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100%の集中モード  作者: WE/9
大学セクション

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4.線と線の交差

「いいか、これは単なる好奇心じゃない。写真学科のプライドを懸けた戦いだ!」 健二は帽子のつばを下げ、望遠レンズを手に新宿駅の柱の影にコソコソと隠れた。 「葉山の奴、絶対に催眠術か何かでT大の校長……じゃなくて、女神を騙したに決まってる。今日は証拠を掴んで、この次元の壁のバグを暴いてやる!」 隣でスマホを構える輝は、当事者よりも心拍数が上がっていた。 「なあ健二、もし本物の氷室凜を見たら、俺、期末試験の確率分布を計算してくれって膝をついて頼んじゃいそうだよ……」


ホームの反対側では、沙也加が大げさなサングラスをかけ、広げた新聞紙の影から凜の様子をじっと伺っていた。「秘密は守るって言ったけど、『観測』は違法じゃないよね? あのエラーゼロの凜にあんな顔をさせる奴がどんな男か、この目で確かめてやるわ。もしチャラい奴だったら、そいつの人生をフォーマットしてやる!」


凜が『非線形動力学』を閉じ、時計に目をやった。 沙也加が息を呑む。「ターゲットが動いた! 心拍数上昇の予定よ!」 同時に健二も息を止める。「葉山が現れた! 奴め、あんな着古したパーカーを着て……宝の持ち腐れだ!」 健二はベストなアングルを探して一歩下がり、沙也加はより近くで見るために一歩踏み出した。


「ゴンッ!」 雑踏の中で二人は激しく衝突した。 「痛たた……おい! 前見て歩けよ!」健二が怒鳴りかけ、沙也加の胸元にあるT大の学生証ストラップに気づいた。 「あなたこそ何よ! 公共の場で望遠レンズ振り回して、変質者?」沙也加はサングラスを直し、鋭い口調で言い返す。 二人は一瞬睨み合ったが、次の瞬間、同時に凍りついた――追跡していたターゲットが、ついに「ドッキング」したからだ。


少し離れた柱のそばで、悠人が凜の前に立った。 健二と沙也加は同時に口を閉ざした。 悠人は、相変わらず帽子を深く被っている凜を見て、ふっと微笑んだ。そして手を伸ばし、指先でその白い帽子のつばを軽やかに引っ掛けた。乱暴に脱がすのではなく、まるで大切な封印を解くかのように、ゆっくりと、優しく上へ押し上げる。 その動作は極めて甘く、他者の介入を許さない親密さに満ちていた。帽子のつばが上がり、笑みに満ち、もはや何の防備もしていない凜の瞳が露わになった瞬間、両側の「観測者」たちは同時に脳がフリーズした。


続いて、悠人は自然な動作で凜の重いリュックを受け取り、右手を下ろして、空中で凜の手をそっと掬い上げた。 凜に躊躇は微塵もなかった。指を悠人の指の間に滑り込ませ、十本の指を固く絡め合わせる。 ――恋人繋ぎだ。 凜は自ら悠人の肩に寄り添い、何かを小さく囁いた。悠人はそれに応えるように、優しく彼女の頭を撫でる。


健二(崩壊中):「あの阿吽の呼吸は何だ……葉山の奴、本当に神様と付き合ってるのか? しかも神様の方が……完全に攻略されてる側じゃないか!」

沙也加(フリーズ中):「あの人が『彼氏』? エリートの先輩でも、天才少年でもなく……ただの普通すぎる男の子? でも、凜の手の繋ぎ方、まるで自分の人生を丸ごと同期させてるみたいじゃない……」


二人の探偵は顔を見合わせた。先ほどの敵意は消え、代わりに「見てはいけない奇跡を見てしまった」という脱力感が漂う。 「ねえ」沙也加が冷ややかに口を開いた。「今日のこと、もしネットに上げたら、あなたの写真家人生をモノクロにしてあげるわよ」 「心配するな」健二は望遠レンズを下ろし、遠い目をした。「あんな光景、レンズ越しじゃ撮れやしない。あの甘ったるい空気感……記録なんて不可能だ」

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