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千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる  作者: 桃月 とと
第二章 師匠の墓はどこ?

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第16話-2 受け継ぐもの

 暖炉の前のソファに腰かけ、記録石を手のひらに、セフィラーノは思い出を巡らせた。

 キース・ロヴェナは三百年、彼の弟子だった。マグヌスにゆかりの深いキルケの街では珍しく、彼のライバルであるセフィラーノ・アルベリーニに師事し、実直に魔法を学んだ。


(プライドは高いが、誠実で生真面目な子だったなぁ)


 キースは戦時中、ロヴェナ家の私財をなげうってキルケの街を守っていた。マグヌスの遺産が壊されてしまわないように。貧しさに負け、遺産の一部が持ち出されたり、取り壊される可能性すらあったからだ。


(あれは私の為にやってくれていただろうに)


 師であるセフィラーノが『マグヌスの墓を探す者』を待っていることを、彼は知っていた。それ故、少しでも繋がりがあるものを守らずにはいられなかったのだ。

 だからロヴェナ家の再興費用をセフィラーノは何も言わずに渡した。キースのプライドを考え、便宜上は『貸付け』ではあるが、返すのはいつでもいいからと伝え、一切催促しなかった。


「君の子孫の声が君にそっくりでねぇ。これを受け取った時に会ったんだが、緊張している時の表情もそっくりで思わず頭を撫でたくなってしまったよ」


 チラチラと光り始めた石に話しかける。 


『先生、お久しぶりでございます』

「……!!」


 セフィラーノは驚きのあまりソファから立ち上がった。聞いていた話と違う。記録石には、キースが子孫へ向けてのメッセージが録音されていたはずだ、と。


『さぞ驚きでしょう! とっておきの記録石です。先生やマグヌスのように人の姿を映し出すものは作れませんでしたが、魔力の違いを感知して再生される音声を変えることができるのです』


 なんとも誇らしげな声だ。久しぶりの声が聞けただけれも嬉しいというのに、こんなサプライズが用意されているなんて、セフィラーノは目尻がすっかり下がってしまっていた。

 キースは当たり前ではあるが、一方的に話を続けた。返済が遅くなったことへの謝罪や、彼が当時力を入れていたキルケの街の復興について、そして思い出話を一通り話したところで、一呼吸おいて少しトーンが変わった。


『先生……もう会えないから言えることなのですが……我々弟子達は皆、先生のことを心配しているんです。いつか先生が抱えきれなくなるんじゃないかって』


 はて? と、セフィラーノは首を傾ける。思い当たる節がない。


『先生は寂しがり屋ですから。弟子を()()()度に大泣きをしているし……我々じゃどうにも最期まで先生にはついていけませんし……』


 現代最強の魔法使いの目に涙が溜まり始める。キースのメッセージの通り、彼はこれまでにたくさんの、本当にたくさんの弟子の死に立ち会っている。


『魔法使いの数が減り、力も弱まってきている今、先生の……魔法使いの行く末を見守るという使命感は理解できます。それに、好敵手マグヌスの墓を見るまで、彼の死を受け入れないという硬い意志も』


 でも、と話は続く。


『我々弟子を頼ってください。どんなことでもいい。先生が我々をいつも案じてくれているように、我々も先生がいつも自信満々で陽気でいられるよう願っているのです』


 このメッセージの声は確かにキースのものだったが、メルディ達が聞いた声とは実は少し違った。しゃがれた、老人の声だった。


『先生を置いて逝くのが、私はなにより心残りで……いえ、借金の件もそうですが……ほら、一昨年ドミニクの葬儀での先生の落ち込みようを見ていますから……』


 記録石はまだ再生中だ。だが、キースは黙りこくっている。本当に彼にとって師のその後が気がかりなことなのだ。


「ああ……今でも君に会えないのが寂しくて仕方がないよキース……」


 届かない言葉をセフィラーノは力なく呟いた。そしてまるでタイミングを見計らったように、 


『いやでも、今の先生の弟子達がきっと支えてくれるでしょうね。皆先生を好いていますから』

「……!!」


 朗らかな、そしてどこか確信しているような声だった。 


『では。先にアチラへ行って待っております。出迎えは期待していてください』

 

 よい人生を。という言葉を最後に記録石の光が石の中へと戻って行った。


「……終わりましたか?」


 小さなノック音の後、レンが部屋へと入って来る。ボロボロ涙をこぼし、鼻水をすすっている師匠にタオルを渡した。


「先生は本当に弟子達から好かれてますね」

「こっこれ以上泣かせないでくれっ!!」


 現代最強の魔法使いという威厳はどこにもないが、見習い魔法使いの前でセフィラーノ・アルベリーニは子供のように泣いた。

 キースの言う通り、セフィラーノはいつでも独りではなかった。



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