21.3分間時間が止まりました
居間の中は、悠人の激しい呼吸音だけが聞こえるほど静まり返っていた。
彼は震える手で、壁に凍りついたままの映像に向けて、そっとリモコンの「再生ボタン」を押した。止まっていた画面が、フィルムの回る「カタカタ」という音とともに再び動き出す。それはまるで時の門が勢いよく押し開かれたかのようだった。2008年の燃え上がるような暑さと蝉時雨が、一気に押し寄せてくる。
画面の中では、七歳の悠人が24番のレイカーズのユニフォームを着て、自分の頭よりも大きなバスケットボールを抱え、裏庭で一生懸命にドリブルの練習をしていた。
「悠人、カメラを見て! ボールばっかり見てちゃダメよ。」
それはお母さんの声だった。穏やかで優しく、けれど隠しきれない慈愛に満ちた笑みが混じっている。レンズが少し揺れた。お母さんがカメラを回しながら、小さな悠人の方へ歩み寄っているのがわかる。
映像の中の悠人は動きを止め、カメラに向かって、抜けた前歯を見せながら無邪気に笑った。「パパ! このあとレイカーズが勝ったら、本当にあの一番大きいプラモデル買ってくれる?」
「もちろんだ。男に二言はない。」
カメラが横を向くと、8番のユニフォームを着たお父さんが腰をかがめ、悠人に微笑みかけていた。 お父さんはもう一度軽く笑うと、画面が不意に切り替わった。
それは古木の下に座るお父さんの姿だった。洗濯で白っぽくなったランニングシャツを着て、顔色は病のせいでどこか土色がかっていたが、その瞳だけは異常なほど明るかった。まるで、その中に星空を丸ごと隠しているかのように。
彼はカメラに向かって呼吸を整えると、じっと前を見つめた。その眼差しは深く、まるでカメラのレンズを突き抜けて、今、暗い居間に座っている十七歳の悠人を直接見つめているかのようだった。
「悠人。もしこの映像を見ているなら……それはお前があのハンドルを手に入れ、この家に戻ってきたということだ。そして何より、お前の隣には、この光と影を分かち合える誰かが、もういるということなんだろうな?」
お父さんは映像の中でふっと言葉を切り、自嘲気味に笑うと、古木の斑な樹皮にそっと手を触れた。
「すまないな、息子よ。これを撮っている時、パパはもう感じていたんだ。お前と一緒にあのファイナルの放送を見ることはできないだろうって。お前が背を伸ばすのも、初めて失恋して悩むのも見守ってやれない。お前が逃げ出したくなった時に、背中を押してやることもできない。」
「でも、お前に覚えていてほしいのは『遺憾』じゃないんだ。だから、これを植えた。」
カメラがゆっくりと古木の根元を映し出す。2008年の干上がった夏、その痩せた土壌の中に、鮮やかな瑠璃色の朝顔が一面に咲き誇っていた。その花びらは陽光を浴びて、幻のように青く輝き、息を呑むほど美しかった。
「入院している時に、ばあちゃんに頼んで探してもらった種だ。この花は『ミラクル・ブルー』。最も過酷な環境で、最も忍耐強い守り手だけが咲かせることができる花なんだ。」
「見てごらん。たとえ病んだ木の下であっても、諦めなければ、奇蹟は必ず決まった時間に花を咲かせるんだよ。」
映像の中のお父さんが手を伸ばす。まるでスクリーン越しに、悠人の頬に触れようとするかのように。
「あの一敗のために、足を止めないでくれ。お前はパパの息子だ。お前は生まれつき、優しい力を持っている。誰かの光になってやれ、悠人。灯台を突き抜けてこの家に届いた、この光線のように。」
「言いたいことはそれだけだ。さあ、行きなさい。外で待っている友達とうまい飯を食って。それから、胸を張って、お前の世界へ戻るんだ。」
最後に、お父さんはカメラに向かって手を振った。いたずらが成功した子供のような笑顔で。
「そうだ、悠人。お前はいい子だ。本当にな。」
画面が真っ暗になり、数秒後、白い文字が浮かび上がった。
『悠人、覚えておきなさい。世界中の試合には必ず勝敗がある。コービーだって負けることもあるし、パパだって行かなきゃならない時がある。お前だって、暗闇に隠れたくなるような瞬間に遭うだろう。けれど、現実に向き合わなきゃならない時は、自分がコートの中にいると想像するんだ。そして、そのクソったれなボールを、リングに叩き込め!』
激しいホワイトアウトの中で画面が消え、フィルムが終端まで回りきって「カタ、カタ、カタ」と空回りする音だけが残った。明るかった壁は、再び灰色の一面に沈んだ。
悠人は暗闇の中に座り込んでいた。リモコンが畳の上に落ちる。彼は顔を覆い、肩を激しく震わせていた。十年間、心の底に積み重なっていた氷が、「お前はいい子だ」というその言葉で、熱い涙となって跡形もなく溶け去っていった。
ようやく理解した。父が遺したのはネガではなく、時を超えた救済だったのだ。
長い時間の後、悠人は涙を拭い、ゆっくりと襖を開けた。
外では、CCが柱に寄りかかり、夕陽の沈んだ水平線を見つめていた。開く音に気づいて彼女が振り向く。映像の内容は聞かず、ただ、輝きを取り戻した悠人の瞳を静かに見つめた。
「見終わった?」
CCが尋ねる。平淡な口調だったが、手は無意識に服の裾をぎゅっと握りしめていた。
「ああ。」
「凜……。」
悠人はすぐには顔を上げられなかったが、しばらくして頷き、この数日間で最も晴れやかな、本当の笑顔を見せた。
「ありがとう。」
夕陽の最後の一葉が二人を照らし、木廊に伸びる二人の影は長く、長く重なり合っていった。




