第7話“魔王”と灼熱の魔神
空から現れた黒衣の男は、まるで旧友に会ったかのように微笑んだ。
「おー!カイじゃーん!久しぶり! なんかすごいことになってるねぇ?」
この場にそぐわないほど、軽快で明るい声。
その男の名は——“魔王”ハジメ。
だがその呼び名とは裏腹に、彼の瞳はまっすぐで、屈託なく人を信じる色をしていた。
かつて異世界に転生した彼は、他の転生者とは異なる道を選んだ。
彼が最初に出会ったのは、荒野に潜む無法者たち。
力こそが全てと信じる者たちに囲まれながらも、ハジメは拳ではなく言葉と心で彼らに向き合い続けた。
何度裏切られても、何度傷を負っても、彼はただ真っ直ぐに向き合い——
そして、勝利するたびに敵だった者がその姿勢に惚れ込み、自然と彼の背中についていくようになった。
気づけばその数は百を超え、千を越え、やがて**“荒くれ者を統べる王”**と呼ばれるようになった。
ただの王ではない、恐怖と畏敬、そして深い信頼を集める者——
いつしか人々は、彼をこう呼ぶようになった。
「魔王」と。
だが本人にその自覚はまるでない。
「魔王ってのはちょっと言い過ぎだよねぇ。俺、仲良くしたいだけなんだけどなぁ」
彼は今でも、笑ってそう言うのだ。
その表情には一切の威圧感も敵意もない。あるのは、人懐っこさと、底知れぬ余裕だけ。
「お前が……魔王……?」
トオルの中にいるエルダークが唸る。
「そそ。てかその体、借り物っぽいよね? そっちの中の人に伝えておいて。ここは譲れないって」
笑顔のまま、ハジメが手をかざすと——
「燃えちまえぇぇぇ!!」
エルダークが咆哮し、黒炎がハジメを飲み込む勢いで放たれた。
だがその瞬間、ハジメの体の前に**何か“見えない壁”**が現れる。
——《絶対障壁》。
「あー危な。ありがと、ユウキ」
笑いながら呟くハジメ。
彼のスキル《ギフテット》が発動していた。
仲間のスキルを50%の出力で使用可能——
今のは、仲間のひとり・絶対防御の使い手“ユウキ”の力だった。
「ふざけた能力だな……!」
エルダークが眉をひそめる。
カイが、興味深げにハジメへと視線を向けた。
「……毎度思うが、そっちのスキルのほうがチート感あるな」
「いやいやいや! そっちの“オールマイティ”のがぶっ壊れてるでしょ!? 適応とかズルじゃん!」
軽口を交わしながらも、二人の目はエルダークを決して逸らさない。
「……しかし、三大魔神が一体復活したってことは……」
ハジメがぽつりと呟く。
「これさぁ……他のやつらも復活フラグ立ってるやつじゃない?」
「メタ発言やめろ」
カイが即座にツッコむ。
「いや、なろう系でよくあるパターンじゃん。1体目復活→周囲がざわつく→謎の封印解けて他も出てくるやつ」
「だから、それを今言うなって……」
そんな緩い空気すら漂わせる二人の間に——
突如、地面が赤く光り始めた。
「!?」
「なんだ?」
ビシビシと地面がひび割れ、そこから煮えたぎるマグマが噴き出した。
そして——
その業火の中から、巨大な影がゆっくりと姿を現す。
「おいおい、まさかとは思ったが……来ちまったか」
エルダークが唇を吊り上げる。
「クク……相変わらず派手な登場だな、マグニート」
地底から現れた三大魔神のひとり——《熔魔》マグニート。
「お前が先に目覚めるとはな、エルダーク」
マグニートの声音は低く、マグマの泡のようにくぐもっていた。
だが、その目にはライバルを見る者の色が宿る。
「ふたりとも……面倒な奴が増えたな」
カイが軽く溜め息をつく。
「ほらな?」
ハジメがニヤリと笑う。
「……なろう系の見すぎだろ」
思わずカイが言い返すと、トオルの中のエルダークが吹き出すように笑った。
「いいな、お前ら。全然油断できねぇ状況なのに、余裕ありすぎだろ」
しかしその直後、空気がピリリと張り詰めた。
——三大魔神、二柱が並び立つ。
そしてそれを迎え撃つ、転生者二人の共闘。
物語は、次なる激闘の幕を開けようとしていた。
(つづく)
⸻