第6話 雷鳴と時空の剣
「……ん? こいつの体、思ってたより動くなぁ」
トオルの意識が遠のいていく中、内側から響く豪快な声。
その声の主は、黒煙とともにトオルの体へと憑依した魔神——エルダーク。
「なんだこりゃ。さっきのサタンとかいうのもアレだったが……あの剣、やばさビンビン伝わってくるぞ。最優先すべきは、あれだなー」
エルダークの目が、地面に突き立ったままの《時空剣ドラグーン》へと吸い寄せられる。
その言葉に反応するように、カイが声を発した。
「最優先は、時空剣の確保。サタンはどうなった……!?」
声色は落ち着いているが、その瞳は鋭く、確実に戦況を見据えている。
二人は次の瞬間、同時に動いた。
空間が鳴る。
身体が霞むほどの速度で地を蹴り、時空剣へと突進する二つの影。
先に触れたのは、エルダーク——いや、トオルの体を通して行動する魔神の手だった。
「よしっ!もらっ——」
瞬間。
ズンッ!!
轟音とともに地面が震えた。
カイが咄嗟に足を踏み込み、まるで地面を砕くような衝撃を発生させたのだ。
「うおっ!?」
動揺するエルダーク。
その一瞬の隙を、カイは見逃さなかった。
「——返してもらう」
カイの手がドラグーンを掴んだ瞬間、《オールマイティ》が発動する。
刹那、情報が脳内に流れ込む。
この剣の特性、構造、用途、そして今その内部に封じられている存在が“サタン”であること。
「……使えないか。ならば——守るしかないな」
カイの手の中で、ドラグーンが静かに脈打った。
そのとき。
「なら、これでもくらえ!!」
エルダークが叫ぶと同時に、**黒雷**が空を裂いた。
禍々しい黒い稲妻が蛇のようにうねりながら、カイの身体へと直撃する。
「くっ……!」
その電撃は、ただの雷ではない。
対象にまとわりつき、肉体を麻痺させ、動きを封じる魔神級の雷撃だ。
カイの身体が硬直し、その場で動けなくなる——
「そして追撃ぃ!!」
続けざまに、黒炎がカイへと襲いかかる。
地面を焼き、空気を歪める、決して消えない呪われた炎。
だが。
ズッ!!
その炎が、裂けた。
カイは完全に動けるようになっていた。
「……動ける、だと?」
《時空剣ドラグーン》が時空を裂き、黒炎をその裂け目の向こうへと投げ捨てていたのだ。
「ありえん……黒雷を受けたのに……!」
エルダークの目に疑念が浮かぶ。
「黒雷は、即死レベルの電撃のはず……加えて、まとわりついて動きを封じる……それが……効いてない……?」
理解が追いつかないエルダーク。
だが、カイは静かに言葉を紡いだ。
「……“適応した”。それだけだ」
《オールマイティ》が発動していた。
カイは、黒雷に触れた瞬間にその性質を解析し、肉体がそれに適応した。
雷撃を流し、焼けず、動きを封じられない構造へと変わっていたのだ。
「なら、もう一発ッ!」
再び放たれた黒雷が、カイを直撃——しかし。
「無意味だ」
まるで何事もなかったかのようにカイは歩を進め、拳を構えた。
「——ッ!」
その拳は、空を割るように振るわれた。
風圧すら殺傷力を持つ、神速の拳撃。
ゴッ……!!
エルダークが憑依したトオルの身体が、貫かれたかのように吹き飛んだ。
体内でエルダークの気配が激しく揺れる。
「……こいつ……ただの筋肉じゃないな……やるじゃねぇか、カイ」
笑い混じりにそう呟いたときだった。
——空から、黒き光が落ちてくる。
「……来たか」
カイがわずかに視線を空へ向ける。
そこに浮かんでいたのは——
漆黒のマントを羽織り、王冠のような意匠を持つ男。
眼光は静かに、すべてを見下ろしていた。
「……お前、何者だ」
トオルの口から、思わず漏れる。
カイは小さく呟く。
「……魔王、ハジメ」
異世界を支配する、もう一人の転生者。
戦場は、再び変貌を遂げる。