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24/66

24.賭注

木曜日の朝、青藤高校の正門前。


「ピーッ、ピーーーッ!」 校隊のバスがゆっくりと構内に入ってくると、静かな朝を切り裂くような地鳴りのような歓呼の声が上がった。校門の上にはいつの間にか鮮やかな横断幕が掲げられている。『祝・バスケットボール部 地区大会優勝!』


悠人とCCが校門の並木道に差し掛かると、溢れ出してきた生徒の人波に行く手を阻まれた。


「悠人! あの気だるそうな歩き方は、絶対悠人だろ!」


人混みの中心から、爆発力のある声が響いた。続いて、真っ黒に日焼けし、首から輝く金メダルを下げた人影が人波をかき分けて突進してきた。健太だ。巨大なスポーツバッグを背負い、早朝の練習上がりの熱気と、勝者の興奮を全身から振りまいている。


「久しぶりだな、悠人!」 健太は悠人の前に来ると、熱烈なベアハッグをかました。悠人の息が止まりそうになる。 「中継見たか? 最後の一分、あのスリーポイント……頭の中はお前に体育で教わったポジショニングでいっぱいだったぜ! 外しちまったけど、リバウンド拾ってねじ込んでやったよ!」


「ゲホッ……健太、落ち着けよ。優勝おめでとう。」 悠人は笑いながら、健太の逞しい腕を叩いた。 「お前っていう体力モンスターは、試合じゃ全然エネルギーを使い切れないみたいだな。」


健太はガハハと笑うと、隣に立つ、平然とした様子のCCに向き直った。 「よお! 氷室さん! おはよう!」 健太は白い歯を見せて、大袈裟に手を振った。彼は咲良以外で唯一、CCの放つ「人を寄せ付けない」オーラを完全に無視できる男だ。 「小野寺から聞いたぜ。大磯浜ですげーデータを集めたんだって? よく分かんねーけど、優勝するのと同じくらいカッケーじゃん!」


普段のCCなら、こうした騒がしい社交的干擾は無視するか冷淡な一瞥をくれるところだ。しかし今、彼女は健太の曇りのない瞳と、興奮で赤らんだ顔を見つめ、ゆっくりと足を止めた。 彼女はキャップのつばを上げ、健太の胸の金メダルに0.5秒ほど視線を留めた。


「おはよう、健太君。」CCの声は相変わらず清廉だが、語速はいつもよりわずかに緩やかだった。「あなたは四六時中、熱量過多のようだけれど……それでも、優勝おめでとう。」


「へへっ、それ褒めてんだよな? サンキュー!」 健太は得意げに鼻をこすった。 「でも、」 CCはすぐさま悠人へと顔を向けた。 「健太君。悠人は明日、物理の試験のための復習が必要なの。連れて行くわね。」


「おう! 分かったぜ、氷室先生!」 健太はおどけて敬礼すると、悠人の耳元に近づき、全校生徒に聞こえるほどの「内緒話」の音量で言った。 「悠人。氷室さんは厳しいけど、マジな話、お前がチームに来てくれたら、俺たち絶対全国制覇できるぜ! 考えておいてくれよ、待ってるからな!」


そう言い残すと、健太は太陽のようなオーラを纏ったまま、再び歓喜の渦へと飛び込んでいった。 悠人は健太の背中を苦笑いで見送り、CCに視線を戻した。 「あいつはああいう奴なんだ。悪気はないよ。」 「分かっているわ。」CCは再び歩き出し、淡々と一言付け加えた。「彼は温かな人間よ。騒がしいけれど、不快ではないわね。」


悠人は一瞬呆気に取られたが、すぐに微笑んだ。これはCCが与えうる最高ランクの社交的評価だ。しかし、この凱旋の喜びは長くは続かなかった。二人が賑やかなホールを抜け、旧校舎の方へと向かうと、場違いなほどの圧迫感が彼らを待ち受けていた。


旧校舎、天文部部室。 本校舎の喧騒から隔離されたここは、悠人とCCにとって「一メートル距離」の補習を楽しむ避難所シェルターだった。しかし今、部室のドアは乱暴に開け放たれていた。


「……何をしているんだ、お前たち。」 窓際でレンズを調整していた小野寺が、猛然と立ち上がり、不速の客たちの前に立ちはだかっていた。咲良は星図の束を抱え、不法侵入してきたバスケ部員たちを怒りに満ちた目で見つめている。


悠人とCCが足を踏み入れたとき、目に飛び込んできたのはバスケ部の副主将――パリッとした校隊のジャージャを着て、傲慢な表情を浮かべた男子生徒だった。彼はデスクの上の高精度望遠鏡の接眼マウントを、ぞっとするほどぞんざいな手つきで弄んでいた。


「やめろ。それは高価で、精密なものだ。」 悠人が低い声で告げ、足早に歩み寄った。 副主将は手を引くと、眼鏡を押し上げ、小馬鹿にしたような鼻笑いを漏らした。 「精密? 俺たちの目には、場所を占領しているだけのゴミに見えるがね。葉山君、それに氷室さん。いいところに戻ってきた。」


彼は脇から生徒会の朱印が押された青い公文書を取り出し、円卓の上に叩きつけた。悠人の計算草稿が数枚、床に舞い落ちる。 「御堂(零司)部長が遠征中に、リモートで空間の精緻な計算を終えられた。彼によれば、この部室の利用率は12%以下だ。リソース分配において多大な無駄と言わざるを得ない。それに、今のメンバーの成績(悠人を指して)も大幅に下がっている。ここにはもう『学術部活動』としての資格はないんだよ。」


「何ですって?!」咲良が震える声で叫んだ。「ここは私たちが苦労して整理した場所よ、勝手なこと――」


「これがあるんでね。」 副主将は公文書の印を指差し、冷徹な視線を向けた。 「バスケ部は今回の地区大会で優勝した。次は全国大会を控えている。俺たちには、絶対的な静寂と、広い視界を持つ『試合データ実地シミュレーション』のための環境が必要なんだ。ここはこの学校で最高到達地点にあり、死角が最も少ない場所だ。つまり……」


彼は思い出の詰まった部室を一周見渡し、残酷な最後通牒を突きつけた。 「来週からここは正式に『バスケ部第一データ分析室』と名称変更される。関係のないゴミは金曜日までに片付けておくんだな。さもないと、用務員にすべて廃棄させる。」


副主将は悠人を見つめ、屈辱的な笑みを浮かべた。 「葉山君。十七位の人間には、こんなに広い補習室は必要ないだろう?」


部室内の空気が一瞬にして氷点下まで下がった。悠人は弄ばれた計器を見つめ、CCの横で微かに強張った彼女の指先に気づいた。大磯浜で築き上げたあの静寂が、現実の権力の前で、音を立てて崩れ去ろうとしていた。


「分かりました。その要求を呑みましょう。この部室をあなたたちに明け渡します。」


CCの静かな言葉は、爆弾のようにその場を凍りつかせた。 「CC?!」咲良が驚愕の声を上げ、小野寺までもが錯乱したように隣の少女を見つめた。 副主将は一瞬呆気に取られたが、すぐに勝ち誇った表情を見せた。 「氷室さん。流石、話の分かる理性的な人間だ。なら、三日後に引っ越しを――」


「受け取りの準備を急がないで。」 CCは彼の言葉を遮った。その瞳には、人を震え上がらせるような冷徹な光が宿っていた。 「私がこの部屋を放棄するのは、すでに部活動の再編を計画しているからよ。」


彼女は顔を向け、門口の副主將を直視した。その口調には、周到に罠を仕掛け終えたような覇気があった。 「御堂君に伝えなさい。自らがバスケ部の『データ指揮官』を自負するなら、一つ賭けをしましょう、と。来週の校内三対三スリー・オン・スリーの練習試合、天文部はバスケ部二軍セカンドチームに挑戦するわ。もし私たちが勝てば、バスケ部は意向書を撤回するだけでなく、生徒会に小野寺拓海をバスケ部員として正式登録させなさい。そして――」


CCは一度言葉を切り、極めて残酷な響きで続けた。 「――彼を次の公式戦のスターティングメンバーとして出場させなさい。御堂君の『絶対領域』の中で、彼のだらしない撮影ロジックを使って、あなたたちの戦術を徹底的に破壊してあげるわ。」


「な、何だと?!」 副主将は怒りのあまり笑い出した。「誰が出るんだ? 葉山悠人か? それともカメラ小僧の小野寺か? たった二人で?」


「私もよ。」


「私が直接コートに立つわ。御堂君がデータでコートを統治できると考えているなら、私のやり方で、どちらが賢いかを分からせてあげる。」


「CC、君が試合に出るのか?!」 悠人は腰を抜かさんばかりに驚いた。体育の授業での「指揮官モード」は見てきたが、今回の相手は校隊レベルだ。


そこへ現れた健太は、最初こそ熱く参戦しようとしていたが、「公式戦のスタメン」という賭けを聞いて、複雑な表情を浮かべた。バスケ部の主力大前鋒パワーフォワードとして、部の名誉に関わる正式な挑戦に寝返ることはできない。


「……悠人、悪い。」健太はうつむき、拳を握りしめた。 「今回は、お前たちの助っ人にはなれない。俺はバスケ部の人間だ。この試合、俺はコートサイドで審判をやる……だが、公平さは保証するぜ。」


「いいんだ、健太。」悠人は親友の肩を叩いた。「それで十分だ。」


副主将はこの奇妙なチームを見渡した。十七位の「凡人」、シャッターを切るだけの「傍観者」、そして女子の授業でしか実績のない「天才少女」。彼は鼻で笑った。 「いいだろう。三日後、コートで会おう。もし負けたら、氷室さん。君は零司の専属アシスタントとして、彼のそばで一切の命令に従ってもらうぞ。」


バスケ部が立ち去ると、部室には咲良の不安な声が響いた。 「CC、本当に勝てるの? 相手は二軍とはいえ校隊だよ。体格差がありすぎるわ!」


「体力なんて必要ないわ。」 CCは振り返り、悠人と小野寺を見つめた。その瞳には、狂気に近い冷静さが閃いていた。「小野寺、あなたはこの二日間で、二軍の全選手のドリブルの癖を撮影して。悠人、あなたは私のために『干渉を受けた状態での遠距離シュート』――つまりディフェンスのプレッシャーをシミュレートして。咲良、当日はあなたの女友達を全員連れてきなさい。」


彼女は窓の外を見据え、その声は静かだが断固としていた。 「四人で、奴らのチームを機能不全パニックに陥れてあげるわ。」

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