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千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる  作者: 桃月 とと


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第12話 仕分け

「見て見て~遺物審査局から戻って来たよ~~~」


 ご機嫌な声を店内に響かせてユーリが外から戻って来た。エリオと二人、それぞれ木箱を腕に抱えいる。


「今回はどうだったんだい?」


 孫の嬉しそうな声につられてダルクもウキウキとしていた。


「いい感じ! またあとでチェックして~」

「メルディも来いよ」

 

 エリオの誘いに返事をする前にメルディは雇い主の方を確認した。視線の先でダルクはすでにウンウンと頷いている。なのでそのまま二人の後に続いてバックヤードへと向かった。まだ店に出していない品々が保管されている部屋だ。


「これは三か月前くらいに出て来たやつなんだ~」

「今回はわりと早かったな」


 遺物審査局では出土品を一度回収・調査し、一定の基準を満たなかった物に関しては発見者に返還され、今後の扱いを委ねられる。危険性が低く、学術的価値が薄い物がそうだ。


「ということで、楽しい仕分け作業を始めま~す」

「仕分け?」

「この店に出す分とオークションに出す分にわけるだ」

「ああ! この間言ってたやつ!」

「そうそう」


 二人は箱からそれぞれ取り出していく。ガラス瓶、植物模様が描かれた薄い金属板、装飾鍵、魔獣の牙に爪のペンダント、店でよく売れるガラスの指輪、銅貨、扉の取っ手……。


「ガラクタって言うの禁止~~~!」

「言わないよ! これでも人気アンティーク店の店員だも~ん!」


 メルディの表情を読み取ったユーリが茶化すようにしていたので、メルディも同じく茶化すように返す。


「さて、どうすっかな~」

「とりあえず小瓶とガラスの指輪はお店よね?」


 小さな可愛らしいフォルムの小瓶は年代問わず人気があり、一人のお客が複数個購入することもよくあった。


「そうそう。そんな感じで分けていくよ~!」


 この作業はそれほど時間はかからなかった。フォリア・アンティークスで売られているのは日常生活に馴染む品物が多い。


「鍵ってさ。片方だけじゃダメじゃない? 錠前とセットというか……」


 グリフォンが象られた鍵を手に、わかっているのについ口に出してしまったメルディ。直後に、あー! っと自分の手で自分の口をふさぐ。


「実用性とは別の価値があるんだよ~」

「いやそう……そういうことだよね……うぅ……口が滑っちゃった……」

「頼むぞ人気アンティーク店の店員~」


 今度はエリオも面白がってメルディを揶揄う。だが、ふと思い出したように、


「でもまあ、メルディのその鍵は対になる錠前があるんだろうな」


 そう言ってメルディの胸元に揺れる鍵に視線を移した。マグヌスの手紙と共に変化した鍵だ。


「どこで使うのかなぁ~危なくないといいんだけど」

「……」


 二人はこれまで、メルディがちょこちょこ大魔法使いレオナルド・マグヌスについて不穏な言葉を呟いても冗談だと受け取っていた。だが、つい先日二日連続で彼の作った魔道具に遭遇し認識を改め始めたので、彼女の感想に対して適切な返事が思い浮かばない。


「……あのマグヌスの魔道具、大発見だって大騒ぎになってるらしいよ」


 気を取り直すようにユーリがあの騒がしい銀色の小箱のその後をメルディに教える。


「そっか。千年後に動く魔道具ってほとんどないんだもんね」

「それもあるけど、やっぱりマグヌスは人気があるんだ。なんたって千年後に名前が残る大魔法使いだからね」


 一種の”ブランド”だな、と小さく呟くエリオの声も耳に届いた。


「千年前の師匠に教えてあげたいわ~あっちこっちと喧嘩してたから……」


 メルディは肩をすくめて笑った。ただし、例え知っていたとしても態度を改めるような人間ではなかったが……。


「ブランドで思い出した。そのグリフォンの鍵、人気があるシリーズでコレクターも多いからすぐ売れると思うぞ」


 エリオの箱からもう一つ、こちらにはケルベロスが(かたど)られた鍵が入っていた。どちらもエルドラン工房という名門鍵工房の商品で、かなり装飾にこだわった鍵を作っており、世界中にファンがいるのだ。


「エルドラン? 鍵工房って……あれ? 魔道具工房じゃなくって?」

「ああそっか! 確かエルドランは鍵工房の前身は魔道具工房だったね~! 元々そういうのが得意だったのかも」

「確かに。デザイン凝ってたわね、あの工房……」


 エルドランといえばメルディからすると魔具師と共同で魔道具を作る腕のいい職人が集まる工房だ。仕事も早く、特に細かい作業に定評があったので、魔道具が作られなくなった後もいい評判が続いたのも納得だった。


「エルドランの魔道具は壊れててもアホみたいに高い値段が付くけど、滅多に出てこないからな」

「今度のオークションにエルドランの魔道具が出るって聞いたよ。……行ってみる?」

 

 二人はチラリとメルディの方を確認した。彼女にとってもう戻れない世界の思い出に触れるようなことをするのが良いことなのか悪いことなのか……最近ではよくわからなくなっているのだ。メルディがその時代のなにかに触れると、ぼおっと考え込む姿を見たかと思えば、マグヌス屋敷の時のように前のめりで行きたいと希望したり……。

 

「面白そう~! 行ってみたい!」


 だから興味津々のメルディを見て、二人は内心安堵したのだった。


◇◇◇


「うそだ!!! エルドランの”魔獣”シリーズがある!!! しかも二本!!!」   


 グリフォンとケルベロスの鍵を店に出した翌日、一人の観光客がショーケースに入れられたそれを見て、驚きの声を上げていた。妻に連れられ特に興味がなさそうにこの店に入ったようだが、予想外の発見に興奮を隠せない。


「昨日入ったばかりなんですよ」


 さっとメルディはショーケースから取り出し、観光客の前に二本とも並べた。


「いや……ずいぶん可愛らしい見た目の店だったから油断したよ」


 メルディに断ったあと、男性はその鍵を手に取りしげしげと眺め始めた。


「ああこの細かい刻印……状態もいいな……」

「わりと最近見つかったばかりなんです」


 欲しくてたまらないのだろう。男性は熱い視線を二つの鍵にぶつけている。


「あらあなた。いいのがあったじゃない。そのシリーズ集めているでしょう? しかも二つとも持ってない()ね」


 一緒にやってきた妻がニコニコと夫の手の中を覗き込んだ。


「いやでも……流石に二つ一度に買うのは……」


 このエルドランの鍵、人気故にいい値段がするのだ。


「次に見つかるのがいつかわかりませんよ」

「私もそう思います」


 まさかの妻が積極的に夫に売り込み始めたので、メルディはすぐにそれに乗っかる。


「いいのかい……?」


 恐る恐る確認を取る夫に、妻は美しい笑顔で答えた。


「もちろん! 私もあっちのショーウィンドウに飾っていた大ぶりの水晶のイヤリングを買おうと思っているし。なんせ次にあんな素敵なものに出会えるのがいつになるか……」

「そ、そうきたか~~~!!」


 男性はギュッと目を瞑って妻の方を向いていた。そうして、


「この店、カード使えるかな……」

「もちろん!」


 ということで、その日の売り上げはなかなかいい具合になったのだった。



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