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千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる  作者: 桃月 とと
第二章 師匠の墓はどこ?

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第8話 探し物

 朝晩肌寒い日が増えてきた。買ったばかりの柔らかなカーディガンを羽織り、鏡の前に立ったメルディは、随分と自分が千年後の世界に馴染んたと感じていた。


(あの服ももう着る機会ないかな……)


 クローゼットにしまってある、メルディが千年前の世界で着ていた服やマントは彼女の魔術によって綺麗な状態で保管されていた。

 彼女は物持ちがいい。元々孤児だった彼女は、レオナルド・マグヌスに拾われ初めて清潔な衣類を着て過ごした。まだ小さかったメルディに乱暴に与えられたのはぶかぶかのワンピースの上に、品のいい金色の、細かな魔法陣が刻まれたボタンがついた屋内用ローブ。そのローブはマグヌスが錬金術で作った特別なものだった。


(まさか雨風しのげる屋敷の中があんなに危険でいっぱいだったなんてね~)


 その時の事を思い出して、メルディには苦笑いが浮かんでいた。

 屋敷内ではマグヌスが使った魔術や、錬金術、魔道具なんかが弟子達に()()()することがよくあり、未熟な見習い魔法使い達がいつも泣きを見ていたのだ。

 その頃はまだメルディには兄弟子、姉弟子がおり、彼らが面倒くさがるマグヌスに泣きつき何とか手に入れた魔術に対する生活用の()であり()だった。とはいえ、多少は緩和されるといった程度ではあったが……。


 メルディはその衣装をずっと大切に扱っていた。

 いつの間にか背が伸びた彼女は、ワンピースに関しては自分でリメイクしたが、錬金術で作られたローブはそうはいかなかった。だから千年後のメルディがしているよう、保護魔術をかけ衣装棚の中で保管していたのだ。

 だが、それがいつの間にかなくなっており、彼女にしては珍しくウジウジと凹んでいた。

 おそらく、横暴なマグヌスに耐えられなくなった兄弟子か姉弟子が持ち出したのだと推察されたので(残念ながら他にも色々となくなっていたのだ)、メルディは取り返そうと珍しく鼻息を荒くしていたのだが、


『僕の弟子がそんなみみっちいことをするな!』


 というのは建前で、マグヌスはその特別な力を持つローブを、メルディ自身に作らせる口実にしたのだった。

 自力で取り返しに行け! と言われるとばかり思っていたメルディは拍子抜けしたのが、ローブ作りは難航し、結局納得のいく出来になったのは、最後に作ったものだった。それを更に改良し、今ある屋外用のマントを作り上げたのだ。


(材料をそろえるところからあんなに苦労するとは……!)


 その時の苦労が顔に浮かんだまま窓の外を見る。フォリア・アンティークスの前の通りは、今日も観光客でにぎわっていた。


(この時代って、そもそも材料が揃うのかな?)


 アンティークボタンを、どうやったらより魅力的に見えるか考えながらメルディは並び替えていた。どれも小さな小箱に入れられるほど貴重なものばかり。この街で作られたものが多いのは、かつて魔道具を作っていた工房が魔法衰退と共に様々な工房へと変わっており、その中のいくつかの金属細工工房が作ったものは特別人気があったからだ。


「あ! じーちゃんに言われてたガラスボタン出してないや! ちょっと取って来るね」


 ユーリがバックヤードに入って行ったのと同時に、店のドアベルが控え目に鳴って背の高い女性が入って来た。まっすぐにメルディの方へと向かって来る。


「すみません。アンティークボタンを見せていただきたいんですが」

「もちろんどうぞ」


 女性から、ウキウキとした気持ちが伝わって来る。オークション帰りとわかる紙袋も持っていた。


「なにかお探しのモノでも?」


 メルディはまるでベテラン店員のような振る舞いで声をかける。最近、店主とユーリからレクチャーを受けたのでちょっぴり自信を持っていたのだ。


「カリオス工房のものってありますか? それかヴェルトロ工房と……エスティ工房が作ったのでもいいんですが!」

「あ、ええっと……」


 どうやらメルディの遥か上を行く知識を持ったコレクターだと瞬時にわかり、一瞬目が泳ぐも、 


「どちらもありますよ!」


 にこやかな掛け声でユーリが奥から戻って来た。まさにちょうど、彼女が名前を上げたアンティークボタンをいくつか持って。


「うそ! あるんですか!?」

「ええ。どれも」


 フォリア・アンティークスにはお土産として持って帰れそうなサイズのアイテムが多い。そのため小さなアンティークボタンは積極的に買い付けていた。


「わぁ~~~~!!」


 感嘆の声を洩らしながら女性は夢中でそのボタンを見つめていた。メルディがこの仕事をしていて一番好きなシーンだ。誰かの小さな幸せの瞬間に立ち会っている気がする。


「薬草レリーフ可愛い~! ピクチャーボタン……キルケの街って感じ……これ、魔法使いの寓話のやつですよね? ガラスボタンもめちゃくちゃ色が綺麗だし……!」


 どれも欲しい困ったなぁと言いつつも、女性の顔はフニャフニャと緩んでいた。ここで、メルディお得意の一言だ。


「カード払いも対応してますよ」


 これでお客の心は決まった。


「来てよかった! このお店には一回行ってみるべきだってネットの口コミにあって……うぇええっ!?」


 女性はたまらず声を上げた。メルディが小箱を三つ、綺麗な包み紙でラッピングしていたからだ、魔術で。そしてその瞬間、いい値段のするアンティークボタンを三つも買った彼女はその口コミの本当の意味を理解したのだった。

 だが、彼女は観光客としては珍しくそこから興奮することなく、鞄から小さなケースを取り出した。


「あの……これを鑑定していただけますか? うちに代々伝わるアンティークボタンがあって……」


 急に真面目な表情になった彼女は、それをユーリではなくメルディに手渡した。


(ん?)


 手にして初めて妙な気配を感じ取ったメルディは、普通ならユーリにまわすところ自分でそのケースを開く。


「あれ!? これって!!」


 中には金色のボタンが入っていた。アンティークというわりにはとても綺麗な状態だ。


(私のだっ!!)


 それも、一番最初にマグヌスに貰ったローブについていたボタン。ボタンの右端が少し歪んでいて、裏側に二ヵ所傷がついている。どちらも《《飛び火》》のせいだ。

 メルディの指先が触れた途端、刻まれた魔法陣をなぞるかのように、ゆっくりと小さな光が動き始めた。


「……やっぱり!」


 その女性は今度は突然頭を下げる。


「いつか、それを持ち主に返すよう代々伝わっていたんです! まさか私がその役目を担うなんて……!」


 それから彼女は大昔の――それこそ千年前の先祖の非礼をメルディに詫びた。すでになぜそのボタンが持ち出されたのか理由はわからなかったが、ただ子孫にどうにか返して欲しいという気持ちだけが伝えられ続けていたのだ。


「確かに、受け取りました。どうもありがとうございます」


 こうして千年の時を経て、探し物はメルディの元へと戻って来たのだった。


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