第3話『英雄カイ』
「どんな世界だろうと、俺は適応してみせる。それが“生きる”ってことだろ?」
生まれながらの“完璧”
風間カイは、生まれついての勝者だった。
幼い頃から誰よりも足が速く、成績も常にトップ。
その上、人当たりが良く、礼儀正しく、芯が強い。
それでいて、傲り高ぶることなく、いつでも誰にでも真摯だった。
彼の周りには常に人が集まり、誰もが彼に憧れた。
だが、彼自身はそんな評価に浮かれることなく、ただ静かに言うのだった。
「努力してるだけだよ。“向いてる”だけじゃ、勝てない」
才能に溺れず、黙々と努力を積み重ねるその姿は、まさに理想の人間だった。
──そしてある日、そんな彼にも、終わりが訪れる。
交通事故に巻き込まれ、即死。
無念も悔いも語らぬまま、彼の魂は女神に召喚され、異世界へと転生する。
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異世界で目覚めた彼に与えられたスキル。
「……《オールマイティ》、か。万能、って意味だな」
【スキル《オールマイティ》】
──あらゆる存在・状況・環境・スキル・魔法に対し、完全適応するスキル。
この世界の理に触れた瞬間、彼は直感する。
この力は、“理解”ではなく、“受け入れ”だ。
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◆熱を浴びれば皮膚が耐熱性に進化し、
◆毒に侵されれば体内で抗体が形成され、
◆呪いを受ければ精神構造がその波長に順応し、
◆あらゆる攻撃・環境・能力に対して、“適応”を繰り返す。
言い換えれば――
「一度効いた攻撃は、二度と通じない」
そのチート性能に、彼は驕らなかった。
むしろ、さらなる高みを目指し、剣を握り、魔法を学び、己の肉体を極限まで鍛え上げた。
「俺が最強なんじゃない。進み続ける限り、止まらないだけだ」
やがて彼は、“誰にも止められない個の力”を手にする。
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魔物の群れを一人で退け、災厄を未然に防ぎ、暴君を粛正し──
人々の前に現れたその姿に、民は頭を垂れた。
誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも先を見据える男。
誰に命令されるでもなく、王となり、国を束ね、民を導く存在となった。
人々は彼をこう呼ぶ。
英雄カイ――と。
ある日、草原の空に“黒い点”が現れる。
封印されたはずの魔神が、因果を逸れて動き始めた。
それは決して落ちるはずのない天の岩──
三大魔神・エルダークの封印だった。
カイ「……まさか、因果律を狂わせた存在が現れたのか?」
彼は即座に飛び出す。
風を裂き、大地を蹴り、異変の中心地へと真っ直ぐ向かっていく。
草原に――何かが起きている。
そしてそこにいたのは──
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