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千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる  作者: 桃月 とと
第二章 師匠の墓はどこ?

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第21話 入り口はどこ?

 新月の闇に晒された核は、夜ごとにその深みを増していき、内包されていた星の輝きは徐々に鎮まっていった。だが覗き込むと、そこにはやはり無数の光が秘められている。


「エリオはこれが気に入ったんだね」

「見てて飽きないからな」


 今からこれを使って布を染めるのだが、彼がちょっともったいない……と思っているのがメルディにもユーリにも伝わって来た。


「水に溶かすのか?」

「ううん。だから余ったらあげるよ」

「?」


 最初はどういう意味か分からなかったエリオ。その隣には予習しているためちょっと得意顔のユーリが並んでいる。

 メルディは自室のテーブルに布を広げ、エリオから受け取った深青の核を軽く握り、


「この核ははね、魔力で溶かすんだ」


 ゆっくりとその核で布をなぞった。


「あ……」


 じわりと広げられた布に夜の闇が染み渡り始める。メルディは黙ったまま、ずっと同じ動作を続けていた。額から汗がにじみ始めた頃、


「ぷはぁ」


 今日はここまで……! と倒れ込むように椅子に座り込んだ。


「お疲れ。めちゃくちゃ魔力がいるって読んだけどやっぱそうなんだ」


 自分が調べた通りなのかユーリが確認を取りながら、メルディに冷たい水を渡した。


「いるいる! めちゃくちゃいる! ……けどここ適当にやっちゃうとせっかくいい材料揃ったのがパァになっちゃうからさ」


 大変なんだよ~と言う割に表情は明るい。結局その後三日かかって、メルディは布を美しく染め上げた。ついにアルカ布の完成だ。


「小さくなっちゃったけどどうぞ」

「いいのか!? ……ありがとう!」


 小石ほどになった核がエリオの手のひらの上にコロンと転がる。彼はメルディが初めて見る、まるで子供のような満面の笑みを浮かべていた。よっぽど嬉しかったようだ。


「いいなぁ!! 次はオレにちょうだい!!」

「いいよ。次、なにかあったらね」


 遠慮のないユーリにメルディは声を出して笑った。こういう関係が最近とても心地いい。


「この後はどうやるんだ?」


 笑顔が残ったままのエリオが、小さな核を覗き込みながら尋ねる。


「あとはアラクネの糸を紡いで、それで縫製して、さらに魔術紋の刺繍もして、ボタンを付けて完成かな」


 根気のいる手作業が続く。だが、完成は見えてきた。


「そろそろミスティリオンの入り口探さなきゃな~」


 せっかくローブが出来上がっても、目的の部屋が見つからなければ意味がない。


「検討はついてるの?」

「ついているような……ついていないような……」


 歯切れ悪いメルディは苦笑いをしながら、


「そろそろ師匠がなにか仕掛けてきそうなんだよねぇ……最近妙な気配を感じてて……」


 さあこれから大変だと覚悟を決めつつ、やれやれまたかという気持ちが漏れ出していた。ローブ作りは魔力も神経も使う。そこに横やりを入れてくる(負荷をかけてくる)のが、いかにもマグヌスらしい。

 

「そういや昨日、急に犬みたいに頭を上げてキョロキョロしてたな」

「うん。ちょうど染色が終わったタイミングで窓の外から妙な視線を感じたんだ」

「まさかマグヌス本人!!?」


 ユーリの声が自然と大きくなる。彼はマグヌスがまだ生きているかもと、少しどころかかなり期待していた。なんせセフィラーノもまだまだ現役なのだから。


「いや、自分の墓探せってヤツがそこにいることはないだろ」

「師匠本人だったら、隠れようと思えば絶対に見つけられないと思う」


 冷静に返されるも、ユーリのテンションはどんどん上がっていく。


「けどメルディがそう感じるならマグヌス関連なのは確実だろ? 最近息をひそめてたって感じだから楽しみじゃない!?」

「楽しみぃ~!?」


 批難するようなメルディの声にユーリは笑いながら、ごめんごめんと謝罪した。


「材料集めてる間は何もなくてよかったな」


 同じく笑っていたエリオは、そのことが密かに気になっていた。メルディが千年後の世界にやって来てから、ちょこちょこと発生していたマグヌス騒動がピタリと止まっていたからだ。


「うーん……これはあくまで想像なんだけど……師匠、私がノアさんにマンドゴラを渡すのを待ってたのかも」

「なんで!?」 

「そもそもそんなことまでわかるもんなのか?」


 エリオと同じ疑問をメルディは感じていた。そこで千年前のマグヌスの行動を思い出し、もしかしたら……くらいの理由を見繕っていたのだ。


「あのハチャメチャやってる師匠が、このキルケの街に住み続けられたのってさ……」


 メルディは声を潜める。もしかしたらどこかで本当にマグヌスが話を聞いているかもしれない……と急に不安になったからだ。


「……病人の治療は嫌がらなかったからなんだよねぇ~」

「それ知ってる! 確かに、マグヌスのキャラじゃないなって思って気になってたんだよ!」


 ユーリの目がいつもの三倍は大きくなっていた。これまで彼が文献で知った気になっていたマグヌスの人となりと、弟子(メルディ)から聞いたマグヌスのエピソードを合わせてどう解釈すべきかしょっちゅう悩んでいたのだ。


「貧しい人からお金もとらず治療した。薬も与えたって記録が残ってるって」


 メルディから聞いた傍若無人なマグヌスに見合わぬ話だ。


「……そのことに文句言ってきた薬師とか他の魔法使い達相手に暴れなきゃ……なおよかったんだけどね……」


 遠い目をしたメルディの方を、エリオは気の毒そうにポンとたたいた。


「それから。これも勝手な想像なんだけど、この卒業試験、セフィラーノさんが一枚嚙んでるんじゃないかなぁ」


 監督役としてなのか、ただこの試験に介入しているだけかはわからないが。


(私がマンドゴラ採取に行ってる最中に時空転移したってこと知ってたら、マンドゴラを持ってる可能性は考えられただろうし)


 考えすぎ? と思いつつ、メルディは疑り深くなっていた。


(自分は卒業試験を手伝わない! って言った時も妙に演技がかってたし)


 いつも通りといえばいつも通りではあるが、わざわざ宣言したことがメルディは気になっていた。


「そういえばノアさん。昔セフィラーノさんと一緒にアンティークスに来たことあるって言ってたな」

「うーん……一番最初のマグヌスの手紙の出所もわからないままだしね」


 エリオとユーリも、その可能性はあると思ったようだ。


「今度会ったら聞いてみよ! セフィラーノさん、嘘は苦手そうだし。しつこく聞けばボロでそう」


 答えが聞けたところで、何が変わるわけでもないのだが。

 出来上がったばかりのアルカ布を丁寧にたたみながら、メルディは改めてこれからのことを考え始める。


「ミスティリオンの入口は屋敷からそう遠くないところにあると思うんだよね。だからとにかくキルケの街を徘徊して、師匠がなにか仕掛けてきたとこが正解かなって……」


 我ながらなんて大雑把なやり方だとメルディはもちろんわかっているが、どうしても次につながるキッカケがなかった。すでに時間が許す限りあちこちと歩いてはいるものの、成果は得られていない。


「転移魔術でミスティリオンに入れるんだよね?」

「対になってる魔術紋がいるって魔術だっけか?」 


 そうそう、とメルディは頷いた。マグヌスが使う転移魔術用の魔術紋のデザインは知っているので、それを見つけなければならない。


「師匠と全く関係のない場所にはないとは思うから、そのうち見つかる……はず」


 少々自信なさげに窓の外を見ていた。ユーリとエリオは顔を見合わせ、


「そしたらさ! オススメの本があるんだけど読む? マグヌスに所縁のある場所が網羅されてて」

「トレハン用にまとめたマグヌス関連の地図データもどっかにあったな」

「あーあったね! それと合わせたら話が早そう」

「ちょっと部屋戻って確認してくるか」


 見習い魔法使いを励ますようにアイディアを出し合っていた。

 ビックリするように目を見開いて聞いていたメルディは、フッと笑って、


「ありがと! 二人がいてくれて心強いよ」


 その瞬間、胸元の鍵が、ほんのりと熱を帯びた。

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