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第11話 トレジャーハンター

 ぴょんぴょん跳ねる小箱騒動の翌日、メルディは元職場兼修行場兼家でもあったマグヌス屋敷の跡地に来ていた。今では公園となっているこの跡地は、石を積んだ屋敷の基礎だけが残っている。


(本当に千年経ったのね……)


 ほんの少し前までここに住んでいたメルディは、そこにあったはずの扉の前に立ち尽くしていた。


「大丈夫か?」

「意外とね。お陰様で仕事も住む所もあるからかな」


 これまでなんとなく避けていた場所。とんでもない修行で大変な目にあった思い出の地でもあったが、メルディにとっては唯一の帰る場所でもあった。それがなくなっている姿を見るには少しばかり勢いが必要だったのだ。だから、


『トレハンの仕事!? 見てみたい!』


 という勢いに乗ってここに来た。頼りになる二人も一緒なら心強くもある。彼らはこの日、元々発掘現場で仕事の予定だったのだ。


 このキルケの街で最も盛んな”副業”はトレジャーハンター――トレハンと呼ばれるものだった。この街でのトレジャーハンターの仕事といえば、基本的には発掘調査に加わることを指すが、世界的見ればその名称通り、お宝探しを生業とする仕事だ。


「トレハンの資格?」


 メルディがまず引っかかったのは『資格』という概念から。


「免許皆伝ってやつだな。魔法使いみたいに師匠から杖もらう代わりに資格が貰えるんだが」

「子弟制度とは違うけどねぇ。個々人で勉強して試験で合格すればトレジャーハンターとして働けるんだ」


 今でも多くのお宝が眠っていると言われるこの街は、地面を掘る度に遺跡が出てくる。その遺跡の中には今でも高値で取引される”遺物”がしょっちゅう出てくるのだ。しかもその遺物は全てが現代人にとって安全とは言い難い。それ故、今では最低限の取り扱い方法を学んだ者だけが発掘作業に加わることが許されていた。


「とりあえず出て来た物は全部遺物審査局に回すんだ。昨日みたいな動く魔道具とか学術的に珍しい遺物なんかは、全部そのままさらに調査収集されんだけど、壊れた魔道具の破片とか、よく出土するガラス指輪なんかは発見者のとこに戻ってくんだよ」

「で、それをオークションへ出品したり、うちみたいな骨董店に売ったりできるんだ。もちろん、トレハンの資格持ちだけね」

「おーくしょん……」


 トレジャーハンターの資格は全部で三種類。三級はそれほど難しくなく、この街に住む多くの人が持っている。だがユーリとエリオが持っている二級ともなると、発掘現場を仕切ることもあった。さらに一級は国内でもほとんどおらず、保有者は大学教授や専門の研究者レベルとなる。


 ロープで張りされた発掘区画には老若男女様々なトレジャーハンターが各々持ち場で作業を開始していた。ここは最近調査が進んだエリアで、昨日アンティーク店で暴れまわった魔道具が発見された場所でもある。


「屋敷の倉庫部分だって聞いてるんだけど……」


 ユーリが伺うような視線をメルディに向けた。答えを知っている人に聞いてしまおうということだ。


「倉庫というか、ガラクタ置場だったよ。少なくとも私が居た時は……」


 面白半分で作った魔道具や、失敗作を押し込んでいた場所だ。メルディからすると価値の高い物がある部屋には思えなかったが……。


「マグヌスの屋敷は不思議なことになかなか調査が進まなくって」

「魔力痕が残ってるからなかなか手ぇ出しづらいんだ」

「あ~~~なるほど……」


 これがレオナルド・マグヌスが大魔法使いと言われる所以でもあった。千年経ってもその力を残しているのだから。


 三人が向かう先に、マグヌス屋敷の見取り図を手に難しい顔をした眼鏡の男性が見えた。メルディと目が合った瞬間、口を大きく開ける。


「ロラン先生! 昨日電話で説明したメルディです」

「あ! ああああああ! ああ、こ、こここれはこれは……!」


 調査エリアの近くに張ってあったテントで、ユーリが今日の責任者にメルディを紹介する。こころなしか得意気に。


「初めまして。今日は突然すみません」


 最近ではメルディの存在を知って慌てふためいている人も見慣れてきた。どう反応するのが正解か迷って、結局は何食わぬ顔をするしかない、と皆が息をのんだ後呼吸を整えるのだ。だが、このカミーユ・ロランは違った。反応がユーリに似ている。


「こちらこそ来てくれて本当にありがとう! メルディさんから来てくれたことは我々にとって本当にありがたいことなんだ。なんせ国際法があるだろう? こちらからは依頼を出すわけにはいかないし、答えを知っている人に意見を聞くことするら難しいなんて。いやね、最近ではもう少しこの辺どうにかならないかっていう……」

「先生~~~」

「あ、すまない……つい……」


 鼻息が荒くなっていた自分を落ち着けるよう、ロランは何度も大きく深呼吸をした。


「ロラン先生は俺らの大学の助教授なんだ。マグヌス関係が専門だから、メルディの噂ぐらいは聞いてたみたいだな」


 小声でエリオが耳打ちする。


「私、噂になってる?」

「そりゃな。ただ表立って話す人間はいねぇよ」


 だからこそロランが言うように、メルディからのアクションはその道の研究者からすると舞い上がって喜んでしまうような出来事なのだ。


「メルディさんの家なのに申し訳ないんですけど……遺物……失礼! その、見つかった物はこのテントで僕が確認するまではお手を触れないよう……」

「法律は守ります……!」


 掘り返された倉庫跡地に入って、ロランが眉を八の字にして声が小さくなっていた。この発掘現場の住人に本来では言うことではないと思っている。

 メルディの方は法律は平等なのだから、見習い魔法使いである自分にも平等、つまり法律違反をすれば処罰される、と少々ビビっていた。


 少々おこがましいのですが……と前置きをして、ロランが発掘現場を案内する。


「私が本当にマグヌスの弟子だって信じてくださるんですね」


 作業中のトレハン達がメルディが近くにくると、ニコリと微笑みを向けていた。メルディはちょっと照れながらも同じく笑顔を返す。なぜだか無条件の敬愛を感じ、嬉しい気もするが、同時にちょっと居心地が悪い。慣れない感覚なのだ。


「ええ。まあこの時代に突然単独で魔法使いが現れること自体がすでにありえないことですし。魔法学の研究者達の間ではメルディさんの存在はずっと噂されてたんですよ」

「え!!? そうなんですか!?」

「ええ。当時の空間異変の記録から、”弟子が時空転移災害に巻き込まれた”というマグヌスの記述は信憑性が高いと言われていましてね。ただいつの時代に現れるのかっていうのが論争の中心になってて。……まあ答えが出ましたけどね!」


 ハハハと笑いながら、ロランは作業員に指示を出していた。他の土と混ざって色にムラが出ている地層があったのだ。

 今日出て来たのは人間サイズの古代魔獣の骨に、錬金術用の実験器具だった変形した鍋、あっちこっち欠けたビー玉サイズの水晶……。


(なんか恥ずかしい~! 全部使えないのに捨てられなくって倉庫につっこんでたやつだ……)


 それをどううまく伝えるか、メルディは悩ましい顔をしている。慎重に丁寧にその品々を運び出している作業員達は誰も彼もが嬉しそうに彼女には見えた。


「別に千年前にガラクタでも、千年後にはお宝だったりするからいいんだよ。あの店(アンティークス)にいりゃわかるだろ」


 こっそり相談したエリオはいつも通りざっくり断言した。


「うーん……なにをガラクタ扱いにしたかってのも歴史的資料だしねぇ。なにより『マグヌス』のってだけで価値が出てきちゃう世界なんだよ今は」


 ふふふっとユーリは意味深に笑っていた。


「な、なるほど……」


 目から鱗が落ちたようにメルディは納得する。それでやっと薄っすらと身体にまとわりついていた罪悪感が消えていくのを感じた。


「あっそこ! 気を付けてください!」


 夕方、メルディは土の奥に薄っすらと魔力の気配を感じた。近くにいたロランに慌てて声をかける。まだ若い助教授は、見習い魔法使いの発見にまたもテンションを上げていた。魔力の気配を感じると言うことは、魔法使い関連の発掘現場で大人気のアレの可能性が高い。


「魔道具ですね!!?」


 周囲の作業員達もぞろぞろと集まって来た。メルディが指さした周囲の土を慎重にはらっていく……。


「あ……」


 ひょっこりと現れたのは鈍く光る銀色の小箱。


「うわっ」

「あーそれ! 鍵のあたり触っちゃダメですよ!!!」

「もちろん!」


 エリオとユーリが焦っていたが、ロランの方は心得ているとばかりに自信たっぷりな表情。だが、


――ガンガンガンガンガン!!!!!!!!!!


 ほんの少し触れただけで、これでもかとばかりに小箱は大音量を奏で始めた。もちろんぴょんぴょん飛び跳ね、ロランを小突き回すのも忘れない。


「失敗作もしまってた場所なんです!!!」


 耳を塞ぎながらメルディは大声で叫んだ。が、誰も聞こえていない。

 慌てて昨日と同じく、えいっと制止の呪文を唱え、小箱は動きを止めた。


「なんて素晴らしく貴重な体験だろうっ!!!」

  

 鼻血を出しながらロランは満足そうにうっとりと微笑んでいるのを見て、メルディは千年後の感覚に慣れるかちょっぴり心配になるのだった。



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