは服を乾かしましょう」 小野寺は未開封の新品の応援Tシャツを二枚差し出した。 「これは限定版で、マラソンウェアの技術を応用した吸水性と通気性に優れたものです」
三人はローテーブルを囲み、外では雷鳴が轟いていた。小野寺は熟練の手つきで、正確な温度にこだわったネルドリップコーヒーを淹れる。その真剣な横顔には、高木先生にも引けを取らない職人気質が漂っていた。 「君たち二人は、いつもこの世界の『正解』ばかりを計算しています」小野寺は手元のコーヒーカップを見つめ、静かに語った。「でも忘れている。人類がなぜ二次元に惹かれるか。それは、あそこが『間違い』を許してくれる場所だからです。絵師がわざと少女の足を長く描き、背景のパースを歪めるのは、現実では達成できない心の欠損を埋めるためなんです」
彼は凜へと向き直り、深い眼差しを向けた。 「氷室、君が100%の正確さを求めるのは、1%の制御不能を恐れているからだ。でも気づいていないのかい? 葉山悠人君が君を惹きつけるのは、彼が正確だからじゃない。君のあらゆる『不正確さ』を包み込んでくれるからなんだ」
続いて彼は蛍を見た。 「そして蛍ちゃん。君の満点のテスト用紙は防御機制だ。君が孤独なのは、計算を間違えた時に『大丈夫だよ』と言ってくれる人に、まだ出会っていないからだよ」
部屋の中は死寂に包まれた。 科学と論理の世界で神と崇められた二人の少女が、初めて一人の「オタク」による感性の言葉で、精密に撃破された瞬間だった。 「小野寺君……」凜はうつむき、白い帽子のつばで目を隠したが、カップを握る手は微かに震えていた。「こんな次元から私の演算ロジックを読み解かれたのは……初めてだわ」 蛍はソファに丸まり、大きなフーディーの中に顔を埋めていた。「クソメガネ……なんでそんなに正確なのよ。私の動的方程式より正確じゃない……」
その瞬間、オタク文化に満ちたこの部屋は巨大な引力場へと変貌した。少女たちは顔を上げ、普段はお調子者の、しかし今は限りなく頼もしい小野寺を見つめた。それは憧れを超え、「魂を理解された」ことによる傾倒に近かった。
小野寺の部屋に満ちた設定資料やフィギュアの中で、絶対的な静寂は徹底的に融解した。 凜はフロアマットに座り込み、常に潔白だった長い靴下は雨に濡れ、かつてないほど柔らかく乱れていた。彼女はもう帽子を深く被ることはなく、白いベースボールキャップを横に放り出した。澄んだ瞳は、小野寺の指先を虚ろに見つめている。悠人の修理道具以外に、言葉という「マスターキー」で自分のファイアウォールを迂回し、核心に触れてくる者がいることを、彼女は初めて知ったのだ。
「小野寺君……」凜の声は細く、彼女は自ら手を伸ばし、小野寺の手のひらに指先を絡めた。彼女にとって、それは単なる動作ではなく、データの寄託だった。 小野寺は退くことなく、凜の手をしっかりと握った。彼の掌は温かく、わずかなざらつきがあった。その厚みのある包容力は、高速演算を続ける凜の脳に、初めて「シャットダウン」のような安らぎをもたらした。
ソファの反対側では、負けず嫌いの天才少女・蛍が完全に武装を解いていた。オーバーサイズのフーディーはもはや防御の鎧ではなく、柔らかな手紙のように彼女を包んでいる。彼女は小野寺の懐に丸まり、その胸の鼓動に耳を傾けた。 「物理とか……点数とか……今はもうどうでもいい」蛍は目を閉じ、満足げで気だるい笑みを浮かべた。 「ねえ、メガネ。ここ……どんな物理モデルよりも安定してるじゃない」
小野寺は腕の中の猫のように従順な蛍を撫で、もう一方の手を握りしめ、かつてない依存を見せる凜を見つめた。彼はメガネを押し上げ、レンズの奥で「計画通り」と言わんばかりの狡猾な光を走らせた。策を弄したわけではない。彼はただ、最もオタク的で深い観察眼を用い、この「氷室姉妹」が最も切望していた「理解」を与えたに過ぎない。
彼は蛍を抱き上げた。 「おい、普段は生意気な君も、少しはフィードバックをくれるべきだろう」 小野寺は蛍をベッドへと放り投げた。 「私もよ、小野寺!」 「わかった、わかった。一緒だよ」
戦場をベッドへと移した小野寺は、爽やかで余裕のある表情で、普段は不可侵な、しかし今は自分だけに心酔する天才姉妹との時間を享受していた。この狭い部屋において、彼こそがあらゆる論理と感情を統治する「神」であった。
事が終わり、息を切らした小野寺はベッドの上で、片腕で蛍を、もう片方の腕で凜を抱き寄せ、机の上の帽子とヘッドホンを眺めた。 「これらは戦利品として僕の家に置いておくよ。次は凜のクラスメイトも連れておいで」 小野寺がそんな妄想に耽っていた、その時。
「BOOM!」
部屋が爆発した。 それは、遊び心で並行宇宙を創り出したが、これ以上書き進めることを恐れた神秘的な力の干渉であった。
次回からは、正常なストーリーに戻ります……。




