16.君はいつも、完璧に見える
冬休みの初日の朝、陽光は度を越して透き通り、街路を惨めなほど真っ白に照らしていた。 「おーい！ CC！ こっちだ。」 悠人は駅の出口に立っていた。仕立ての良い濃紺のウールコートを羽織り、マフラーは標準的なウィンザーノットで結ばれ、全身からこの冬の暖陽と変わらぬ明るいオーラを放っていた。
今日のデートは悠人からの誘いだ。名目は「ネガ修復の謝礼」である。
二人はまず、市中心部の科学博物館へ向かった。プラネタリウムのドームシアターで灯りが消え、銀河が降り注ぐ中、悠人は星空を見るのではなく、静かに、そして正確にCCの耳元で囁いた。 「見て。北極星は二時の方角だ。君のノートに描いてあった通りだよ。」 「校外学習の時に見たのと同じね。あそこでああして、ずっと輝いて安定しているわ。」 二人は見つめ合って微笑んだ。この暗闇の中、もし普通のカップルなら、そのままキスをしていたかもしれない。
悠人の声は玉のように温かく、空調の冷えでCCが首をすくめると、まるで秒数を計算していたかのように、用意していたカイロを自然に彼女の手へと渡した。「風邪を引かないようにね、凜。」 「あ、ありがとう。」
星空劇場を観た後、二人は道すがら博物館の展示をすべて見て回った。CCが悠人にずっと天文学の講義をしていたようなものだった。
午後、二人は路地裏にある懐かしい雰囲気のブックカフェで一息ついた。店内に光と影が斑に落ち、古いアナログ盤のジャズが流れている。 「あら、まあ。綺麗なカップルだこと。」エプロン姿の店主の女性がホットココアを運びながら、慈愛に満ちた眼差しを向けた。「試験が終わってお祝いかしら？ 仲がいいわね。」 「あ、いえ。誤解ですよ。」悠人はすぐに非の打ち所のない優しい笑みを浮かべ、手を振って、軽やかかつ堂々と言った。「僕たちは同じ学校の友達です。彼女に大きな助けをもらったので、今日はお礼に来ただけなんです。」 「ええ、おばさん、誤解です。ただの友達ですから！」CCも少し照れくさそうに付け加えた。 店主は一瞬呆気に取られたが、すぐにハハハと笑い出した。「あらあら、今の若い子は冗談が上手ね。これだけ息が合っていて恋人じゃないなんて。その目は誤魔化せないわよ。」 店主が去った後、悠人は少し困ったようにCCに微笑みかけた。「困ったね。どうやら僕たちの『友達データ』は、他人から見たら基準値を超えているみたいだ。」
しばらくして、CCのホットココアは底をつき、悠人もゆっくりとブラックコーヒーの最後の一口を飲み干した。
「そういえば、あのネガのことだけど……」 「あ、ああ……親父と電話で話したよ。」 悠人は素早く答えたが、その言葉の不確かさと吃りに、CCはわずかな違和感を察知した。
「南部の建設プロジェクトがちょうど終わって、今は次の現場の準備中だって。君が映像を直してくれたって教えたら、よろしく伝えてくれって言ってたよ。」
「お父様は、お元気なの？」 CCが畳み掛ける。その声には、微かな、しかし逃がさないような鋭さが含まれていた。
「元気すぎるくらいさ。」悠人は笑って首を振った。その瞳は温かい。「あの人はああなんだ。家族よりも仕事が好きでね。もう何年も会ってないけど、あの性格はちっとも変わってない。だから、あのネガも、今の親父にとってはただの懐かしいガラクタみたいなものなんだろうな。直らなくても大丈夫だったんだよ、本当に。」
悠人は手を伸ばし、CCのマフラーについていた抜け毛をごく自然に払った。 その動作が優しければ優しいほど、CCの心の内の落胆は重くなっていった。彼女は目の前の男を見つめた。彼は無数の完璧なディテールを用いて、高い壁を築き上げ、彼女を真実から隔絶しようとしている。
「それなら、これを返すわ。」CCはバッグから、牛皮紙で幾重にも包まれ、「精密機器」のラベルが貼られた小さな箱を取り出した。 「お疲れ様、凜。本当に。」悠人は箱を受け取ると、中身を確認しようともせず、ザックの最底辺へと押し込んだ。
カフェを出た後、二人は再び駅で別れた。悠人は自分の完璧な演技に没頭し、CCが少し変わってしまったことに気づかなかった。
深夜、悠人の部屋。 一日中維持し続けた「完璧な仮面」を悠人は激しく剥ぎ取り、疲れ果てた様子で椅子の背もたれに寄りかかった。机の上の箱を見つめる。 本当は開けたくなかった。英雄の失墜、あの日の記憶を思い出すのが、心の底から恐ろしかったからだ。
だが、彼はついにそれを開けた。中にはネガも、USBメモリも入っていなかった。 ただ、綺麗に折り畳まれた真っ白なA4用紙が一枚。
悠人の動きが止まった。震える手でその紙を広げると、紙面の中央には、黒々と濃いインクでこう書かれていた。
「？」
その時、スマートフォンが激しく振動した。 CC：『ごめんなさい、悠人。お父様のことを話している時の、一秒にも満たないあなたの不確かさと躊躇を見てしまったわ。』 CC：『あなたが今日、完璧な「悠人」を演じようと必死だったのは分かっている。』 悠人は白紙を死に物狂いで掴み、爪が紙に深く食い込んだ。 CC：『今夜、古いストリートバスケットコートに来て。あなたのボールと、あなたが一日中隠し続けた真実を持って。』 CC：『ああ、それと。今日の午前中は、本当に楽しかったわ。』
窓の外では寒風が吹き荒れている。悠人は白紙を見つめた。徹底的に見透かされたバツの悪さと、十年間積み重なった哀しみが胸の中で爆発した。 彼は初めて気づいた。自分の目には理性的で可愛らしく映っていた少女が、最も残酷な方法で、最も優しい「拒絶」を突きつけてきたことに。
CCの今日の手帳
行動記録：8時間に及ぶ虚偽演習に参加。
感情修正：店主のおばさんに恋人関係を否定された時、論理はそれが正解だと告げていた。けれど、彼が父親の不在を否定した時、私は初めて「データ」に絶望した。
実験結論：優しさが嘘の上に築かれているのなら、その熱量はゼロである。
個人メモ：悠人、もしこれ以上嘘をつくつもりなら、私のロジックはあなたを完全に見捨てるわ。
