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千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる  作者: 桃月 とと


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第4話 街並み

 ユーリから、


「オレん家、骨董品店兼土産物屋兼下宿兼民泊をやってるんだ」


 と聞かされたメルディは、曖昧に笑って頭を傾げる。


(いやなんて!?)


 まだ出会って一時間も経っていないのに彼らの世話になる立場からすると、なんとなく強気でいくのは憚られた。


「あはは! ごめんごめん!」


 ユーリは笑いながらゆっくりと彼の家について語り始めた。

 彼の家は歴史地区の端にあり、元々は彼の曽祖父の代からアンティーク店を営んでいたのだが、観光地化が進むにつれお土産品も置くようになり、そのうち家族構成が変わって余った部屋に下宿人を置くようになり、さらに時代が変わって民泊も始めた、ということだった。


「歴史地区って?」


 メルディの時代にはそんな呼び名のエリアはなかった。丘の上から千年後のキルケの街を見下ろしながら、今度はエリオがざっくりと解説する。


「簡単に言うと、約九百年前から存在するエリアだな。旧市街地ってやつ。赤茶色っぽいエリア」

「言われてみれば確かにあの辺り、面影が残っているような……」


 メイン通りと呼ばれるあたりの道の形に、それとなく見覚えがあるようなないような……と、メルディは自信なさげに呟く。


「まあメルディは千年前の人だし、百年違うだけでそれなりに変わるだろうから」


 フォローのようなフォローでないような発言をしてユーリはメルディを慰めた。

 この街を好きとも嫌いとも考えたことなどなかったメルディは、薄っすらと感じる心細さの正体を考えあぐねながら街を眺めている。


(これが寂しいってこと?)


 そんな感情が自分にあるのかと客観的な自分が驚いていた。


「んで、川向こうの方はそれ以降徐々に開発されていったエリアだよ」


 こちらはニョキニョキと高い建物が生えている。海を見張るためかと思ったがそういうことでもないとすぐに説明があった。


(あんな塔の中でたくさんの人が暮らしていたり、働いているって……? 本当に?)


 ふーんと相槌を打ちつつも、イマイチ想像できないでいた。


「頑張って開拓したのねぇ」


 魔法使いがいてもあれだけの広さを開墾し、建物を建てるのは大変だということを彼女は理解している。


「千年前って、あの辺はなんだったんだ?」

「海側は開けてたけど、巨樹の(この)あたりは魔の森だし、川向こうもちょっと行けば森、森、そして森ね」


 今は見る影もないが。


 二人に連れられて丘を降りると、とても綺麗に舗装された少し広い道に出る。


(真っ平らじゃん! これってどうやって……)


 思わず屈んで地面を撫でる。丘から見下ろしていた時にもまさかここまでとは思っておらず、彼女は一人感動していた。このなめらかな道路なら、馬車移動が快適そうだ、と。メルディはもはや夢中になって地面をペタペタと触り、ざらざらとした触感を楽しんでいた。


「危ねぇ!」

「うわっ!!!」


 突然グイッとエリオに体ごと引き寄せられる。すぐ前を自動車がスピードを緩めることなく走り去っていった。


「レンタカーだねぇ~」


 ユーリも眉を顰めて自動車が走り去った方を見ていた。


(れんたかぁ? レンタカァ?)


 だがこの自動車。メルディから見ると、それはまるで鉄の鎧を被った魔獣だった。先ほど丘の上からも多く見かけた。剣を持たない人々と共にあるから安全なものだと思っていたが、『危ない』という単語からそれは違うのだと彼女は判断してしまう。


「二人とも下がって。ああいうのは放置してたら後々大変だよ。魔道具でも魔獣でも……あれってどっち?」


 どちらにせよ誰かが大怪我をする前にどうにかした方がいいと、手のひらに雷撃を貯め始める。バチバチッと漏れ出た電撃が花火のように飛び散った。が、あまりに唐突なメルディの行動にエリオもユーリも大慌てで止めにかかる。


「お、おい!?」

「ちょちょちょちょっと待って!?」


 なんで止めるの? と、彼女は落ち着き払ったまま二人の方を振り返る。ただし、電撃は手に溜めたまま。


「危険でしょ? 狩っておいた方がよくない?」

「よくないよくない!!!」


 二人ともブンブンと首を横に振る。エリオは真剣に焦っているが、ユーリの方は瞳の奥のワクワクを隠しきれていない。

 ここでメルディは、どうやら千年後の世界は色々とルールが変わっているということを感じ取った。


「とりあえず今はもう危険はないからそれ消せ!! 早く!!」

「わ、わかった」


 こくこくと頷いて、メルディは大人しく言うことを聞く。あまりに二人が焦っていることから、よっぽど自分はまずいことをしているのだと察したのだ。二人とも、周囲の誰かが見ていないかキョロキョロと心配そうに確認をしていた。


(こりゃあ迂闊に魔法を使わない方が良さそうね。ちょっと不便だな)


 エリオの方はすかさずメルディが納得できるよう、他の自動車を指差しながら、


「ちゃんと見ろ、あれは車……自動車って言って人が乗ってるんだ」

「馬車とかと同じ、乗り物なんだよ」

()()()だったんだ! 妙な気配だけど……便利なのができてるのね!」


 魔獣じゃなくてよかった、とホッとしている彼女とは違って、青年二人は曖昧な笑顔になっていた。


「……いや……まあその話はあとで」

「?」


 千年経っているのだ。常識から学び直さないといけない覚悟をメルディはこの時し始めていた。


「と、とりあえず、むやみやたらに魔法を使うのは控えてもらってもいいかな?」

「……了解」


 不本意ではあるが、親切にしてくれる人の忠告であれば話は別だ。


(郷に入っては郷に従え、ね)


 実際魔獣の気配も、身の危険を感じるものもなかった。


(異世界に来たみたいなもんだし、様子見くらいしなきゃ。暴れたと勘違いされて憲兵や衛兵の世話になっても嫌だし)


 そう自分を納得させる。


「家に着いたらゆっくりこの時代のこと、説明するね」

「そっちからも聞きたい事あるだろ」

「うん。ありがとう」


 歴史地区に入り、石畳を歩きながらユーリの家へ向かう最中、小さな車輪のついたキャリーケースをガタガタと言わせ楽し気に歩く多くの観光客がいた。


(魔法を使えないなら重い物を運ぶのに便利そうなカバンね)


 メルディは大きなリュックを背負っていた。彼女は先ほどエリオットが『魔法使いは絶滅寸前』と言ったことを忘れたわけではない。だが、単純に使える人数が少なくなったんだろう、とこの時はまだ楽観視していた。 


「観光客増えてきたな」

「いい季節だしね」


 団体を見ながら二人が話しているのをメルディは聞いている。周囲がチラチラと彼らを見たり、自身に不思議そうな視線を向けているのも感じていた。

 彼らを見ているのは、おそらくその見た目のせいだろう。女の子達が頬を染めてニコニコしている。ユーリもエリオも慣れているのか、少しも気にかけていないようだが。


(うーん。服も取り替えなきゃ目立つみたいね……素材を採取に行きたいけど、魔獣の気配もないし……どこで手に入るかな)


 あちこちに商店はあるし、先ほど通った広場で市も出ていたので、材料は購入するしかないかとメルディは思案していた。魔法使いといえど、材料がなければ服は作れない。


(シンプルだけどみーんな上等な服を着ているし、いい素材が出来たんだろうなぁ)


 当たり前だが、ファッションも大きく変わっていることにメルディは落ち着かない気持ちだった。


 長年住んだ自分の街を、あの車輪付きの鞄を引く彼女達と同じようにキョロキョロとしながら歩き続ける。メルディのブルーグレーの長い髪がすれ違った観光客の笑い声と共に靡いた。


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